表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/130

ウイド将軍とカンザ、蹂躙される(3)

 私は、栄えあるワウチ帝国の将軍。それも、皇帝陛下と直接謁見できる立場にまで上り詰めた将軍。


 もはや、大将軍と言っても過言ではないウイドである。


 我らがワウチ帝国は戦闘国家と呼ばれているが、それは間違いではない。

 どんなにきれい事を喚いたとしても、力がなければ踏みつぶされるだけだ。


 そうならないように、我らは力を磨き続けてきた。

 その結果、戦闘国家、武装国家等と呼ばれるに至ったのだ。


 では、戦闘力を上げるにはどのようにすれば良いか。それは至極簡単だ。


 常に戦闘に身を投じれば良いのだ。

 幸い、皇帝陛下も私の考えと同じ思想を持つお方であったため、ワウチ帝国は、周辺国家と戦闘を繰り返し、領土を広げつつ、戦闘力を上げていた。


 だが、この世界には悪魔の王が現れた時の対策として、上位スキルを持つ者達を選抜し、鍛えるという義務がある。

 常に戦闘に身を置いている我らワウチ帝国も例外ではない。


 その活動、もちろん他国の活動についても情報を常に仕入れているのだが、近年、今までに無い程の力を持つパーティーが、ソレッド王国の所属になっているという話が上がってきた。


 そのリーダーがカンザ。

 スキルは、上位スキルの<槍聖>。パーティーメンバーも上位スキル持ちで構成されているが、一人だけ不遇と言われているスキル<統べる者>だという事が判明している。

 もちろん、不遇スキルだけあって、スライムを一匹使役しているだけだそうだ。


 私としては、<統べる者>を持つ者はどうでも良いが、噂通りの強者であれば、是非とも我が配下に欲しい所だとは思っているので、カンザの動きには特に注意を払う事にしていた。


 だが、カンザ達がどのような動きをするのかは不明であったので、ワウチ帝国としては、積極的にソレッド王国に戦争を仕掛けるような事はしなかった。


 理由は、カンザの事だけではない。常に他国と戦闘状態にあるので、一先ずその戦闘を終了させないと、軍の疲弊が大きくなる。


 更に、ソレッド王国は強大な軍を持っている事で有名だ。

 そして、個人としても、カンザ一行の他に、最上位スキルになった存在までいるのだ。


 このままの状態で、安易にソレッド王国に戦闘を仕掛ける訳にはいかないと思っていた。


 そう思っていたのだが、諜報部隊が面白い情報を持ってきた。

 曰く、ソレッド王国の軍は壊滅的な被害を受けたそうなのだ。


 そして、これは諜報部隊からではないが、ソレッド王国に所属していたはずの辺境伯三名が離脱して独立した事。

 その辺境伯側に、最上位スキル持ちが移動している事だ。


 だが、あまりにも衝撃的な情報である為、皇帝陛下と相談の上、噂の真偽を確認する事にした。


 最上位スキル持ち二人と言う情報に関しては、いつの間にか最上位スキル持ちが三人に増えてはいたが、グリフィス王国からの神託の公開の時点で、元辺境伯領地にいる事は確認できた。


 とすると、残りは軍の壊滅だ。だが、正直この噂は簡単には信じる事ができなかった。

 ソレッド王国が戦闘をする状況と言えば、恐らく独立を阻止するために、辺境伯達に軍を差し向ける位だろう。


 だが、辺境伯側の独立宣言が突然であり、我らも独立に関して何の情報も掴めていなかった事から、万が一互いに戦闘が行われたとしても、一瞬で勝負がついてないとおかしいのだ。

 そうでなければ、何かしらの情報を得る事ができていたはずだからだ。


 そうなると、一瞬でソレッド王国の軍を壊滅させる何かが行われた事になる。

 そんな事は不可能だ。


 ソレッド王国の挙動がおかしいと感じてから、独立宣言までは時間がなかった。

 つまり、軍を壊滅させるほどの大魔法の準備時間すらなかったのだ。


 真偽を確認するべく少数精鋭の部隊を引き連れて、ソレッド王国に侵入した。


 やがて、ワウチ帝国側に存在するナルバ村と言われる場所に近づいたが、この辺りの魔獣は、我らが知っている魔獣よりも想定以上に脅威度が高かったのだ。


 こんな魔獣がいるのであれば、ソレッド王国の軍が強いのも理解できるというものだ。


 少数で進軍しているために、極力戦闘を行わない方向に切り替えて、ナルバ村に侵入した。

 そこは、既に人が住めるような状況ではなく、まさに魔獣によって侵略された様相ではあったが、不思議と一軒だけ、無傷で存在していたのだ。


 さしあたり、我らはその建屋に侵入して休憩をとる事にしたのだが、そこで、隻腕となっていた選抜最強と言われているカンザと出会ったのだ。


 話をすると、カンザはソレッド王国に裏切られ、不本意ながらもこんな村で生活をしているらしい。

 そして、ソレッド王国への復讐心を隠す事なく、呪詛を吐き続けていた。


 私は、即座にこのカンザをワウチ帝国に引き入れる事を決めた。

 こいつは、貴族の出と聞いているし、ソレッド王国の最強パーティーとして名を馳せていたため、機密情報を持っていると判断したのだ。


 もちろん、カンザ本人の口からも同じような事が伝えられていたので、当然軍に対する情報も持っていると判断した。

 万が一持っていなかったとしても、我らがソレッド王国に攻めるために有益な情報を数多く持っているだろう。


 この場で確認しても良かったのだが、初対面の元敵国に対して、安易に情報を開示するとは思えなかった。

 少しでも自分を高く売るのは世の常だ。


 その源となる情報を、簡単に伝えて来るとは思えない。

 少なくとも、見返りを与えてから聞くべきだろう。


 とすると、ここに長居は無用であり、カンザも同様の考えを持っているようなので、即時撤退する事にした。

 そして、ワウチ帝国に帰還後にカンザから得られた情報は、やはり軍の壊滅は事実である事、最上位スキル持ちはグリフィス王国にいる事が確認できた。


 驚いた事に、一部想定になるようだが、最上位スキル持ちは三人ではなく五人、<統べる者>を持つ者の両親も最上位スキルの可能性がありそうだとの事だ。


 この情報を考慮した結果、先ずはソレッド王国を攻め落とす事にした。

 他国が何か文句を言ってきた場合、最近は特に我らの他国への侵攻が多くなっている事から、文句が非常に多くて辟易しているが、選抜最強のカンザを無下に扱った報復と言えば良いだろう。


 想定通り、いや、想定以上にソレッド王国への侵攻は容易いものだった。

 あまりにもあっけなかったので、拍子抜けしたほどだ。


 だが、王城の内部に侵入した時だけは、少々手を焼いた。

 王族や貴族を発見する事ができなかったからだ。


 しかし、ここでカンザの知識に救われた。

 難なく隠し部屋を暴くと、その後、自らの両親すら平気で切って捨てて見せたのだ。


 こうして、一旦休息をとる事にした私は、いつの間にか宝の山が積まれている部屋に移されていた。その価値をどの程度か考えていると、見るも無残なカンザの呻き声で、この部屋には私以外の面々がいる事に気が付いた。


 少々油断して、気配察知を怠っていたようだ。


 しかし、カンザの近くにいるのは下級悪魔。あの程度では私の敵にはなり得ない。

 他にこの部屋にいるのは、無駄に豪華な椅子に座っている何の力のない者と、その執事らしき初老の者。


 どう言った状況かはわからんが、万が一我らに歯向かうのであれば、この場で切って捨てれば良いだけだ。

 既にグリフィス王国についても情報も得ているので、あの無様な姿を晒しているカンザはここで放置でも良いだろう。


 話を聞くと、こいつらは、我らワウチ帝国がグリフィス王国に攻める事を阻止しに来たという。

 我が軍に対して、たったの三人でこちらに歯向かうようなのだ。

恐らく、下級悪魔の力を過信しているのだろう。だが、戦闘国家の異名は伊達ではない。


 私でなくとも、下級悪魔程度であれば、難なく退ける事ができる者は複数いる。

 私は余裕をもって戦闘を始めたのだが、予想外の事が起きたのだ。


 椅子に座っている奴は下級悪魔を私との戦闘から離脱させると、もう一人を召喚?したのだ。

 金髪の美しい女性だが、圧力が桁違い。


 しかも、徐々にその圧は増してきており、圧に屈してその場にへたり込んでしまった。


 こんなバカげた力など、見た事も聞いた事もない!


 我ら全軍をもってしても、勝てるわけがないと理解してしまったと同時に、ソレッド王国の軍が壊滅的な被害を受けた理由も理解してしまった。


 あいつらも、我らと同様にグリフィス王国に攻めようとして、この女によって滅ぼされたのだ。


 これ程の力、万が一すら起きない程の力の差。もう駄目だ。

 今までの経験から、私は常勝無敗と思っていたが、そんな域を超越している力。

 こんな力を持つ奴に牙を剥いたのが間違いだ。


 しかも、これ程の力であるにもかかわらず、まだ圧は上がっている。

 もう、勘弁してくれ……

 視界の片隅では、カンザも同様に地面に無様に転がり痙攣しているのが見えた。


 その記憶を最後に、私は意識が遠のいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ