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ワウチ帝国、ソレッド王国に侵攻する事を決定する

 カンザと同行しているウイドと共に謁見の間に入り、皇帝に跪き、頭を下げる。


「よくぞ帰還したウイド将軍。そしてカンザよ、良くワウチ帝国に来た。歓迎しよう」


 さすがは軍事国家と言われる帝国のトップ。威厳と威圧を兼ね備えた皇帝の言葉に、カンザは無意識に身震いした。


「ありがたきお言葉です」


 同行していたウイドが将軍と言う立場であった事にも驚愕し、皇帝に対する返事が遅れたカンザは、ウイドの返事によって我に返り、慌てて同様の返事を返す。


「今回は、私の力がソレッド王国滅亡の一助となるように尽力させて頂きます」


 あっさりと母国を滅ぼす為に力を貸すと言い切ったカンザに対し、皇帝であるナバルは目を細めて、若干警戒の眼差しを向ける。


 これほどあっさりと母国を切れる男。つまり、何か不満があればワウチ帝国もあっさりと切れるという事に他ならないからだ。

 しかし、現状では貴重な情報源である事には違いないため、何かを指摘する事はない。


「二人とも、面を上げよ」


 皇帝ナバルの言葉に、ウイド将軍とカンザが顔を上げる。


「そこまでの覚悟、このナバル、しかと受け止めたぞカンザよ。だが、どうしてそのように祖国を滅ぼすために尽力しようと思ったのだ?」

「恐れながら申し上げます。私は選抜メンバーとして、そしてソレッド王国所属の最強パーティーとして悪魔の王討伐のために尽力しておりました。しかし、聖武具クラッシャーなどという不名誉な名前を押し付けられただけではなく、いわれなき裏切りのレッテルを張られて王都を追放されたのです。今までの功績すら完全に無視した理不尽な扱いです」


 ソレッド王国最強のパーティーリーダーであるカンザの失墜は、当然ワウチ帝国まで情報が入ってきていたが、詳細についてはわからないままだった。

 その情報を本人から聞いた皇帝ナバルは、カンザの言葉の真偽についてはわからなかったが、一部自らも得ていた情報である“聖武具クラッシャー”という不名誉な情報も隠さずに開示している事で、ある程度は信じて良いものだと判断した。


 更にカンザは続ける。


「そのような理不尽な国家故、元辺境伯の三人からも離反されて独立宣言されてしまうのです。あのような国家は一旦滅びないと、どこまでも腐敗が進み続けます。私は断腸の思いで、世界のためにソレッド王国を滅ぼすのです」

「なるほど。ならば、我らがソレッド王国を蹂躙しても問題ないという事だな?」

「ええ、もちろんです。むしろ願ってもない事です」


 ここまでの覚悟があるのであれば、使い物になるだろうと判断した皇帝ナバル。

 だが、彼にしてみてももう一つ確認しなくてはならない事がある。


「もう一つ聞こう。今話が出た通り、辺境伯が独立して国家を作った。ここまでは良い。だが問題は、その新国家に所属する最上位スキル持ち三人が、悪魔の王は存在しない事、そして聖武具も徐々に破壊されて、戦闘系統のスキルを得る機会も減るという神託を公開した事だ。悪魔の王のような理不尽な存在がいないという事はありがたいが、戦闘能力が低下するような話は到底受け入れられない。その辺りの情報は持っているのか?」

「その神託を受けたと発表した三人はよく存じております。しかし、私が知る限りでは神託を受けるような能力は一切持っていなかったはずです」


 少し考え込む皇帝ナバル。

 神託と言われて発表された内容の通り、実際にワウチ帝国にある聖武具も徐々に数を減らしている事実があるのだ。


 とすると、次の神託の儀で、戦闘系統のスキルを取得できない面々が増加し、長期的にワウチ帝国の戦力が落ちる可能性がある。


「しかし、実際に聖武具が減少している事も事実。おそらく悪魔の王についても事実でしょう。とすると、スキルについても事実である可能性が高いと思いますが、それはどの国家でも同じ事。とすれば、今の戦力が大陸全体で同じように低下するので、ワウチ帝国の有利は揺るがないでしょう」


 キグスタを悪魔の王であると思っているカンザは、何としてもワウチ帝国をソレッド王国、そしてグリフィス王国に差し向けたいのだ。


 このカンザの考えに納得してしまった皇帝ナバルは、ソレッド王国への侵攻を決定する。


「良く分かった。カンザよ、我らはこれからソレッド王国侵攻へ向けた準備を行う。今回の諜報活動は、ソレッド王国の王都まで到達できなかったため中断しているが、おまえが持っている情報を開示すれば、すぐにでも対応し、侵攻作戦を開始しようと思うが、どうだ?」

「願ってもない事です。では、どのような情報をご所望でしょうか?」


 お互いに、自分の利になるためだけに利用する相手だと思っているのだが、この場では協調している。


「まずは、ソレッド王国の戦力だ。なにやら軍が壊滅的な被害を受けたらしいが、それは事実か?」

「その通りでございます。独立した辺境伯領地に攻め込んだのですが、無能な指揮官のせいで、準備万端に罠を張り巡らせて待っていた奴らによって、壊滅的な被害を受けています」


 皇帝は、カンザの横にいるウイド将軍を見る。

 すると、ウイド将軍はその意図を理解したのか、立ち上がり深く一礼すると、謁見の間を後にする。


「カンザよ、今、この時から侵攻の準備を進める。だが、お前がいたソレッド王国のナルバ村の近辺にはレベルの高い魔獣が徘徊しているようだな。その場所を迂回するようにソレッド王国に向かう必要がある。我らは諜報活動をして情報を得てはいるが、やはりソレッド王国出身者が舵を取った方が動きは良くなるだろう。どうだ?ウイド将軍の直下で共に進軍しないか?」

「しかし、私はソレッド王国の策略によって隻腕になっておりますので、戦力にはなれないかと……」


「ああ、勘違いするな。何もお前に戦闘をさせようと言うのではない。あくまで効率的な侵攻を行いたいので、助言をするだけだ。お前は最強パーティーに長く君臨しており、その名は我が帝国にまで響いてきていた。その手腕は、何も戦闘力だけではあるまい?」


 ここまで言われてしまっては、否とは言えないカンザは、同行する事を受け入れた。

 しかし、その目でソレッド王国滅亡が見られる事もあり、悲観することはなかった。


「承知しました。微力ながらお手伝いさせて頂きます」

「うむ、よくぞ言った。それではお前には聖武具とはいかないが、国宝でもある短剣を授けよう。おい、宰相。後でカンザに渡しておけ」


 隻腕でも扱えそうな武器を貰えると知ったカンザは、既に上機嫌になっている。


「ありがたく頂戴いたします」


 だが、短剣では<槍聖>のスキルを使えない。基礎的な身体能力の上昇はこのスキルで問題ないが、短剣と槍では使い勝手が違いすぎるのだ。

 しかし、現実的には短剣程度しか扱えない事、その短剣が国宝レベルの物である事により、カンザの機嫌は鰻登りとなるのだった。

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