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カンザ、逃亡を試みる・・・も

 くっそ、どうしてこうなった。

 俺は、クソ雑魚キグスタを軽くあしらって、選抜メンバーに返り咲いていたはずだ。


 だが、現実は・・・・・・あの戦況に恐れをなして・・・・・・いや、決して恐れをなしたわけじゃない。あいつを叩き潰すのはあのタイミングではないと思っただけだ。


 だが、あの場から離脱したのは事実。

 あれだけの大軍だ。一人位は王都に帰還できる可能性がある。


 そうすると・・・・・・くそ!俺は逃亡者のレッテルを貼られる可能性が高い。


 どうする、どうするか?

 何れにしても王都に帰還するのは危険だ。


 唯一の希望は、俺達の手に聖武具があると言う事だ。

 とすると・・・・・・ほとぼりが冷めるまでダンジョンに籠るか・・・・・・


 またあの屈辱的な日々を過ごすのは許しがたいが、危険な状況を回避するためだ。


「おい、きっと俺達はそう時間が経たないうちに敵前逃亡の犯罪者として知れ渡る可能性が高い。その時点で逃亡しても間に合わない。屈辱だが、ダンジョンに籠るぞ」


 三人は沈痛な面持ちでトボトボと着いてくる。

 こいつらがもう少し使えれば、こんな事にはなっていなかったんだ。


 だがここでこいつらを残して俺だけ逃亡しても、俺の手足がいなくなってしまう。


 止む無く比較的レベルが高く、大して距離の離れていないダンジョンに侵入する。とは言ってもここに辿り着くまで数日はかかったが・・・・・・


 どのダンジョンでも、一階層はある程度弱い魔獣が蔓延っている。

 これは常識だ。


 だが、何故だ。このダンジョン、一階層から中層にいるべき魔獣が闊歩し、更にその魔獣の強さが異常だ。


 聖武具がある俺達の全力でも、ほとんど進む事ができない。


 止む無く撤退した俺達。

 何故こうも全てが上手くいかない。


 以前は聖武具を以てすれば、中層の魔獣とは言え難なく討伐できていたはずだ。


 ダンジョンから脱出し、一息つけるかと思ったのだが、そこにいたのは・・・・・・


「何故最下層のボスがここにいる!!」


 キグスタを葬ったはずのダンジョン最下層のボス、下級悪魔だ。

 絶好調の俺達の最高の攻撃を受けてもびくともしなかったこの悪魔。


 こんな奴に勝てるはずもない。

 周りにいる三人も、既に戦意は喪失しているのがわかる。


「我が至高の主の命により、お前らを連行する。抗いたくば抗っても良いぞ。だがその時は、おとなしくさせるためにこちらも少々力を使わせてもらうがな。私としては、むしろそちらの方が良いのだが・・・・・・」


 もう駄目だ。こんな奴に抗って勝てる訳がないだろう。

 事の始まりは、この悪魔との対峙にあったのかもしれない。


 ぼんやりそんな事を思っていると、視界が切り替わった。


 ここは・・・・・・この悪魔がいた・・・・・・キグスタを置き去りにしたダンジョン最下層だ。


「俺達をどうする気だ・・・・・・」


 何とか声を絞り出す。


「黙れ!間も無く我が至高の主がこちらにいらっしゃる。お許しがあるまで額を床にこすりつけておけ!!」


 あまりの圧力に意図せずへたり込み、額が固い石に叩きつけられる。


 既に俺の視界は目の前の石と、額から流れ出ている俺の血だけになっているが、前方に誰かが現れたような気がする。


「我が君、こちらへ」


 聞いた事もない声が聞こえるので、誰かが来たのは間違いないようだ。


「顔を上げさせろ」


 どこかで聞いたことのある声がする。


「お前ら、至高の主のお許しが出た。その薄汚い顔を上げろ」


 俺の近くにいる、あの悪魔の声で顔を上げる。

 その視界の先にいたのは・・・・・・


「キグスタ、お前!さてはお前が悪魔の王か!!この人類の敵が・・・・・・俺が今ここで・・・・・・」


 なんだ、声が出ないし動くこともできない・・・・・・いや、苦しい。

 それに、グッ・・・・・・痛い、痛い痛い・・・・・・体中が痛い!!


「そこまでにしておいてやれ、アクト」


 キグスタの声がすると、何とか呼吸をすることができた。


「このままだと話ができないな。不本意だが、回復させてやってくれ」


 再びキグスタの声がし、体が一気に楽になる。


「そんな、欠損すら治すなんて・・・・・・」


 後ろでリルーナの声が聞こえた。

 あいつの位置からは俺の状態が見えるのだが、欠損だと?


 楽になった俺は、かなりの痛みがあった右手を見る。

 無事だ。動きも問題ない。


 だが、視線を少し下に移すと・・・・・・もう一つ腕があったのだ。

 そう、あの指輪・・・・・・俺の右手だ!


 何故か震えが止まらない。まさか、この俺が雑魚のキグスタに恐れをなしているのか?


「良いかカンザ。俺はあまり非道な事をしてお前らと同じレベルになりたくなかったから我慢に我慢を重ねてきた。それに、俺を慕ってくれているあの三人にもそんな俺を見せたくなかったのもあるし、幼馴染の三人がいつか目を覚ましてくれると、甘い考えを持っていた。だが、誰にでも、何にでも、限界と言う物は有るんだ。お前は俺に、その限界を軽く超えさせるような行為をしたんだ」


 よく見ると、見た事もないような玉座に座っているキグスタ。

 そしてその後ろには執事、左右にそれぞれ二人が立っている。


 なんだこいつは、はっきり言ってキグスタからと言うより、周りの連中からの圧が凄まじい。


「お前に俺の本当の力を説明してやろう。絶望を与えるためにな。先ずはお前の手にしている聖武具・・・・・・アクト!」


 そう言うと、キグスタの右にいる男が俺に近寄ってきた。


 さっき俺を攻撃してきたのはアクトと言っていてはずだ。こいつか!!

 何とか聖武具に手を伸ばして攻撃しようとするも、体が震えて言う事を聞かない。


 くそ、後ろにいる平民共、俺を助けろ!!


 そんな俺の願いはかなう訳もなく、アクトと言われている男は聖武具を手に取ると、


「駄作でござるな」


 そう言うと、俺の目の前で聖武具を粉々にして見せた。あの聖武具をだ!!

 そんな簡単に壊れる物ではないだろう・・・・・・


「まだお前はわかっていないようだが、お前が持っていた聖武具を破壊してきたのは俺達だ」


 あの雑魚は平然と言ってのけた。だが、確かに目の前で聖武具を破壊されたのだ。信じるしかない。


「それに、もう一つ教えておいてやる。いまこの大陸で国宝と言われている聖武具を作ったのはそこのアクトだ。だが、アクトは武具を作るのは本職じゃない。所詮は子供の玩具だ」


 何を言っているんだ。この国宝とも言うべき至高の武具をこいつが作った?

 それに、この武具が玩具??

 頭が付いてこないが、雑魚キグスタは話を続けてくる。


「武具作成については、ここにいるソラリスが最も得意だ。丹精込めて作った武具は例えばこれだ」


 あれは・・・・・・<槍神>が持っていた黄金の槍!!

 あれと比べると、確かに俺達が持っていた聖武具が玩具に見えると言っても良い品であったのは間違いない。


「それにな、お前らが言っている悪魔の王・・・・・・本当に悪魔の王が人族に害を与える存在ならば、とっくに人族など滅びている。人族が勝手に相手を悪く想像し、勝手に戦いを挑み、お前らが悪魔の王と罵っている者が作った武具を手に戦っているんだ。滑稽だろ?」


 何?悪魔の王が作った武具を手に、悪魔の王に戦いを挑む???

 さっき俺達の聖武具を作ったのは、そこにいるアクトと呼ばれる者と言っていた。


「お前が悪魔の王か!」


 おれは、アクトと呼ばれている男に向かって叫ぶ。


 ぐ・・・・・・後頭部に激しい痛みが走り、一瞬意識が飛ぶ。


「ゴミ、貴様程度がアクト様に何をほざく」


 血が目に入って良く見えないが、この声はあの下級悪魔だ。

 こいつが様付けで呼ぶアクトとか言う男・・・・・・それほど危険な男なのか。


 だが、更にそのアクトとか言う男を呼び捨てで命令しているキグスタ。

 そして、玉座に座っている状況を考えると・・・・・・悪魔の王と言われている者すらも従えているのか??


「ようやく理解したようだなカンザ。俺の能力・・・・・・<統べる者>は、この超常の者達を配下にする事ができる能力だったんだ。お前に殺されそうになったこの場所で、本当の能力を知る事が出来たんだがな」


 これは・・・・・・どうすればいいんだ。

 先ずは生き残るにはどうするか考えるんだ。


 俺は必死で打開策を考えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに最終結末の様相に期待が! 悪あがき、ご都合主義の人、なんか小説ではなく、実社会でも色々と考えさせられました。 「自分だったらどうしたのか?」 [気になる点] 気になる点というより、…
[一言]  悪党は悪党らしくもう最後なのだから潔くしてほしいものですが、悪党は悪党でも"小悪党"だから最後の最後まで"悪あがき"をするのでしょうねぇ(笑)  どうやっても手遅れですが……。
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