ソレッド王国とワウチ帝国
ワウチ帝国の面々は、同行しているカンザの提言の通り、ナルバ村を迂回する順路でソレッド王国の王都に進軍している。
幸か不幸か、そのせいでフラウ、リルーナ、ホールは、ワウチ帝国とカンザを相手にした余計ないざこざは起こらなかった。
一方、自らの国家最大の危機と認識しているソレッド王国の国王は、グリフィス王国へ送り出した使者の帰りを今か今かと待っていた。
その時には、既にキグスタからガーグルを通して、ふざけた報酬の内容までグリフィス国王に伝えられていたので、もちろんソレッド王国の国王の願いはかなう事はなく、使者はいつもの如く門前払いを食らっていた。
と同時に、ソレイユによって集められていた情報によると、ワウチ帝国側に隻腕のカンザがいる事が判明した為、キグスタはナルバ村への偵察をアクトに命じた。
ひょっとすると、カンザが他の三人を何らかの方法、例えば睡眠中に攻撃し、ソレッド王国最強パーティーメンバーである三人を手土産にして、ワウチ帝国に亡命した可能性も捨てきれないからだ。
瞬間でアクトは帰還し、残りの三人は、瘦せこけた状態ではあったが、何とか生活をしていると言う事が確認できた。
とすると、どのような経緯かはわからないが、カンザの単独でワウチ帝国に亡命している事だけは確認できたキグスタ。
あれ程忠告してやったにもかかわらず、こちらに攻めてきているのだから、当然更に重い罰を与える必要があると考えている。
とは言え、今の所はグリフィス王国に牙を剥いている訳ではなく、キグスタとしてはどうでもよいソレッド王国に対して攻撃をしようと進軍している最中なので、とりあえずは静観する事にした。
グリフィス王国に助力を求めに来た使者は、手ぶらで帰ると、国王の手による物か、ワウチ帝国の軍による物かはわからないが、自分の命が無くなる事を理解しているのか、グリフィス王国の入場門の外で野宿を始めた。
その使者を、門番が入場門に設置した精霊の力を借りて悪意を判定する水晶で鑑定した結果、真っ赤も真っ赤。明らかに悪意がありますよ!と言う色に変化したので、この使者のおかげで門番たちは水晶が正常に機能している事を確認する事ができたと喜んでいた。
そのお礼か、一晩だけは野宿を見逃すことにしたらしいが、翌日の夜には、追っ払うと言う事だ。
翌日の夜、キグスタの元に門番から依頼が来た。
「キグスタ様、大変申し訳ありませんが、昨日からこちらに来ているソレッド王国の使者ですが、追い払ってはいるのですが、キグスタ様が作成された防壁周辺を移動するだけで、ソレッド王国に帰ろうとしないのです。キグスタ様の力でどうにかなりませんでしょうか?」
ここの門番の力があれば、あんな使者程度であれば苦も無く強制的に追い払う事もできるのだが、一応新興国と言う事で、これから滅亡する可能性が高いとはいえ、既存国家の使者に対して、あまりにも強硬な行動は取れないでいるのだ。
「わかりました。それじゃあ、その使者とやらをソレッド王国の王都に…いや、王城の国王の前に送り届けてきますよ。ヨハン!」
「はっ、ここに」
目の前にヨハンが急に現れたため驚く門番だが、キグスタ程の力があればその程度は造作もないのだろうと納得し、お礼を伝えて門番の仕事に戻っていく。
「聞いての通りだ。ふざけた使者を送り届けると共に、国王に詳しく状況を教えてやろう」
「承知いたしました」
既に門の外をウロウロしていた使者一行、と言っても三人だが、捕縛された状態でキグスタの目の前に転がっている。
ヨハンが超常の者達の誰かに頼んで対象を捕縛後、即キグスタの前に転移させたのだろう。
この程度では驚くことのなくなったキグスタは、落ち着いた表情だ。
「よし、じゃあ行くか」
その声がかかると共に、即全員がソレッド王国の王都にある王城内部に転移した。
「うわっ、おい、いや、キグスタ様。お待ちしておりました。我らの望みを聞き入れて下さったのですね。約束通り、報酬は王都に住む者達です」
国王は、目の前に現れたキグスタが願いを聞き入れてくれたと思いお礼を伝えている。
しかし、良く考えれば使者が簀巻きにされて転がされているのだから、そんな訳はないと分かるはずだが、愚王故に、カンザと同じく都合の悪い部分は見えないし聞こえない。
いやらしい笑顔を向けながら、キグスタにお礼を伝え続けている。
キグスタは、あからさまに嫌悪感丸出しの表情をして、国王の訳の分からない妄言を止める。
「おい、少しうるさいぞお前。訳の分からない事ばかり。何故俺がお前如きの頼みを聞かなくてはならないんだ。それに、王都の住民など必要ない。いまこの王都にいる住民は、俺やグリフィス王国に悪意のある者しかいないからな。どうなろうと知った事じゃない。あ、もちろん悪意のない者は既に救出済みだから安心してくれ」
「そんな。キグスタ様、お助けください。もし助けて頂けたら、宰相としてお迎えします」
この期に及んで、自分の上の立場には決してさせない愚王。
しかし、仮に国王にさせると提言しても、キグスタはこんな願いは叶えるつもりはない。
「そんなものは不要だ。そうだ、良い事を教えてやろう。ワウチ帝国の連中は、カンザと共にこちらに向かっている。数日のうちにこの王都に到着して、全てを蹂躙しつくすだろう。あのゴミカンザも、お前には恨みがあるようだから、どうなるか楽しみだな。以前お前達が俺にしていたように、高みの見物でもさせて貰うつもりだ。せいぜい抗って見せるんだな」
「カンザ!あの裏切者め、軍を壊滅にまで追いやるだけでなく、国家をも裏切ったのか!!」
「そうそう、もう一つ教えてやる。こいつら、使者として良い返事を持ち帰れないと分かったとたん、この王都に帰還する事を止めて、無様にグリフィス王国の近くで野宿してたんだぞ。大した忠誠心だな」
「貴様ら~!それでもソレッド王国の使者か!!」
怒り心頭の国王だが、簀巻きの使者三人はモゾモゾ動くだけで、何も喋る事はできない。
その行動が余計に国王の怒りを煽ってしまったのか、はたまた、絶望的な状況に陥ってしまったが故の現実逃避か、簀巻きの状態で一切抵抗のできない使者三人に、止む事のない暴力を加え始めたのだ。
「は~、これが一国の国主か。こんなんじゃ、遅かれ早かれ滅亡するのは避けられなかっただろうな」
キグスタの呟きを拾えるわけもなく、呻き声すら出さなくなった使者三人にひたすら攻撃を加えている国王。
髪を振り乱し、目は血走り、とてもまともな人間とは思えない。
「おい国王!」
キグスタの声で我に返る国王。
その足元には、血まみれの物言わぬ元使者三人。
簀巻きの三人を指指してこう言い残し、キグスタはソレッド王国を後にする。
「あと数日で、お前もそうなる番だ。せいぜい頑張れよ」
数日後、キグスタの宣言通りワウチ帝国の軍が王都に来襲した。
対策が打てる時間は有ったのだが、戦力が一切ないソレッド王国の住民や王族、貴族は蹂躙されつくした。
何やら最近は運がないのか、パソコンが壊れました。
明日まで予約投稿は済んでいますが、この後書きも、スマホで追加しています。
古いパソコンが使えるか、明日確認します。
はぁ




