絶望の始まり
ここは、最悪の裏切りに逢った場所、ダンジョンの最下層だ。
目の前にはカンザ一行がいる。
ある程度の事情は既に話した。
妻であるナタシア、クレース、ファミュと相談し、俺の能力や悪魔の王についての真実を明らかにする事にしたのだ。
もちろん、こいつらだけではなく、俺に無条件で味方してくれていたギルドマスターのガーグルさんにも伝えるつもりでいる。
当然そこからグリフィス辺境伯や周辺にも真実が知れ渡るだろう。
こうすれば、無駄に悪とされていたアクトやヨハンの名誉も回復すると思ったのだ。
彼等にしてみれば些細な事かもしれないが、俺がすっきりしたかったのもある。
おっと、今はこいつらの事だ。
カンザ一行は、俺の言っている事を信じたくないが、目の前で起こった聖武具の破壊、そして超常の者達から発する力の一端により信じざるを得ない状況になっているのがわかる。
そんな中、俺はもう一つ個人的に伝えなければならない事がある。
「フラウ、お前にも一つ言っておきたい。お前は俺だけではなく、父さんと母さんをも裏切った。それも最悪の裏切りだ。あれだけの恩を受けておいて、あんな行為ができるやつだとは思ってもいなかったよ」
ガタガタ震えだすフラウ。
だが、そんな姿を見ても可哀そうだなどとは思う事はできなかった。
少し前の俺なら、また甘い事を言っていたかもしれない。
だが、ここ数日妻達との話で、色々と吹っ切れたのだ。
彼女達曰く、俺はフラウ達との昔の良い思い出に囚われて中途半端な対応をしている。そのせいでフラウ達が更に増長している・・・・・・と。最近のカンザ達の行動の報告を受けた感想がコレだった。
このままの状態を続けるのであれば、何れは更に他の面々にも被害が行く可能性が高い。前回の俺の両親に矛先が向かったように・・・・・・それに、直接害意がなくとも、巻き込まれてしまう人も出てくるだろう。
それが万が一クリスタにまで向かったらどうするんだ・・・・・・と。
ここは心を鬼にして、けじめをつけるべきだ。それが、強大な力を持つ者の義務でもあると。
「わかっていると思うが、当然相応の罰を受けてもらう事になる。今話した悪魔の王と呼ばれる者の真実、そして聖武具の真実を明らかにしたうえで、お前らの悪行も全て伝える」
悪行については、既に広まり始めているようだが、念のためだ。
「そうするとどうなると思う?お前らは何処のギルドにも相手にされない。つまり、魔獣の素材の取引はできない。せいぜいできても闇ギルドで買い叩かれるのが落ちだろう。今後は、日々の生活にも困る事になる」
当然こいつらは、他に生活の糧を得る手段などない。
カンザは知らないが、村から出て即訓練で戦闘以外の技術を身に着ける時間など存在しなかったからな。
そうそう、こいつらは俺の両親に虹金貨10枚と言う大金の取り立て・・・・・・と言う名の捕縛に来たんだった。
いっそ奴隷に落とすか?
いや、一気にそこまでするのはどうか?
妻達に相談した方が良いかもしれないな。
俺がここまでの行動に出る事ができたのも、悩んでいる俺を強烈に後押ししてくれた妻達のおかげだ。
「それに、魔獣を狩ろうとしても、お前らの前に現われる魔獣は普通の魔獣とは違う。戦闘能力を上乗せした魔獣だ。たとえ雑魚と思っている魔獣でもお前ら程度では返り討ちに逢うだろうな」
「な、だから最近魔獣が強くなったのか?」
カンザが反応するが、下級悪魔に髪を無造作につかまれ、床に頭を叩きつけられて流血している。
そうだ、ソレッド王国の国王には、妻の一人であるナタシアを連れて挨拶に行ってやろう。
「よし、大体言いたい事は全て伝えたか?」
「我が君、どうでしょう、あのクズは下級悪魔に恐れをなしている様子。常に監視として奴をクズの近くにおいてはいかがでしょうか?」
確かにカンザはあの悪魔に恐怖心を抱いているようだ。
常に近くに悪魔がいると思うと、生きた心地がしないだろうな。
「お前はそれでも良いか?」
悪魔に対して確認だけはしておこう。
「我が至高の主の命であれば喜んで」
「そ・・・・・・バカな・・・・・・」
またもや頭をはたかれ、派手に流血するカンザ。学習能力のない奴だ。
「まってくれ、いや下さい。キグスタ様」
突然カンザが騒ぐ。
当然後ろに控えている下級悪魔によって髪の毛を掴まれ、再び地面に叩きつけられそうになったところで俺は右手を少し上げる。
その仕草を見て、下級悪魔は髪から手を放し、再びカンザの後ろに移動した。
カンザは自分が話す機会を得たと分かったのか、饒舌に話し始める。
内容は聞くに堪えなかった。
こいつはこういうやつだと分かっていたんだがな。
俺もまだまだ甘かった。内容は、
「キグスタ・・様、お・・・・・・私は二度とキグスタ様に歯向かうような事は致しません。元を正せば、そこにいるナルバ村の面々がキグスタ様を見下し始めたのが発端です。しかも、キグスタ様の妹であるフラウは私に迫ってくる始末。しかし、その行為に堕ちてしまった私にも責は有ります。ですが、今ここでキグスタ様を裏切ったフラウ、そしてナルバ村の面々と完全に縁を切りますので、どうか配下の末席に加えて頂けないでしょうか?」
だとさ。
ふざけやがって。今までかけた恩情が全て無駄だった事・・・・・・そして妻達が言っている事が正しいのだと理解させられた。
「お前、本気で言っているのか?あれ程の事をしておいて、許されるとでも思っているのか?お前には、しっかりとした罰が必要だな」
俺の怒りの声を聞き、下級悪魔が続きを話そうとしているカンザの口を完全に塞いだ。いや、握りつぶした。
「ぐもーれげ」
何を言っているかわからないが、砕けた顎を更に握りつぶしているのだ。
痛みによる叫び声なのは間違いない。
「耳障りだ。完全に黙らせろ。だが殺すなよ」
「御意!」
下級悪魔は、更に力を込めたようで完全にカンザは意識を失って痙攣している。
命令通り命は奪っていない。
痙攣したカンザを片手で雑に扱いつつ、俺に対して膝を突き頭を下げる下級悪魔。
それを見たナルバ村の面々。カンザに完全に切られたときは動揺しており、今はカンザの無残な姿を見て驚愕している。
「ふ~、少し疲れたな」
「我が君、こちらをどうぞ」
ヨハンがいつもの通り、飲み物をくれる。
この玉座も疲れが取れる付与がなされているはずだが、それでも疲れを感じる今の状況・・・・・・よっぽど心が疲れるんだろう。
ヨハンの飲み物が、心も体も温めてくれる。
「いつもありがとうヨハン」
「勿体ないお言葉です」
<統べる者>により、溢れんばかりの喜びの感情が伝わってくる。
やはり、裏切らない絶対の配下には、しっかりと感謝の意を伝え続けるべきだろうな。
そうそう、そう言えばもう一つ伝える事があったんだ。
「リルーナ、お前、以前<精霊術>が使えなくなったと言っていたな」
今だ驚愕の表情から戻らないリルーナ。
だが、女であろうと、俺を裏切ったクズとしか認識していない下級悪魔は容赦がない。
カンザを投げ捨てると、同じようにリルーナの髪を無造作につかみ石の床に叩きつけた。
もちろん相当手加減している。そうでなければ、あれだけで木っ端みじんになっている。
「ぎゃ・・」
頭から血を流し、ようやく我に返ったリルーナ。
恋仲であるホールを確認するが、震えているだけで助ける素振りは見せなかった。
ここで、かなわないまでも助けようとする気概があれば、ほんの少しだけ見直したんだがなぁ。
「至高の主のお言葉だ。一言たりとも聞き逃すな、クズ!」
下級悪魔から指導が入り、更に震えるリルーナ。これは、さっきの俺の言葉、聞いてないな。仕方がないからもう一度だけ言ってやろう。
「良いかリルーナ、お前、<精霊術>が使えなくなったと言っていたな」
必死で耳を傾けて、意味を理解したリルーナはコクコク頷く。
すると、また同じ指導が下級悪魔より入った。
ゴン・・・・・・と鈍い音と共に苦しむリルーナの声がする。
「ゴミ、至高の主の問いかけに、声を出さずに答えるとは何たる不敬だ!」
あ~、中々話が進まないな。
投稿はここまでです。
再投稿までは少し時間が空いてしまいますが、よろしくお願いします。




