カンザ、悪魔の召喚に成功する・・・・・・も
カンザの失敗です
目の前の魔法陣から漆黒の魔力が噴出して悪魔を形作っていたが、ようやく魔力の噴出も収まり、完全体の悪魔が顕現した。
だが、今度は悪魔からあふれ出る魔力によって、悪魔の表情を読み取ることはできない。
しかし、カンザにしてみればそんな事は些細な事だ。
貴族として生活していた頃、魔導書に目を通した際に記憶していた悪魔召喚の魔法陣。
それを完全に再現して、実際に隔絶した力を持つ悪魔の召喚に成功した。
この辺りだけを見ると、選抜メンバーのトップと言われていただけの実力はあった事の証明になっている。
とは言え、今更そんな力を証明して見せても何のメリットもない状態だ。
「お、おい、カンザ。お前、なんてモンを召喚したんだ。万が一制御できなかったらどうするんだ!」
「そ、そうよ。あんたの復讐に私達を巻き込まないで」
「フラウとホールの言う通りです。もう私達はキグスタ達に係わりたくないのです」
ホール、フラウ、リルーナの三人は、目の前で隔絶した力を持つ悪魔が召喚されてしまった事実に驚き、そして、この事実がキグスタに知られてしまった場合に起こるであろう戦闘に、恐れをなしている。
「フン、お前ら如きの力を借りる事は今後一切ない。俺は!今ここでこの悪魔と契約し、その力を以てキグスタ達、そしてソレッド王国、更にはあのふざけた辺境伯も纏めて始末してやる。フフフ、その後はこの俺がソレッド王国の国王になる!ハハハハハハ」
カンザの狂気に押されて、壁際で寄り添うように震えている三人。
やがて悪魔が目を開き、黒く光っている両眼でカンザを睨みつける。
しかし、カンザは召喚が成功した事に気を良くして怯む事は無かった。
やがて悪魔は口を開く。
「矮小な者よ、我に何を望む」
「おい、お前は見たところ上位の悪魔だな。召喚者であるこの俺、カンザ様と契約し、新たな力を分け与えろ」
「二つ聞こう。一つ、その力で何を望む。二つ、我に与える報酬はなんだ?」
強者独特のオーラを漂わせながら、低い声でカンザに問いかける。
実はこの悪魔、カンザの読み通り上位の悪魔なのだ。
「ふん、知れた事。お前から得た力で復讐を果たすんだ。報酬はこの大陸中の人間全て、それでも足りなければ俺の魂もくれてやる」
「そこそこの報酬だな。お前の望みも心地よい。だが、それだけの報酬に値する復讐相手なのか?」
悪魔としては、大陸中の人を捧げてでも行いたい復讐対象に興味がわいている。
もちろん大陸中の人々については、カンザが一個人でどうこうできる訳ではないのだが、カンザにしてみれば他人の命など知った事ではないのだ。
壁際でこのやり取りを聞かされている三人は、自分も悪魔の生贄の対象に含まれている事を理解し、絶望する。
「そこそこだと?これ以上の報酬はないだろうが。まあいい。復讐相手の筆頭はゴミクズ。そしてそのゴミを排除した後はソレッド王国を滅ぼして、この俺様が王位に就く」
「……わからんな。復讐相手の筆頭は何人いるんだ?優先して国家を相手にするならば報酬もわからなくもないが……」
「ゴミは一人だ。いや、その一人と妻と名乗っているクズの連れも入れると四人だな」
カンザは、既に自分を完全に見限ったであろうナタシアも、復讐対象にしていた。
「良いだろう。先ずはその四人に復讐を果たし、ソレッド王国もついでに滅ぼしてやろう。その四人は何処にいる?」
悪魔の返事に笑みを抑えきれないカンザ。
「あのゴミクズのキグスタはグリフィス辺境伯の元にいる」
「なに?」
カンザの回答を聞くや否や、一瞬で後退る上級悪魔。
その黒目は大きく見開き、強者独特のオーラも一瞬で霧散して見る影もない。
当然カンザは怪訝そうな表情を浮かべて、再び悪魔に情報を開示する。
「どうした?良く聞こえなかったのか?俺が最も復讐したいのはキグスタと言うやつだ。こいつは大したスキルもなく、今の俺と同じように悪魔と契約して力を得たに違いない。だが、俺が召喚したお前の方が力は強いはずだ」
「間違いがあると問題がある。一応念のため確認するが、そのキグスタと言う者の周りにはその三人以外は誰もいないな?」
悪魔は、恐る恐るキグスタの名前を出しつつカンザに確認を取っている。
「あ?ああ、いや、執事のようなやつは常にいた気がするな」
黒い顔がよりどす黒くなる悪魔。よく見ると震えているのがわかるが、カンザ達にはそんな事はわかるはずもなかった。
「ま、まさかだが、その執事風の男はヨハンと呼ばれていないだろうな?」
少し考える仕草をするカンザ。
「いや、そこまでは覚えていない。俺が覚えているのは、あるダンジョンの最下層にいた下級の悪魔。そいつがキグスタに完全に支配されている様子だ。きっとあの下級悪魔がキグスタの契約相手に違いない。あのクズキグスタは、<統べる者>とか言うスキルのおかげで力を得たと言っていたが、そんなはずはないんだ」
話の後半の<統べる者>については、カンザが怒りのあまり呟いてしまった事だが、この情報を聞いた上級悪魔は震える声でカンザに怒鳴りつける。
「ば、おい貴様!!我を殺す気か!!!お前如きがキグスタ様に復讐だと??笑わせるな。あのお方のお力の前には、我の全力など羽虫が飛んでいる程度にしかならんわ!!身の程を知れ!!」
そう言うと、転移でもしたのか、その場から消えて行く上級悪魔。
カンザは何を言われた事を理解するのに時間がかかり、ようやく言われた事を理解出来た頃には完全に悪魔はいなくなっていた。
「やっぱりキグスタの力はとてつもない物だったんだ……」
ホールたちの呟きも相まって、カンザは絶望する。
決してかなう事のない復讐……何もかも失った現状を打破する一手がない状況……
一つも良い事がないので、そう思ってしまうのも仕方がないのだろうが、結局は自業自得だったりする。
そして、ある意味、今回の騒動の一番の被害者である上級悪魔。
カンザの目の前から消えると、すかさずワリムサエの人気の無い位置に転移し、キグスタと面通しが済んでいる下級悪魔と連絡を取る。
その連絡とは、もちろんキグスタと自分の面通しだ。
キグスタは、突然下級悪魔から上級悪魔が面会を求めていると聞いて面食らったが、断る理由もないので申し出を受け入れた。
その面会の内容はこうだった。
「キグスタ様、この度は急な申し出に応えて頂きましてありがとうございました」
「いや、問題ないよ。で、君とは初めて会うよね。どうしたの?」
「はっ、実は我…私はカンザと言う者に召喚され、恐れ多くもあなた様への復讐の為に力を貸すように言われたのです」
この時点で、ちょうどキグスタの傍にいたヨハンとソレイユが殺気立った。
とてつもない力の差を理解している上級悪魔は、慌てて次の言葉を紡ぐ。
「お、お待ちください。もちろん、そんなふざけた行為に力を貸すような事は一切しておりません。ただ、私といたしましては、カンザというふざけた男の情報をお教えしようと伺った次第です」
「ああ、あいつの事だから、諦めずに何かするだろうとは思っていたけど…、わかったよ。ありがとう」
そう言って、面会の場を後にするキグスタとヨハン、そして護衛の立ち位置にいたソレイユ。
三人の姿が完全に見えなくなった後、悪魔は滝のような汗をかきつつ、自らの居城に帰還した。
今回のカンザの愚行によって、一番苦労したのはこの上級悪魔である事は間違いない。
何も考えずに、カンザの願いをかなえるためキグスタの前に現れていたら、魂すら細切れにされていた事は間違いないのだから……
危機的状況をギリギリ回避し、キグスタからも許しを得た形になっているので、ほっと胸をなでおろしている。
しかし、このような状況に追い込まれた原因となるカンザには、深い恨みを持つ事になった。
こうして今回のカンザの行動も、ただ単に余計な敵を増やすだけになったのだった。
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