裏切者達
今日はおしまいです。
一方、キグスタをこき使い、最悪の形で裏切った選抜メンバーのパーティー一行であるフラウ、カンザ、リルーナ、ホールの四人は、清々しい顔をしてダンジョン上層に向かっている。
「ようやく邪魔者が消えてくれたな。」
「そうねカンザ。これで私達もっと連携がうまくなると思うの。それにいつの間にか使えなくなっている<精霊術>も、あの邪魔者がいたせいで精神集中ができなかったんじゃないかって思うのよ。」
「ホント私のクズ兄がごめんなさい。」
「いや、血はつながっていないんだろ?フラウは悪くないさ。」
そんな会話をしながら時折現れる魔獣を難なく討伐している・・・
ように見えるが、このパーティーの全員が少々魔獣の力が上がったと感じている。
というのも、このダンジョンの中の魔獣は<統べる者>の配下によって制圧されているので、<統べる者>の配下になっている状態だ。そのスキルを持っているキグスタがそばにいると、自我のない魔獣達も無意識下で攻撃をためらうので、隙が多いのだ。
だが、今そのキグスタはこの場にいない。
魔獣達は本来の力でこのパーティーに襲い掛かっている。
とはいっても、上位スキルを持っているメンバーであり、持っている武具も人族最高の武具を持っている。更には今までの魔獣討伐の経験値もあって、命の危険があるほどではない。・・・今の所は・・・
「少々疲れが出ているみたいだな。何だか敵の攻撃が少し重く感じる。」
「「私もです。」」
「俺もだ。」
全員の意見の一致を見たメンバーは、予定よりも少々距離が進んでいない場所で今日の移動を終了することにした。
リルーナが魔法でキグスタが準備した荷物を出すと、全員で野営の準備を始める。
普段はキグスタ一人にやらせていたので、かなり手際が悪くなってしまったが、ようやく一息つくことができた。
「今日早めに休むので、明日は万全な状態で帰還できるだろう。邪魔者がいない分、むしろ早く帰還できるかもしれないな。」
ここはダンジョンの中。このパーティーメンバーのレベルでは察知できない程力の差がある超常の者達が自分達の会話を聞いているとは思っていないので、キグスタを落とす会話に歯止めがかからない。
超常の者達は怒りを抑えるのに精いっぱいだ。
至上の主であるキグスタをバカにされているのだから当然だが・・・
しかし、キグスタの命令があるので、このパーティーの首をはねるわけにはいかない。
我慢に我慢を重ねた結果出た結論は、このパーティーが持っている聖武具と呼ばれている人族の中では至上と言われている武具の破壊だ。
聖双剣、聖槍、聖杖、聖グローブがこの選抜メンバーに与えられている武器になる。
人族は神から与えられた武器という認識だが、実際は死神アクトが以前の<統べる者>を持っていた当時の主人に遊びで作ったものだったりする。
実際、この様な武具を作るのは近衛隊長の中では武神のソラリスが最も秀でている。
だが、彼女を顕現させることのできる<統べる者>を持った者はいなかったのだ。
しかし、幾らあまり得意ではないと言っても、それでも神の作る武具。その力は絶大であり、人族至上の武器というのも頷ける。
真相を知る者にしてみれば、とある配下が遊びで作った玩具の武具を頼りに、その主人を討伐しに行こうとしているのだから、面白い事この上ない。
しかし、今はこの怒りを鎮めるために彼らの拠り所であるこの武具は破壊する必要があるという結論に達したようだ。
だが、ありのままを至高の主に伝える訳にはいかないので、神々が知恵を絞って出した結論は、
我らが帰還する際に誤って踏んずけてしまった。
または、初めて全員がこの世に顕現することができた喜びのあまり、踊り狂って踏んずけた。
いずれにしても踏みつぶしてしまった事に決定していた。
という安易な考えが神々の中で全会一致で採用された為、翌朝パーティーメンバーが目覚めた際には、目の前に粉々に砕け散った、かつて聖武具であったものが散乱していた。
「おい、これはどういうことだ!!どんな攻撃でも破壊されることのない聖武具が全て壊されているだと??見張りはどうした???」
「え?今まではどうしていましたか?」
動揺するパーティーメンバー。
それを見て、
「いや、見張りはいつも何も言わずにキグスタにやらせていたからな。」
「え?じゃあ今回は誰も見張りをしなかったってこと?」
命の危険があったことに愕然とする一行だが、聖武具についてはもはやどうしようもない。
人族にとっては無敵の武具でも、死神にとっては片手間で作った玩具なのだ。
「ちっ仕方がない。キグスタのクズが準備しておいた予備の武器があるからそれを使うぞ。」
一応は熟練の域に達しており、数々の修羅場を経験しているパーティー一行。気持ちを切り替えて、キグスタの準備した予備の武具を装備して帰還の為動き出す。
聖武具とは異なり、自分の力を底上げする機能も付いていないただの武具であるので、襲い掛かる魔獣の力もあって、かなり苦戦を強いられる。
「ちっ、武具の性能が落ちるだけでこれだけ苦労するのか。」
「そうすると、一旦王都に戻って、別の聖武具を仕入れる必要がありますね?」
一応会話はできる余裕はあるが、少々傷を負っている。
しかし、浅層に向かっているために徐々に魔獣の力は小さくなり、やがてダンジョンから脱出する。
「今回は不測の事態が起こったな。とはいえ、ギルドへの報告はしないとまずいだろう。一旦聖武具を取りに王都に戻ることも報告しないといけないしな。」
カンザの珍しくまともな意見に従い、キグスタを除くパーティーメンバーはその足でギルドに向かう。
そこには、全てを知っている精霊王である受付嬢が凍った笑顔で彼らを待ち構えていた・・・
しかし、精霊王である彼女もキグスタの指示を無視することはできない。
なので、彼らに何かしらの罰を与えることはできないのだ。