カンザ、ソレッド王国滅亡に歓喜する
既にソレッド王国の王都は、荒れに荒れた状態になっている。
家屋は破壊され、一部には火が立ち上り、商店などは見る影もない。
もちろん、王城も例外ではない。
実は、高位貴族や王族のみ知り得る王城の隠し部屋が王城には存在する。
ここに国王以下貴族達が身を潜めていたのだが、カンザの情報によりあっさりと暴露されて、全員が謁見の間で転がされている。
数日前までは、国王が座っていた玉座。
そこには、ワウチ帝国のウイド将軍が座り、その横にはカンザが椅子を持ち出して座って、王族と貴族を見下している。
その中には、カンザの両親も存在した。
「カンザ、我が息子よ。私達もワウチ帝国に亡命する予定だったのだ」
「そうよ、少し前からその話をしていたのよ」
クズの両親はやはりクズで、ありもしない話をでっちあげて、自分の身を守ろうと必死だ。
だが、クズ中のクズであるカンザには、その程度の言葉で心が動くことは無い。
「ハン、何を言っている?お前らの運命はどうあっても変わらない。俺を体よく追い出したあの瞬間、俺達の血の繋がりは断ち切られたんだ」
その様子を見ているウイド将軍は、カンザの狂気を確かに見た。
この男であれば、国家だけではなく、平気で身内すら切る事をするだろうと確信した。
いや、実際に目の前で国家を破壊し、更には両親すら容赦なく捨てようとしている。
その狂気を目の前で見せられたウイド将軍。選抜最強と言われていたのも、あながち間違いではないと思ったのだ。
そんなやり取りを、虫型魔獣の力でしっかりと観察しているキグスタと超常の者達。
もちろんその観察の場には妻達はいない。
特に、完全に他人であると言い切っていたナタシアだが、実の父親が断罪されるのだから、こんな情報を知らせる訳には行かないのだ。
以前、さりげなくソレッド王国滅亡の危機が迫っているとは伝えていたキグスタだが、その時のナタシアの返事は、
「あら、ようやくですか?もう既に滅んだと思っていました」
と言う物だった。
その、滅亡直前になっている国家の国王だが、
「カンザ、貴様!この裏切者の反逆者が!!貴様が隠し部屋の情報を言わなければ、このような状態だけは…最悪の状況は回避できたのだぞ!!」
王都の住民がどうなろうとも、自分が助かったかもしれないのを邪魔したのが悪だ!と喚いている。
「何とも信念のない国王だ。これではだれもお前程度について行く者は現れないだろう」
ウイド将軍の哀れみのこもった声に、黙り込んでしまう国王。
しかし、カンザを睨みつけるのだけは止める事はなかった。
「とりあえず、こちらの戦力には一切の被害がなかった。思った以上に拍子抜けだ。軍が壊滅的な状況とは聞いていたが、残った面々が揃いも揃って腰抜けだとは思わなかったぞ。そのおかげで、こちらは無傷だったのだから助かってはいるのだがな」
悔しそうな表情をする国王と一部の貴族。
残りは、これから自分がおかれる状況に、恐怖の表情を浮かべているだけだ。
この場に転がされているソレッド王国の人間は、カンザの両親を含めて十人。
捕虜としては少ない人数だが、既に抵抗するための軍、いや、人すらいない国家に対して、捕虜を確保しても仕方がない。
そんな事は既に理解できているソレッド王国の面々。
やがて、少々反抗的な態度を取っていた国王や一部の貴族達も、この世の終わりのような顔をして、一言も発することが無くなった。
「既に理解してもらえたようだな。我らワウチ帝国が元ソレッド王国を統治する。その際に、お前らは邪魔だ。だが、我らは完全にソレッド王国を掌握したわけではない。お前らも知っての通り、ソレッド王国から独立した辺境伯がいるだろう。そこも含めて制圧してこそ、完全にソレッド王国を統治できたと言えるようになる。その為に、有益な情報を差し出した者には、命を助ける事を約束しよう」
途端に、我先にとグリフィス元辺境伯や、残り二人のウィンタス元辺境伯、カルドナレル元辺境伯の知り得る情報のすべてをまくしたてる面々。
その無様な行いをしている者には、当然国王も含まれている。
若干汚い者を見る目で彼等を見ていたウイド将軍だが、全員が喚くように情報を伝えて来るので、碌に聞き取ることもできていない。
「少し黙れ!!」
威圧してやると、途端に静かになる面々。
呆れつつも、的確に指示を出す。
「いいか、お前らが勝手に叫んでも、俺は理解する事が出来ん。それぞれを別の部屋に移動させるので、そこで担当となった者に全てを話せ。連れて行け!」
ウイド将軍の命令によって、転がされている面々は、個々に乱雑に扱われて、別の部屋に移動させられている。
「ウイド殿、あんな奴ら、情報を得た後に生かしておいても、何の役にも立たないぞ」
「フフフ、そんな事は百も承知。個別に話をさせるのは、お互いの状況を分からなくするためだ」
ウイド将軍は、個別に情報を引き出せば、全員を始末する気でいるのだ。
全員の前で一人を始末すると、恐怖によって正確な話を出来なくなる可能性がある。
ヌクヌクと生活してきた貴族であればあるほど、その傾向は強い。
これまでの状況を見て、ウイド将軍は目の前で一部の者を亡き者にして他の面々に恐怖を与えて情報を引き出すよりも、個別に話をさせた方が有益だと判断したのだ。
実際、その判断だけを見れば正しかったと言えるだろう。
こうして、ウイド将軍の指示により、全ての情報を引き出された面々は、個別に始末された。
だが、この得られた情報は、最新の防壁が完成しているグリフィス王国のものではなく、辺境伯時代の各領地の話だけであるので、はっきり言って使い物にならない情報だが、何も知らないウイド将軍にとってみれば、何よりも価値のある情報だった。
例えば、夜に侵入しやすい経路、チェックが緩い門の場所、全てが有益な情報に見えたのだ。
もちろん、個別に得られた情報に齟齬がないか、ある程度は確認しており、全て正確な情報であると判断していたのだ。
一方のカンザは、自分を惨く切り捨てた両親と国王、そして国家に対しての復讐が完了し、歓喜の渦に包まれていた。
カンザは、ワウチ帝国をうまく使ってソレッド王国とグリフィス王国を滅ぼす予定であり、ソレッド王国に関しては、容易に達成する事ができた。
もし、カンザの頭脳が、プライドの塊ではなく、現状や今後起こり得るだろう様々な事を想定して考えられるレベルにあれば、今後も、もう少しうまく事を運べたに違いない。
だが、カンザはしょせんカンザ。
ある意味、周りの期待を裏切らない行動しかとれないのだ。
古いパソコンでなんとかなりそうな気配です。




