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第十話 セロテープ

 今日も、あんたらしい朝が来た。

 二日連続でよく眠る事が出来なかった俺は、窓辺に立って外の景色を見ていた。

 朝日を反射し、薄っすらと窓に写る顔に、疲労の色は濃い。

 目の下の隈、肌荒れ、顎に出来てる小さなにきび、そして酷い寝癖。

 ……寝癖はいつもの事か。

 そう、いつもの事。

 新しい朝なんか来ない。

 今日は単なる昨日の続きで、明日なんて無くて、永遠に切れないセロハンテープを伸ばすみたいに、朝が来るたび ずっと自分の今日が続いていく。

 来るのはあんたらしい朝だけ。

 姉ちゃんは意外と深い事を歌ってたんだなー……なんて考えてる俺は相当重症だ。

 視界のすみに制服が見えて、顔を向けた。

 ラックにぶら下がっている上着のポケット。

 その中に、昨日聞けなかった卯乃原の秘密が入っている。

『ウキヅカアキラに会った フォローしとけ』

 そう走り書きされた切れ端。

 卯乃原のポケットから出てきた以上、それは彼に宛てられたメッセージだ。

 じゃあ、一体誰が宛てたものなんだろう。

 最近会った顔を思い出そうとして、どうしても卯乃原の顔が浮かんでくる。

 だって、どう考えてもあいつくらいだし、最近ちゃんと話したのって。

 出て来るのは、屋上であった時の卯乃原の顔だった。

 眉を微かに歪めて、こちらを睨んでくる卯乃原。

 足が震えて、直ぐにでもその場に座り込みたくなるような。

 思わず、ぶるりと身震いしてしまう。

 思い出し怖がりをした俺は頭を振った。

 記憶を追い払いたかっただけなのに、ふらっと眩暈がして意識まで手放しかけた。

 か、考え方を変えてみよう。

 窓に手をついて、俺はそこに居る自分を睨みつける。

 あのメモは、卯乃原が書いたものだ。

 だったとして、問題は、誰に宛てて書いたものなのか。

 文面は俺に会ったから、フォローをしておくようにというモノだった。

 この場合俺に会ったのは卯乃原で、その所為でフォローしとかなくちゃならなくなった人物。

 相手――つまり俺に悪印象を抱かれたら困ると思っている人物だ。

 …………それって、告白してきた卯乃原じゃないか?

「あ〜〜も〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 俺は手でぐしゃぐしゃっと髪の毛をかき混ぜた。

 どっちに行っても卯乃原がいる。

 出て来る。

 卯乃原卯乃原卯乃原卯乃原。

 まるで俺が卯乃原に恋をしてるみたいだ。

 一晩中そんな風になってれば、そりゃ隈だって濃くなる。

(ま、まさか、これが意中の相手を想って眠れなくなるって事じゃないよな)

 ――ピンポ〜ン。

 ちょっとびびりながら自分に問いかけていたとき、玄関のチャイムがなった。

 俺は部屋の時計を見て首を傾げる。

「誰だこんな時間に?」

 時計の針は七時半を差していた。

 平日の朝のたて込んでる時間帯に来るなんて、なんて非常識なヤツなんだろう。

「晶ー、悪いけど出てくれるー」

 母さんが台所からそう言った。

「はいよー」

 俺は襖を空けて自分の部屋を出た。

「も〜、誰こんな時間に」

 同じタイミングで開いた隣の襖から、ドリフの爆発コント後みたいな寝癖の姉ちゃんが、俺と同じような感想を口にしながら出て来る。

 眠そうにあくびを噛みながら、そのまま洗面所へと消えていった。

 俺は姉ちゃんの後を追うようにして廊下に出て、玄関の明かりをつけて扉に駆け寄る。

 チェーンを外して鍵を開けると、はーいと返事をして、扉を開いた。

「あ、おは――」

 んで、直ぐ閉めた。

 ……何故ここにいる?

 扉を背に胸に手を当てて深呼吸をしていると、洗面所から歯ブラシを咥えた姉ちゃんが出て来た。

「ピンポン誰だったー?」

「き、気のせい」

「へー、すっげー不思議。って、なんかアキ酷い顔してるよ」

 俺の顔を見て、心配そうに姉ちゃんが近づいてきた。

「そ、そう? ね、姉ちゃんは今日も綺麗だよ」

「あれ、ありがと」

 素直に礼を言って、姉ちゃんはにこりと笑った。

 灰色のスウェット上下で、ぷくっとした唇の端には泡ぶくぶくつけてるくせに、本当に綺麗な笑顔だからイヤになる。

 ――ピンポ〜ン。

 もう一度チャイムの音が鳴って、その音を追うように天井を見ていた姉ちゃんが、俺の顔を見て首をかしげた。

「これも気のせい?」

「さ、さあ?」

 映画の中のアメリカ人みたいに俺が肩をすくめて見せると、姉ちゃんは頭を掻きながら扉を開けた。

「はーい」

「あ、どうも、おはようございます」

「おはよう、アキのお友達?」

「そうです」

 何事もなかったかのように、俺の背中の向こうで展開される会話。

 俺はそちらが見れない。

 見れないのに。

「ねえ、ほらアキお友達だって」

 トントンと肩を叩かれて、大きく溜息をついた。

 ゆっくりと振り返る。

「あ、おはよアキ」

 そこには、にこやかに片手をあげて挨拶をしてくる、卯乃原叶の姿があった。


※読みやすさを考慮して、あとがき削除しました。

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