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グリフィス国王、ソレッド王国とワウチ帝国の動きを知る

 キグスタは、グリフィス王国の国王から直接依頼を受けた内の一つである、防壁作成や、入場時の不審者を弾くシステムについては完了していた。


 そして、残るもう一つ。

 死神アクトの部隊に任せたソレッド王国の状況について、自宅で報告を受けていたのだ。


 この話は、少し血なまぐさい話になるので、アクト側が気をきかせてキグスタの部屋で、キグスタのみに聞かせている。


 キグスタの妻達は、既に妊娠が明らかになっているナタシアと、キグスタの母であるクララと、キャイキャイ何やら話し込んでおり、アクトが来ている事にも気が付いていない。


 もちろん、アクト側が気付かれないようにしているので、妻達と母親がアクトの来訪に気が付けるわけがないのだ。


「主君、依頼のソレッド王国の情報について、配下より報告を受けたでござる。それによれば、財政は火の車、戦力の補強もままならず、国家転覆の危機であると騒いでいる所に、ワウチ帝国の情報が入ったようでござるよ」

「さすがにあれだけ戦闘好きな国家の動き位は、どんな状況でもある程度把握しているはずだよね。まして、自分の国家の戦闘力がほぼゼロ。どうするんだろうな?」


「そこでござる。実はあの国王、なんとグリフィス王国に助力を求めるために使者を使わせたのでござるよ。早馬での出立故、明後日にはこちらに到着する予定でござる。ガーグル殿あたりに教えておいた方が良いでござるか?その場合、ミルハに伝える必要があるでござるが」


 あれほどグリフィス王国に攻撃的であり、反撃されて軍を失ったにもかかわらず、その相手に恥も外見もなく、助力を求める。

 本当に国民の為を想っての行動であれば、少々の助力は吝かではないキグスタであるのだが、アクトの次の言葉で、一切助力はしない事にした。


「そして、グリフィス王国の助力の報酬が、王都に住む人々を奴隷化して与えるという事でござるよ。なかなかここまでのクズはいないでござるな。ですが、主君が助力を惜しまないと決断されれば、我らに否はござらん。如何でござるか、主君?」


 キグスタは、アクトの最後の報告に少々眩暈を覚えて、頭を少々押さえている。

 これほどふざけた報告であれば、やはり妻達に聞かせる事はできないと思いつつ、決定を下す。


「そんな報酬を提示して、俺が助力すると思ったら大間違いだな。そもそも価値観が違いすぎる。それに、あの王都の住民に対してもあまり良い思い出はない。だが……なんの罪もない住民が巻き込まれるのもいたたまれないな。どうするか」

「それであれば、ハルムに相談するでござるよ。こちらに悪意を持っているかの有無はハルムの使役する精霊で判断できるでござる」


 キグスタは、過去に荷物持ちとして活動している間、有名な最強選抜メンバーの足を引っ張る邪魔者として、王都の住民の大多数からも良い扱いを受けていなかった。

 普通の選抜パーティーであればそれほど知名度もなく、大した噂も流れないのだが、最強パーティーと名高いカンザのパーティーという事で、王都中に不名誉な噂が流れ尽くしていたのだ。


 ソレッド王国の王都に住んでいる面々は、先代の王が納めていた時と比較すると、住民の数は減少している。

 愚王の下での生活に嫌気がさしたのかもしれないが、そのせいもあり、噂が流れ尽くしてしまったのだろうか…。


「そうすると、グリフィス王国で受け入れられるか、国王に聞いておく必要があるな。まぁ、たぶん大丈夫だろ。国土に比べて、住民が圧倒的に少ないからな。だが、選別時、親は悪意があり、子に悪意がない場合。どうすれば良いと思う?」

「む、某には少々難しいでござるが、両者ともに一旦救い、命の危険がなくなった状況で元いた場所に戻すのは如何でござろうか?」


 本当は、キグスタはこんな問題は妻たちに相談したかったのだが、負担にならないように自ら決断する事にし、アクトの提言を受け入れた。


「そうするか。だとすると、そいつらは別の場所に一時的に隔離しておく必要があるな。異空間はどうだ?」

「問題ないでござるな。我らの力をお使い頂ければ、異空間の中に明かりや住居を作ることも容易いでござる」


 こうして、一先ずワウチ帝国がソレッド王国に進行してきた際の行動は決定し、すかさずミルハを通してガーグルギルドマスター、そして、そこからグリフィス王国に情報を流す事にした。


 キグスタは、ワウチ帝国の場所をヨハンに確認すると、ソレッド王国の王都までは、最低でも一週間近くかかる事を理解した。

 それも、ナルバ村を通る最短ルートでとなる。


 しかし、ナルバ村周辺には、ソレイユによってレベルが上げられた魔獣が闊歩している。

 そこで大幅な時間のロスと戦力ダウンが行われるか、大きく迂回してくるかの何れかになると判断したのだ。


 ワウチ帝国へヨハン達のだれかを飛ばそうと思ったがキグスタだが、彼ら頂上の者達がナタシアのお腹の中の子供、そしてクリスタと離れたくないと思っている事を、<統べる者>によって理解してしまっている。

 彼らにしてみれば、ワウチ帝国など一瞬で行けるのだが、人族の今この瞬間は、長きを生きる彼らにとってみれば、一瞬以下、とてつもなく短い瞬間であるので、その時の姿を見逃したくないのかもしれない。


 緊急事態であれば、有無をも言わさずに向かってもらうのだが、彼らの力があればこの程度は緊急事態にならないので、ワウチ帝国の情報は無視し、ソレッド王国の王都に住む人々の選別と移動を行う事にしたキグスタ。


 しかし、情報の量は少なくなるが、ワウチ帝国に対しては、ソレイユの力を借りて虫型の魔獣達による諜報だけは実施しておく事にした。


 この虫型魔獣、かなり便利ではあるのだが、一匹で得られる情報はたかが知れている。

 大きければ情報量も大きくなるが、そうなると、駆除されてしまう可能性が高い上、王都などの街中では目立ちすぎるのだ。


 そこで、ある程度の数を準備するのだが、その制御と情報を処理する事になるソレイユの負担が大きくなるので、あまり多用はしていない。


 頂上の者の一角であるソレイユの力は、当然膨大だ。

 故に、頂上の者達全員に言える事だが、あまりに細かい制御が得意ではないので、小さな虫型魔獣の制御にも少々苦労している所がある。


 だが、こうしておけばある程度の情報は入って来るし、ソレイユもこの場を離れなくて済むからだ。


 グリフィス王国に受け入れの準備を即日整えてもらい、とは言っても、使って良い空き地を見繕って貰い、キグスタ一行が勝手に整備していたのだが、その場所に王都の面々の一部を受け入れるために動き始めた。


 残念ながら、キグスタの予想通り、今現在も王都に残っている面々は、キグスタを始め、グリフィス王国に悪感情を持つものしかいなかった。

 そうでない人々は、ワウチ帝国の噂を聞いた瞬間に出国してしまっていたからだ。


 そのため、キグスタ一行は急遽予定を変更して、移動中の面々に対して事情を説明し、移動先までの長い距離を歩かなくても良いように、頂上の者達の力を使って、既に整備されているグリフィス王国に転移させた。


「おお、こんなに整備された町に住んでもよろしいのですか?」

「お兄ちゃん、ありがとう。私、疲れちゃってたんだ」


 大人や子供から、裏のない感謝の気持ちを直接伝えられたキグスタ。

 最近では、このグリフィス王国で同じような状況になっているのだが、ソレッド王国の住民、いや、既に元住民だが、彼らに直接感謝される機会はなかったので、とても嬉しそうにしている。


 彼ら曰く、噂は流れてきているが、その目で見ていないのに信じる事はできないと言った人たちばかりだったのだ。


「やはり噂はあてになりませんね。こんなにすごい力をお持ちなのですから」


 と、美人に言われて照れるキグスタだが、即脳裏に怒れる妻三人の表情が思い浮かび、表情を引き締めて謙遜している。


「いいえ、それ程でもないですよ。これからここで生活していただくのですが、何か困ったことがあれば、遠慮なく言ってください」


 こうして、ソレッド王国の住民の避難は完了した。

 後は、ソレッド王国からのふざけた使者を、グリフィス王国が追い返すだけとなった。

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