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カンザと三人の決別(5)

誤字報告、ありがとうございます。

 カンザは、ワウチ帝国のウイドと言う軍人の話を聞いて内心歓喜していた。

 今の状況、食料、水全てがなく、魔獣の襲来に怯えつつ命の灯が消えるのを待つ……この状況をひっくり返せる大チャンスが到来したのだ……と。


「なるほど、だがさっきの話では、この辺りの魔獣に難儀していたようだな。そして、未だにソレッド王国に関連する正確な情報はつかめていない」

「お恥ずかしながら、その通りですな」


 ウイドの思惑は不明だが、少なくとも嘘をつく様子はないウイドの様子を見て、自分を高く売れそうだと確信するカンザ。

 今の所はソレッド王国にいるカンザに対して、ソレッド王国を攻めるための下準備でここまでやってきた……と平気で伝えてくるのだ。

 カンザは、この隊長は真実を伝えていると確信する。


 もちろん、ワウチ帝国に亡命する際には、あの三人を同行させるつもりは一切ない。

 自分を惨く切り捨てたのだから、こちらも惨く切り捨てる事に抵抗は無いのだ。

 いや、こんな状態になる前に、既に切る気満々だったのだから、あまりこの辺りは関係がないかもしれない。


 だが、落ち着いて話をするにしても、まずは少なくとも水と食料を手に入れようと考えたカンザ。


「どうだろう、ウイド殿。俺は知っての通りソレッド王国最強のパーティーリーダーのカンザだ。当然、立場上秘匿情報も知っている。今まではソレッド王国の為に身を粉にして尽くしてきたが、誤解と策略によってこんな辺鄙な村に追いやられてしまっている。つまり、俺としてもソレッド王国は敵として認識している。待遇によっては貴国に所属し、この力を使っても良いと考えているんだが」


 誤解と策略等は一切ないが、ソレッド王国に対して恨みがあり、敵として認識しているのは事実だ。


「ほう……」


 ウイドは探るような目でカンザを見る。

 カンザにしてみれば、ソレッド王国に対して復讐心がある事、ワウチ帝国に所属しても良い事は事実である為、後ろめたい事はなく、その目を迷いなく見返す。


 百戦錬磨のウイドは、カンザの目を見て、ソレッド王国侵攻の為にワウチ帝国の力になる……と言ったカンザの言葉に嘘がない事を理解した。いや、してしまった。


「なるほど、理解しました。あなたのその覚悟、このウイドがしかと受け止めました」

「そう言ってもらえると何よりだ。ところで、突然で申し訳ないが、最近食料を得る事が難しくなっていてな。できれば食料と水を融通してもらえると助かるのだが」


 先ずは腹ごしらえをする必要があったのだ。

 ホール、リルーナ、フラウ達が食糧調達に向かった日は、かなりの時間が経ってからではないと帰ってこない事はわかっていたので、少々ゆっくりしても鉢合わせする事はない。


 ウイドはカンザの要求に応え、食料と水を準備した。

 久しぶりの水と食料を得たカンザは、ようやく一息つくことができた。


「ふ~、ウイド殿、感謝する。それじゃあ、早速移動しようか。だが、このままソレッド王国に行っても、俺が知り得ている情報以上の情報を得る事はできないだろう。一旦このままワウチ帝国に帰還してはいかがか?」


 腹も満たされ、強力な味方を得る事が出来たと思っているカンザは、余裕を取り戻していた。


「ふむ、そうですな。確かにこれ程の魔獣がいるのであれば、これ以上進んで戦力ダウンした際に、安全に帰還できなくなる可能性が高いですからな。提言を受け入れましょう。おい、帰還の準備をしろ!」


 ウイドの命令で、少数ではあるが部隊の面々が即座に動き出す。

 練度が高いのか、即出立の準備ができたので、カンザもその一行に交じりナルバ村を後にし、ワウチ帝国に向かって進みだした。


 この時点で、カンザはウイドから信頼を得たと思っているが、これから侵攻しようとしている国家に所属していた最強の男を、どんな事情があれそう簡単に信用する者はいないのだが、残念なカンザはそんな疑いを一切持つ事はない。


 やがて、出立してからかなりの距離が経過したころ、魔獣の生息域からも外れたのでカンザ一行は休憩を入れている。


 と同時刻、ようやく命がけの狩を終えたホール、リルーナ、フラウがキグスタの家に到着した。


「ふ~、今日も何とかなったな。だが、やはり大物は狙えないな」

「そうね。連携の練度は上がっても、小物がやっとだものね」

「そう言えば、カンザはどうしたのでしょうか?」


 いつも狩が終わった時には、何かを言いたそうにこちらを見てくるカンザの気配がないのだ。


「ついにくたばったか?」


 ホールがそっけなく言うが、もしそうだとしたら、そのまま放置した状態ではこの家が酷い事になるので、カンザを探す事にした。


 だが、いくら探せどカンザの姿は見当たらない。

 カンザの武具である槍も無くなっている事に気が付いた三人は、カンザは最後の賭けに出て食料を狩りに行ったのだと理解した。


「フン、あんな状態で狩れる魔獣なんかこの辺りにはいない。だが、あいつの死体を俺達が処理する必要がなくなった所だけは評価してやるか」

「まだ動けるうちに賭けに出るのは英断だと思うわね」

「私達も、いつかはそのようになるのでしょうね……」


 そう、この三人はかろうじて魔獣を狩れているが、誰か一人が脱落した時点で危険度が一気に増すのだ。

 それに、今ある普通の武具も無くなってしまうと一気に戦闘力が落ちる。

 脱落の原因は、討伐時の怪我だけではなく、病気でも起こり得る。


 今の生活は薄氷の上に成り立っているような物なのだ。

 改めて辛い現実を突きつけられた三人は、狩が成功したにもかかわらず暗い気持ちで食事を摂る。


 ある程度長い期間このような生活をしている為、経験からキグスタの家は安全である可能性が高いと判断した三人は、夜の見張りは止めて十分な休息を取る事にしており、最悪の状況時には、対処する時間を稼ぐために二階で寝ている。


 翌日は狩を行わない日になっていた。

 一日中キグスタの家におり、武具を入念に手入れしている三人。

 この日、カンザが帰還する事はなかったため、三人全員がカンザは狩りに失敗して命を落としたと判断した。


 こうして、カンザパーティーは完全に瓦解し、ホール、リルーナ、フラウの三人と、ワウチ帝国に向かっているカンザとは別々の生活を行う事になった。


 ワウチ帝国にしてみれば、隻腕にはなっているが、最強の手駒が手に入った上、秘匿情報すら持っているカンザを味方に引き入れる事に成功した為、今回の諜報活動は、今までにない成果を上げたと思っている。


 カンザとしても、自らの安定した生活が保障され、あわよくばソレッド王国とキグスタ達に復讐を果たせる為に、意気揚々とワウチ帝国に向かっている。

 

 キグスタの家に残された三人は、その日その日を必死で生き続けざるを得ない為、神経をすり減らしつつも何とか生活をしている。

 既に、いつの日かキグスタから許しを得て、この生活から解放されると言った甘い夢は見ていない。


 かつてソレッド王国最強と言われたパーティーは、完全にその名をここで消すことになった。

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