カンザ、ワウチ帝国に到着する
ふ~、ようやくワウチ帝国に到着したか。
流石に、英雄の俺でも疲れたな。やはり慣れない隻腕では戦闘は中々できないし、動きに切れが無くなる。
それに、未だに重心位置を完全に把握できていないので、少々早く歩くのも辛い。
聞くところによると、欠損を治すような回復薬はワウチ帝国にはないらしいので、暫くはこのまま生活するしかない。
だが、同行……いや、俺をある意味護衛してくれているウイド殿一行には感謝だな。
はっきり言って悔しいが、俺だけでは、碌に移動することもできずに、あのナルバ村で干からびて死んでいただろう。
まさに神の思し召し。
一瞬血迷って、悪魔と契約しようとしてしまったが、良く考えてみれば、大英雄である俺様が、悪魔なんかと契約する事自体がおかしいのだ。
本当にあの時はどうかしていたとしか思えない。
むしろ、悪魔などという下賤な者との契約をさせようとしたキグスタの策略ではないかと疑っている程だ。
そう、俺に相応しいのは神との契約。それも、中途半端な神ではなく、最上位の神との契約だ。
しかし、残念な事に、神との契約については、流石の実家にも情報はなかった。
いや、あったのかもしれないが、俺には見つける事が出来なかった。
この辺りについては、ワウチ帝国での生活が落ち着いた段階で聞いてみる事にしよう。
帝国にはソレッド王国にはない情報があるかもしれないからな。
ウイド殿がいるおかげか、入場は何のトラブルもなく終了した。
この後は、皇帝のいる居城に向かう事になっている。
門から相当距離があるようで、入り口付近の宿で一泊し、明日に再度出立するようだ。
なる程、ソレッド王国などとは違い、このワウチ帝国は広大な敷地があるのだろう。
見たところ、町も清潔に維持されているようだな。
・・・・・・との思いで長旅を終えたカンザ。
「カンザ殿、長旅お疲れ様でした。明日にでも皇帝陛下に謁見して頂きますが、その場で貴殿の持つ情報を開示して頂きたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、もとよりそのつもりだ。あんな腐った国家は滅びる他に道はないだろう。その為の手助けは惜しまないつもりだ」
「期待しております。それではゆっくりとお休みください」
ウイドは、わざわざカンザに情報開示の依頼をしてきた。
カンザはナルバ村でウイドと会ったときに、既にソレッド王国は敵であると理解してもらったつもりではあったのだが、まだ祖国についての思いが有るのかもしれないと勘違いしているのか?と考えていた。
たしかに、カンザの実家はソレッド王国にある。
両親も健在だが、しょせんはカンザを体よく追い出した両親だ。
あの腐れ国王と共に滅びの道を進ませるのが正解だろう。
そのあたりの覚悟を、再度ウイドにはタイミングをみて伝える必要があるかもしれないとカンザが思いを馳せている頃、偵察としてソレッド王国に侵入していた一隊を率いていたウイドは、皇帝の側近である宰相に連絡を取っていた。
もちろん、門を潜った近くにある宿に設置されているものであり、ワウチ帝国の緊急時には、入場門の近くから即中央に報告ができる仕組みが整えられている。
本来、多少無理をすれば今日中に皇帝への謁見は可能。
だが、ウイドがそうしなかったのは、ナルバ村で拾ったカンザの事を先行して報告する必要があると判断したからだ。
「宰相殿、ウイドです。既に入門しておりますが、今回の作戦で思わぬ拾い物をしました」
「ご苦労だったな。で、拾い物とはなんだ?噂通り軍が壊滅し、生き残りでもとらえてきたか?」
「それに近いですな。宰相殿もご存じの通り、ソレッド王国最強の選抜と言われていたカンザ。今回の拾い物はこれです。奴は祖国に対して恨みがあるようで、持っている全ての情報を開示してくれそうです。ただ、奴本人は隻腕になっておりますので、戦闘力として期待する事はできないでしょう」
「ほっ、これはこれは、なかなか珍しい拾い物だ。あれだけ名を馳せていたのだから、機密情報も少なからず知っているだろう。楽しみだ。今日中にこちらに来る予定か?」
「いいえ、この報告を前もって皇帝陛下に上げて頂くために、今日はこちらで宿泊しており、カンザには明日の謁見と伝えております」
カンザを良い情報源とは認識しているが、戦力にはならないと判断しているウイド。
そして、その報告を疑う事なく受け入れる宰相。
その日、カンザは、最近まではまともに食べられなかった食事をゆっくりと摂る事ができ、更には今まで食べた事のないワウチ帝国の食事を楽しめたので、上機嫌のまま睡眠をとる事ができていた。
「くぁ~、やはり英雄にふさわしいのは極限状態での生活ではなく、このように多少なりとも余裕のある生活だな」
久しぶりにゆっくりと横になる事ができたカンザは、機嫌が良いまま皇帝の住む居城までの道のりを楽しむ。
町の中を移動している為、建物や出店、そして市のような物も見る事ができたので、道中飽きることはなく皇帝の居城に到着した。
馬車から降りてそびえたつ城の中に入ると、かなりの距離を歩かされる。
しかし、その距離もカンザにとってみれば新鮮な物だった。
ソレッド王国では見た事もないような壁画や、絵画、そして装飾品が品よく並べられ、見る者の目を楽しませている。
ワウチ帝国は、軍事国家、武装国家、戦闘国家と言われているだけあって好戦的で、今までも数多くの国家を配下に収めてきた。
そのおかげか、多種多様の文化を自らの物にしており、これほど見事な装飾品の数々があるのだ。
逆に言うと、周辺の国家には蛇蝎のごとく嫌われている国家であったりするのだが、カンザには関係のない事だ。
カンザにしてみれば、恨みの対象であるソレッド王国を自分の代わりに滅ぼしてくれ、あわよくばキグスタも滅してくれるかもしれない国家だからだ。
キグスタの力は既に理解しているカンザだが、さすがに国家の武力をもってすれば、勝機は十分にあると考えている。
このような考えの元に行動をして、さんざん罰を受けていった結果、選抜メンバーからの転落、ソレッド王国の王都からの追放、そして隻腕になったのだが、まだまだ罰が足りないようで、その反省が活かされていない。
やがて、カンザ一行は謁見の間に到着する。




