カンザと三人の決別(4)
カンザが発した食料要求に対して、返ってきたのは、取り付く島もない返事……
「ば……おいおい、冗談だろう?今までさんざん俺の世話になった挙句にそんな事を言うのか?それに、見ればわかるだろう?俺は隻腕だ。しかも利き腕の右手がない。こんな状態で<槍聖>の力が十全に振るえる訳がないだろうが!!」
カンザも必死だ。
もしここで食料を得る事が出来なければ、待っているのは餓死だ。
だが、自分で言っていた通り、五体満足な三人が命がけと言っている魔獣を、隻腕の自分が狩れるわけがない事は嫌でもわかる。
しかし、三人の意見が覆る事はなかった。
「何度も言わせんな。お前のせいで魔獣が強くなったんだぞ」
「そうよ。あんたが悪魔召喚なんて余計な事をしなければ、弱い魔獣だけをターゲットにするとか、なんとかやりようはあったのに……」
「ええ、自分の行動は自分で責任を取る。これしかないんではないですか?」
「ぐ……お前ら、世話になった恩人を見殺しにするのか?俺が魔獣を倒せる状態ではないのは見てわかるだろうが!」
「ああ。俺達も人の事は言えないが、お前は決して戦えない状態のキグスタをあの悪魔の前に置き去りにしただろ?因果が廻ったんだ」
「そのとおりね。いつかは私達も覚悟する必要があるでしょうね」
「なんであのような事をしてしまったのか……今更悔やんでも後の祭りですね」
情に訴えても頑なな三人を見て、このままでは、最悪三人を相手に戦闘にまで発展するかもしれないと思い始めたカンザ。
そんな状態になってしまっては、百パーセントの敗北しか待っていないので、諦めてこの部屋を後にする。
しかし、空腹は解消されず、喉まで乾いてきた。
このまま命尽きるのを待つだけか……と思って過ごすこと数日、カンザに大きな転機が訪れる。
丁度三人が命がけの食料調達に向かっている時、ソレッド王国に戦争を仕掛けようとしている国家であるワウチ帝国の諜報部隊が、ナルバ村にお忍びでやってきたのだ。
この村とカンザを含む一行については新たな罰を与えたばかりであるため、キグスタは意識から外しており、特に情報収集もされていなかった。
更にキグスタは、グリフィス国王によって王国周辺の防衛強化の依頼を受けていたので、そちらに全力を向けていたのだ。
もちろん他にも理由はある。それは、キグスタの新しい家族である、ナタシアのお腹の中にいる子供に集中したいという思いもあったのだ。
そんな状況が相まって、キグスタの意識の外で、ナルバ村で唯一原型をとどめているキグスタの家にワウチ帝国の部隊がなだれ込む。
諜報部隊の精鋭でいくら戦闘能力が高いと言えども、レベルの上がった魔獣全てを相手にする訳にはいかないので、斥候の能力を駆使して、極力戦闘を避けつつここまで来たのだ。
「隊長、これ程の魔獣がいるのであれば、本隊がこの経路を通過して攻めるのは不可能ではないでしょうか?」
「うむ、確かにその通りだな」
既に無人の村と認識している一行は、キグスタの家で小休止しながら話をしている。
そこに、カンザが現れる。
「おい、お前ら何勝手に人の家に土足で乗り込んでるんだ?」
既に空腹と喉の渇きで覇気は無いが、攻撃的な性格には磨きがかかっていた。
戦闘となったら袋叩きにされるのが現実だが、極限状態のカンザにはそんな事はわからない。
しかし、このワウチ帝国の隊長と呼ばれている人物は経験豊富であり、常に情報収集を行っているような冷静な人間だった。
もちろん、ソレッド王国最強と言われていたカンザの事も知っていた。
少々人相が変わっているカンザであったとしても、本人かどうかはわかる程度であったので、カンザに即攻撃をする事はしなかった。
「これは失礼した。まさかソレッド王国の英雄たるカンザ殿がこんな村にいるとは思いもしませんでした」
隊長以外のワウチ帝国の面々は、隊長のセリフを聞いてカンザを警戒した目で見る。
ワウチ帝国にまで聞こえてきた最強の称号。
どのような魔獣も相手にならず、聖武具を完全に使いこなす最強パーティーのリーダー。
「所で、貴方はパーティーを組んでいたと思いますが、残りの面々はいかがしましたか?」
「お前には関係のない事だ。だが俺の事を良く知っているようだな。先ずは名を名乗ったらどうだ?」
「これは重ね重ね失礼しました。私はワウチ帝国のウイドと申します。既にご存じかと思いますが、我らはソレッド王国と常に敵対しておりました。この度、ソレッド王国の軍が壊滅的な状態であると言う、にわかには信じられない情報を得たために確認に来た次第です」
ウイドは、自分の目的をあっさりとカンザに伝えた。
最終的にカンザが自分の利にならない存在と判断できれば、消してしまえば良いと言う考えからだ。
一方この話を聞いて、カンザは、自分にはまだ反撃のチャンスがあると思ってしまった。
祖国を売れば、ワウチ帝国で悠々自適な生活ができると閃いたのだ。
たとえ、その祖国がどうなろうとも……そして、その原因である軍の壊滅は自分のせいであろうとも……




