大陸中の国家へ
https://ncode.syosetu.com/n5874gy/
も投稿させていただいています。
よろしくお願いします。
俺は、いや、俺達はソレッド王国の王都を出てすぐにヨハンに頼み、ワリムサエの町に戻った。
今回の手紙の内容、辺境伯の独立についてはあの国王はダメとは一言も言っていないので、勝手に独立していい物と解釈した。
いや、圧倒的な戦力差がある事がわかっているので、ダメとは言えない状況だったのだが、とりあえず問題なかったとだけ、精霊王のミルハを通して連絡してもらう。
その後の予定としては、辺境伯達が独立を宣言し、更には最上位スキルを持つ三人の紹介、そして神託の情報を大陸中に広める事になっている。
神託……まあ、ウソではないからいいだろう。
内容としては、悪魔の王等は存在せず、聖武具もその存在意義を無くしている。
その為、聖武具も徐々になくなり、戦闘スキルについても与えられる人は極端に減少する……
極端に減少とは、やはり治安の面から、かなり強めの力を持つ者は必要になる場合がある。
人間性を良く見極めて、慎重にスキルを与える事になった。
とは言え、最上位でもなければ、上位でもない。ただのスキルだ。
しかし、俺自身も身をもって体感したが、スキルの有り無しでは、圧倒的に力が違う。
流石に最上位スキルとは違い、軍を一人で相手にするとか言うバカげた力は出ないので、安心はしている。
当初の予定通り、各辺境伯は一つの国家として独立宣言をし、元所属国家であるソレッド王国も不承不承ながらも承認した事から、問題なく国家認定された。
当然、緊急事態などで使う事ができる各国への連絡用魔道具も入手でき、そこで悪魔の王やスキルついての神託を発表する事になった。
他の国からしてみれば、突然の辺境伯の独立と、神託の公開。
この二つを結びつけて考える国家も当然いるだろう。
各国の反応は……予想通りに信じられないと言う反応が殆どだったが、<槍神><剣神><聖女>の三人が揃って発表した事、そして、神託として発表する内容の通り、聖武具を徐々に破壊していたことから、最終的には少数の国家を残して納得してくれたようだ。
納得していない国家は、その不満をソレッド王国に向けていたので俺達は特に何の対応も行っていない。
彼等の言い分は、
「ソレッド王国の選抜メンバーであったカンザ一行が聖武具を破壊しつくしたので、我らの国家にある聖武具も影響を受けて破壊されたのではないか?」
と……。中々良い所に目をつけている。
国家元首となった元グリフィス辺境伯、現グリフィス国王の見解は、ソレッド王国に文句を言っていた少数の国家については、場合によってはソレッド王国に戦争を仕掛けるかもしれないとの事だ。
今現在はソレッド王国の実情……軍隊が壊滅的な状況にあると言う事を知られていないので、少々文句を言う程度で済んでいるが、防衛力がほぼ皆無になっている現状を知られると、普段から横柄な態度を取っていたソレッド王国に不満を持つ国家は侵略を始める可能性が高いそうだ。特に、ソレッド王国と同様に悪名の高い国家がその筆頭だ。
これも俺達には一切関係のない事なので、関知する事は無い。
ワリムサエの町に影響がない限り……
こうして俺達はワリムサエの町に根を下ろして過ごしている。
時々ヨハンからカンザ一行の状況が報告されるが、あいつ等はその日その日を必死で生きているようで、良い薬になっている。
下級悪魔に破壊された顎は、あいつらが持っていたソレッド王国から支給された最後の高級ポーションで治したらしい。
国王の前で普通に喋れていたのはそういう事だ。
つまり、これからの怪我については自力で治す他ないのだ。
とはいえ、選抜メンバーに課される修行の一環として、薬草の知識についても詰め込まれる。
悪魔の王討伐の旅に出ている時に、不測の事態に遭っても良い様にと教わった物だ。
幸か不幸か、ナルバ村周辺には薬草が豊富なので少々の怪我であれば問題ないだろう。
「う~ん、カンザ達の状態はあんまり変わっていないな。監視はどうやってやってるんだ?」
「ソレイユの力を使い、あの辺りにいる魔獣から情報を得ております」
たしか、ソレイユの力で魔獣の力を本来の強さより少々上乗せしていたはずだな。
今の所カンザ達は大怪我をする事は無く、一時期ダンジョンに強制的に籠っていた時のように、毎日必死で生活していると言うサイクルに入っている。
予定通り、この状態を暫く維持させておけばいいだろう。
「わかった。今の状況を継続できるのなら、ソレイユには魔獣の調整だけをお願いして、特別な監視は不要だと伝えておいて」
「承知いたしました」
毎日毎日変化がない状態を監視し続けても仕方がない。
万が一、魔獣共によって命を散らせたのであれば、その時はその時だ。
とは建前で、実はあんな奴に意識を持って行く暇がなくなったというのが正直な所だ。
実は、ナタシアのお腹の中に俺の子供がいるんだ。
あんなクズより、新しい命に意識が向くのは仕方がないだろ?
クレースとファミュもとても喜んでくれている。
一方のカンザ一行。
王国での屈辱の扱いを受けた後に逃げ出すように王都から去り、再びナルバ村へ到着したカンザ一行。
前回と同様にキグスタの家を拠点として、必死で生活していた。
各自が手に持っている武器は、冒険者を始めたばかりの面々が持つような武器であり、当然手入れをするような、まともな道具もほとんどない。
聖武具であれば手入れなど必要とはしなかったのだが、安物の武器ではそうは行かない。
しかし、ほとんど道具がなければどうしようもないのも事実だ。
そして辺りには全力で戦ってようやく勝てる魔獣ばかり。
不思議と、キグスタの家には入ってくる事は無い事だけは理解する事が出来たカンザ一行だが、いつまでそんな状態が続くのかわかる訳もなく、当然夜は見張りを置いて休む事になっている。
そんな状況が続くと、当然一番に荒れるのはカンザだ。
「キグスタのせいで……絶対に許さね~ぞ!」
呪文のように日々同じ事を繰り返している。
と言うのも、以前と違ってフラウ、リルーナ、ホールの三人がカンザに対して一歩引くような事が無くなったために何かと言い合いになる事が多く、カンザの命令に従わないので、キグスタの家で獲物が持ち込まれるのを待っている訳にはいかなくなっていたのだ。
カンザ以外の三人は、キグスタの力を理解してしまってからは、一切の悪口を言う事は無くなっていた。
むしろ、カンザがキグスタの悪口を言っているのを聞くと、巻き添えを食らうのではないかと言う恐怖から、カンザとの距離を慌てて取り始める始末だ。
やがて、カンザは逆転の一手を閃いた。




