ギルドへの報告
続きます
四人がギルドに戻ってきたときには、すっかり夜も更けていた。
しかし、夜行性の魔獣も存在しており、その討伐依頼を受ける冒険者もいる為、どんな時間でもある程度の冒険者や受付はギルドの中に存在している。
そこに国家に選別されたパーティーが帰還したのだ。
彼らの動向は常に注目を受けており、当然あるダンジョンの攻略をしようとしていた事も公になっている。
もちろん下級ではあるが、悪魔が現れたあのダンジョンに再アタックをかけた事も知られている。
そんなダンジョン攻略に大荷物を持って出立した五人、そして今ギルドにいるのは何の荷物も持っていない四人。
冒険者は死と隣り合わせの職業だ。これは、ソレッド王国に選抜された上位スキル持ちであっても逃れられない現実。
そして、今は魔王か魔神が顕現したと言われており、魔族の動きが活発になっている。
そんな中での人数減少。この場にいる冒険者達は即座に事情を理解した。
いなくなっているのは……荷物持ちのキグスタ。
戦闘力や回避能力が一番低い人間なのだから、死亡する確率も高いのは理解できてしまう。
「ちょっといいか?」
受付の精霊王に向かって、カンザがぶっきらぼうに話しかける。
もちろんただの受付と思っているので、実は精霊王であるとは気が付くわけもない。
だが、カンザやパーティーメンバー一行としては、この精霊王の受付は、お邪魔虫のキグスタと談笑している受付なので、あまり良い思いは持っていない。
「なんでしょうか?」
精霊王である受付も、いつもの笑顔ではなく能面のような表情でカンザに対応する。
彼女の内心では、どうやってキグスタの指示を全うするか……つまり、カンザ一行を見逃すかに全神経を集中している。
そうでもしないと、ここで暴れてしまいそうになるのだ。
そんな事をすると、キグスタの顔を潰すことになるし、精霊神ハルムと、その上役である主神であり魔神でもあるヨハンからキツイお仕置きがあるのは目に見えている。
ギルドで話しかけている受付が精霊王であるとは知るはずもないカンザ。
普段通りに少々上から話しかけている。
彼からすれば、ソレッド王国に選ばれた上位スキル持ち。
そして、パーティーメンバーには隠しているが、実は貴族の出身だ。
民を思うような心は持ち合わせていないので当主が困り果てていた処、神託の儀で上位スキルが出たため、これ幸いと追い出されたのだ。
彼の中では、聞いたこともないような辺境の村出身の連中とパーティーを組むなど面白くはなかった。
だが、いざ顔合わせをすると一目で気に入った女がいたので、即決でパーティーに入ることにした。
その相手が……<剣聖>のスキルを持つフラウだ。
当初フラウは<統べる者>と言う謎スキルを持っているキグスタにつきっきりで、同じ村出身と言っていた<拳聖>を持つホールと、<魔聖>を持つリルーナも二人を応援していた。
だが、三年の修行中に自分の力を見せつけてキグスタが如何に役にたっていないか、更には他の上位スキル持ちにも自分たちは選ばれた人だと言う特権意識を徐々に植え付けて行った。
一方のキグスタも、特別攻撃が強い訳ではなく荷物持ちと言う仕事を率先して実施していた為、その仕事が定着してしまい、余計見下されやすい環境になったのだ。
そして現在、自分たちは特別であると言う意識を持った他人を見下すパーティーが出来上がったのだ。
同じ村出身の友人、血が繋がっていない自分を本当の妹のように大切にしてくれた人を平気で裏切れる人に成り下がった。
その原因であり、代表であるのが貴族出身のカンザだ。
「ギルドマスターに報告したいことがある。大至急取り次いでくれ」
いかにも少々焦っていますと言う雰囲気を醸し出して受付に伝える。
もちろん受付である精霊王は、カンザがなぜこんな雰囲気を出しつつ少々大声で話しかけたのかは理解してる。
至高の主であるキグスタを裏切って死亡させた(と思っている)報告をするのだが、わざと少々焦っている雰囲気をこのギルドにいる面々に認識させるために大声になっているのだ。
そうすれば、まさか自分達が罠にはめて置き去りにしたなどとは思われもしないだろうと言う魂胆だ。
怒りによる震えを必死で抑えつつも、能面のような表情で精霊王は答える。
「こんな時間に何故でしょうか?そういえばキグスタ様が見えませんね。どうしました?」
「それを報告しようと思っているんだ。早くしろ!」
”はい”以外の返事が来るとは思ってもいなかったカンザは、怒りを込めて再度受付に要求する。
しかし、精霊王にそんな態度をとっても脅威になる訳がない。
だが、他の受付はそうではなかった。
上位スキル持ちの選抜メンバー。そして複数あるパーティーの中では突出した成績をたたき出しているパーティーの代表が怒りを込めて要求しているのだ。
その成績自体はキグスタのスキルのおかげなのだが、その事実に気が着ける者は<統べる者>の配下として顕現している者にしか理解することはできない。
カンザと揉めている受付である精霊王を庇う形で、率先してギルドマスターを呼びに行ってしまう。
最も優秀と言われている選抜メンバーパーティーがダンジョンに潜っている事を把握しているギルドマスターは、彼らのフォローを万全にする義務があるのでギルドに泊まり込んでいた。
なので、あっという間に受付に顔を出すことができたのだ。
「カンザ様、どうしました?」
選抜メンバーでもあり、貴族出身と知っているギルドマスターは丁寧に話す。
もちろん魔王か魔神が顕現したという事は全ての人に告知され、その討伐を行うために選抜メンバーが活動していることも公知の事実だ。
つまり、今ギルドマスターの目の前にいる面々に人……いや、この世界の運命は託されているわけで、機嫌を損ねるわけにはいかない。
この状況が、このパーティーメンバーの特権意識を増長させている要因の一つでもある。
ギルドマスターが来たので、カンザは落ち着きを取り戻して事情を説明し始める。
周りに冒険者や受付がいる状態で少々大声で話しているのは、当然嘘の情報を聞いてもらうためだ。
「ギルドマスター、少々悪い知らせだ。知っての通り俺達は下級ではあるが悪魔がボスとして君臨している例のダンジョンの攻略をしに行った。だが、いざボスの前に辿り着くと、前回の恐怖からだと思うが突然キグスタがおかしくなったんだ」
「フン、そんなわけないでしょう」
受付の精霊王のセリフが聞こえたカンザは青筋を立てて睨みつけるが、当の本人はどこ吹く風だ。
「俺達は味方の突然の奇行に驚き対処が遅れてしまった……」
「それでどうなったのでしょうか?」
わざとらしい間を作っているカンザに、ギルドマスターは続きを促している。
「あいつには俺達の生命線ともいえる重要な荷物を複数管理してもらっていた。その荷物ごと突然ボス部屋に突入したんだ。その荷物の中には事前に詠唱して発動準備を完了させるための……今回の悪魔討伐に必須の魔道具が含まれていたんだが……荷物持ちとしてのみ信頼していたのだが、その信頼すら裏切られた」
「ホント呆れる。よくもまあそんな事をペラペラと!」
再び精霊王の横やりが入るが、自分の話に酔っているカンザは眉を動かすだけで反論はせず、話を進める。
カンザの中では、常に自分が正しく他は言う事を聞いていれば良いんだよ!と言う考えから抜け出すことはない。