ウイド将軍とカンザ、蹂躙される(2)
新作 副ギルドマスター補佐心得
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ウイド将軍は、横目でキグスタとヨハンを確認しており、警戒態勢をとっている。
正面にはカンザと下級悪魔と言う立ち位置で、キグスタに目を向けた。
キグスタは、ヨハンが出してくれている椅子にゆったりと座り、事の成り行きを見ているようだ。
「そこのお前は何者だ?貴様がこの悪魔を召喚した者か?何のために召喚したのかはわからんが、ソレッド王国を守るためならば既に手遅れ。そうでないとするならば、フム、理由がわからんな」
下級悪魔程度に遅れは取らないと確信しているウイド将軍は、一先ず自分の置かれた状況を把握しようとしている。
流石は歴戦の猛者。動揺せずにこのような行動がとれるようになるまでは、本人の資質もあるが、相当の経験が必要になる。
大抵は、この域に達する前に命を散らしているのだから、戦闘国家の将軍となれたのも頷ける。
「俺達は、ソレッド王国がどうなろうと知った事じゃない。だが、お前達は、グリフィス王国にまで戦争を仕掛けようとしているな?そこは決して許容できない」
豪華な椅子に座りながら、キグスタがウイド将軍に回答する。
将軍は、合点がいったとばかりに、大きく頷いて見せた。
「なるほど、ソレッド王国ではなくグリフィス王国の方でしたか。だが、こんな下級悪魔程度で我らの侵攻を防げると思っているとは片腹痛い。そもそも、そのカンザ殿も隻腕で本来の力を出せていない。そんな状態のソレッド王国最強と言われている者を痛めつけただけで、天狗になっているのかな?」
万全の状態でも、カンザはこの下級悪魔に手も足も出なかったとは知らないウイド将軍。
今までの経験から、キグスタからは強者独特の雰囲気が一切ないので警戒は解いていないが、少々軽く見ている。この物言いも、その余裕の表れだ。
もちろん、後ろに控えているヨハンも、内に秘めている強大な力を一切表に出していない。
「お前こそ、何の罪も犯していないグリフィス王国に攻め込むとは、天狗になりすぎだな」
キグスタのブレない態度に、ウイド将軍は若干警戒度合いを上げた。
明らかに自分の戦闘能力のほうが圧倒的に高いはずなのに、一切臆することのないキグスタ。
とすると、何かしら奥の手を隠していると考えるのが普通だからだ。
警戒しつつも、持論を展開する。
「我らは、これまでもこうやって国力を大きくしてきた。それはこれからも変わらない。文句があるのならば、抗って見せればいいのだ」
ウイド将軍としては、ここまで断言すれば、多少はキグスタが怯むのではないかと考えていた。
圧倒的な戦力で、慈悲もなく攻め込むと言っているのだから……
しかし、キグスタの反応はウイド将軍の想定を大きく外れるものだった。
「あ~、お前もバカだったか。まるで民の事を考えない。ソレッド王国の国王と同じレベルだな。とすると、お前のような者を臣下としている皇帝のレベルも目クソ鼻クソだろうな」
自らが誇りをもって仕えている皇帝に対して、これ以上ないほどの侮辱的な発言をして見せたキグスタに対して、ウイド将軍は間髪入れずに攻撃を始めた。
そこに割り込んだのが、カンザを放り投げて移動してきた下級悪魔だ。
初撃をはじき返すが、やはり力はウイド将軍の方が上回っているようで、若干後退している。
「貴様!下級悪魔程度を従えて良い気になるなよ?こんなゴミはこの私にかかれば滅する事は造作もない。目の前でお前の切り札が蹂躙される様を見て絶望するがいい。そして、下級悪魔の次はお前だ。首を洗って待っていろ!!」
今度は下級悪魔から攻撃を仕掛けようとした所、キグスタからの命令が出た。
「おい、お前は下がっていていいぞ」
「……お力になれず、申し訳ございません」
少しだけしょんぼりとして、カンザの近くまで下がる下級悪魔。
想定の動きと全く違う状況に陥って、どこに攻撃を仕掛ければ良いかわからなくなってしまったウイド将軍。
「我が君、英断ありがとうございます。あ奴では、残念ですがあの将軍には勝てません。力不足であるが故に致し方ない部分もあるのですが、我が君に絶対の忠誠を誓っている手駒が減るのは避けたかった所です」
ウイド将軍は、ヨハンが何を言っているのか必死で理解しようとしていた。
あの物言いから察するに、ヨハンが下級悪魔よりも自分の方がはるかに強いと言っているからだ。
だが、ヨハンからは強者の気配は一切感じる事はできない。
混乱しつつも必死で状況把握に努め、次の攻撃のターゲットを選定しようとしているウイド将軍をしり目に、キグスタ達はまるで脅威など何もないとでも言わんばかりに、話を続けている。
「いや、あいつは良くやってくれて助かっているよ。な?今後もよろしく頼むな」
「もったいないお言葉です!!!」
至上の主であるキグスタから、まさに今、不本意な戦闘結果を見られたにも拘らず、まさかのお礼を言われた下級悪魔は、感激のあまりに声が震えていた。
そんなやり取りを見せられているウイド将軍は、自分が真面に相手にされていない事を理解し、激怒する。
「貴様ら、このワウチ帝国の将軍であるこのウイドを愚弄するか?」
ここで、ようやくキグスタが下級悪魔からウイド将軍に目を移した。
「ああ、悪かったね。だが、努力してくれている部下を労うのも、上に立つ者の務め、わかるだろ?いや、お前らのような奴らは理解できないな」
馬鹿にするような物言いに、怒りを抑えきれないウイド将軍だが、怒りによって我を忘れるような事にならないように、必死で心を押さえつけていた。
「フ、フフフ、無駄な挑発だぞ。その程度の挑発で、この私が怒りで判断が鈍るとでも思ったか?」
「いや、本当に思った事を言っただけで、別に他意はない」
あっさりと回答され、言葉に詰まるウイド将軍。
「く、ふ~、良いだろう。貴様の自信がどこから来るのかはわからんが、この私を侮ったこと、後悔させてやる」
ウイド将軍は、呼吸を整えて内なる力を開放するように精神集中する。
これは、将軍が本気になった時に行う所作だ。
実はこの将軍、最上位スキルである<拳神>を持っていたりする。
「ヨハン、四人の中で、今あっちで顕現していないのはいるか?」
キグスタは、慌てるわけでもなく、アクト、ソレイユ、ソラリス、ハルムの何れかが、ワリムサエの町にある家で活動していない者が誰なのかを聞いている。
「今は、ソラリスになります。他の三人は、それぞれ我が君の奥方様に付き従っております」
「わかった、ありがとう。よし、来いソラリス!」
「主、武神ソラリス、馳せ参じました」
黄金色の長い髪をなびかせながら、流れるような所作で跪く武神ソラリス。
当然、ウイド将軍が攻撃態勢に入っている事など理解しているが、何の脅威もないと言わんばかりに、キグスタの正面で跪いている。
つまり、ウイド将軍に無防備なその背中を向けているのだ。
「楽にしてくれ。それで、既に理解していると思うけど、あそこにいるワウチ帝国の将軍らしいのだが、少しオイタが過ぎるので、躾てくれるか?」
ウイド将軍は、目の前に現れたソラリスを見て、自分がこの部屋に飛ばされた時とは違い、明らかにキグスタが意図して呼び寄せたと理解した。
つまり、通常、個人で行使するのはありえない転移系統の魔法を、キグスタ個人が行使したと理解したのだ。
実際は少し違うのだが、ウイド将軍は、キグスタの今までの余裕の態度、そして見せつけられた力の片鱗によって、目の前の椅子に座っている男が、今まで戦ってきた相手の中でも、最強の相手である事を理解した。
「それがお前の切り札か。なるほど、転移まで使えるのであれば、その余裕も頷ける。危機に陥った場合に逃走ができるからな」
「あん?お前、何様だ。主の許可なく口を開いたばかりか、主に対してその物言い。身の程を知れ!」
キグスタを馬鹿にされたと判断したソラリスは、内に秘めた力を開放し始めた。
「こ、これは?ひっ、バカな…待ってくれ」
少ししか力を開放していないにもかかわらず、既に腰が抜けて体中の穴から液体を出しているウイド将軍。
そして、ついでに、意識すらないカンザ。
だが、主を馬鹿にされたソラリスがそんな懇願を聞く訳はない。




