カンザ一行、犯罪者となる
グリフィス辺境伯領にある平原。そこは阿鼻叫喚の図となっていた。
キグスタの指示により、アクトとその配下ともいえる四人の神々が迫りくる大軍を蹂躙していたのだ。
彼等はその後の修復の事も考えて力を制御しつつ戦っているので、一撃で全てが終わるわけではなかったが、まさしく蹂躙と言って間違いのない戦いだ。
最初の攻撃は、カンザの思惑通り後方からの勢いに押されるようにキグスタ達の元に殺到する国王軍。
しかし、キグスタが超常の者達を呼び出すと、状況は一変する。キグスタを守るようにキグスタを中心として四方に顕現した四柱の神々。
そして、執事としてキグスタの近くに控えるヨハン。
神々は、思い思いに大軍に立ち向かう。
迫りくる虫を軽く手で掃うように始末するのだが、この力加減が難しい。
攻撃の余波が、方向によってはグリフィス辺境伯、ウィンタス辺境伯、カルドナレル辺境伯の領地にまで及んでしまう可能性があるからだ。
ここが強大な力を持つ者の悩みどころでもある。
その蹂躙劇を見ていた指揮を執っている貴族三人。
まさか、<剣神>と<槍神>、そして最も恐ろしいと思っていたキグスタが一歩も動いていない状態で、このような大惨事が起こるとは思っていなかった。
いや、想定する方が無理と言う物だ。
彼らの目の前では、間もなく大軍が全ての命を散らす直前だった。
つまり、彼らは脱するタイミングを失ったのだ。
慌ててカンザ一行を探すが、既にこの場に姿はない。
そしてその時は来た。
突然遠方にいたと思っていたキグスタが、目の前に現れたのだ。
「「「ひぃぃ・・・・・・」」」
以前、山を吹き飛ばすほどの力を見せたキグスタ。
今回の遠征は、キグスタの相手をしなくていいと思ったからこの場に来ている貴族達。
しかし、結果は最大の脅威を目の前にし、頼るべき味方は皆無。
絶望的な状況だ。
貴族達は最後の希望に縋る事にした。
そう、キグスタの恩情だ。以前と同じように恩情をかけてもらえると思っているのだ。
「キグスタ、いや、キグスタ殿。我らは二度と貴殿に弓を引くような事はしない」
「我らは、ここで散った者達の残された家族に補償をする義務があるのだ」
「そう、そして我らにも家族がいる。私達の帰りを首を長くして待っているのだ」
黙っているキグスタを見て、この三人は無事に帰れる可能性が高くなっていると思っている。
しかし、結果は無残な物だった。
「いや、俺は前回言ったはずだ。理不尽な攻撃をしてくるならば容赦はしない・・・・・・と。お前らはカンザ達を連れてきていたな。既に逃走しているようだが・・・・・・。見限られたと言う事か」
超常の者達により、カンザの今の動きは捕捉されている。
すぐに始末するのも有りだが、ここまでされたのだ。長く苦しみを与える他ないと言う結論に達していたキグスタ。
その思いを聞いていた未来の妻達も同意してくれていたのだ。
「お前達三人の内、一人だけは生きたまま王都に帰してやる。ここで全員始末しては、カンザの裏切りを証明する者がいないからな。俺としては誰でも良い。少し時間をやるからお前達で決めるんだな」
そう言い残すと、貴族達から離れていくキグスタ一行。
残された貴族三人は動揺しているが、キグスタの言っている意味は理解している。
万が一カンザが王都にそのまま戻り、訳の分からない嘘を言って無罪になるのを防ぐために、一人だけ証人として王都に戻すと言っている。
つまり、残りの二人はここで死ぬのだ。
この非情な行為も、キグスタの覚悟の表れだ。
貴族の三人は、一人は武官、二人は文官だったのが災い・・・・・・いや幸運?だったのか、話し合いなどは一切行われず、突然武官が文官二人を切り殺した。
即キグスタが再び現れた。
「これでお前もカンザと同じく仲間を裏切り、殺した大罪人だな。だが、王都でカンザ一行の非道を証明するならば、約束通り命は助けてやる。だが、俺達を悪く言うような事はするなよ。俺達はお前ら程度赤子の手をひねるより簡単に始末する事ができるのはわかるだろう?」
つい先ほど、目の前で信じられない大惨事が起こったので、キグスタ達の力を嫌という程理解している貴族は、壊れた玩具のように首を縦に振っている。
「ならばいい。お前一人ではとても王都に帰れそうにないから送ってやる。感謝するんだな」
その言葉を最後に、貴族の目の前から消えたキグスタ。
だが、実際には貴族が王都に転移させられたので、あの場から消えたのは貴族の方なのだ。
何が起きたかわからない貴族は、見慣れた光景、そして駆け寄って来る衛兵を見て我に返る。
「まさか、転移まで使えるとは・・・・・・」
ようやく全てを悟った。
キグスタを決して怒らせてはいけない事を。今までは、キグスタの甘さにより見逃されていた事を。
だとすると、自分に残された道は一つ。キグスタの指示通り、カンザ一行の非道を国王に伝え、且つ、二度とキグスタに歯向かわない事だ。
あれ程の力を持つのだ、自分の情報など筒抜けだろうと理解している貴族は、すかさず王城に向かい国王との謁見を申請した。
出撃した軍の司令官ともいえる貴族が、不思議な日数・・・・・・そう、丁度グリフィス辺境伯の領地に到着する程度しか経過していないのだが、王都に戻ってきたのだ。
国王は不思議に思いつつも、謁見する事にした。
その場には、王太子であるドレッドもいる。
「国王陛下、申し上げます。我らが軍は全滅です。そして、キグスタを討伐すると息巻いていたカンザ一行は我らを裏切り逃亡しました」
何を言っているのか理解できない国王と王太子。
「理解できないのはわかります。私も信じたくありません。ですが、全て事実なのです。我らはキグスタの力を甘く見過ぎています。これ以上奴らに牙を向けると、この王国は成す術なく滅ぼされるでしょう」
必死で説明する。
あまりにも突拍子もない事を言われたのだが、必死さに現実であるかもしれないと思う王族二人。
だが、そのまま鵜呑みにする訳にはいかないので、移動に特化した能力を持つ選抜メンバーを平原に派遣した。
そして後日、そのメンバーからの報告を聞くと、平原には何もなく、道中も軍に遭遇する事は無かったとの事。
これは、キグスタの命により戦場の形跡を全て無くした事によるものだ。
国王と王太子は貴族を呼び出し、選抜メンバーからの報告を伝える。
「軍など会うはずもありません。全滅したのですから。それに、あれ程の力を持つのです。戦闘の形跡を消し去るなど訳もないでしょう。私はこれ以上キグスタには一切係わりません。たとえ王命としてもです」
武官として名高い貴族にここまで断言されては、信じる以外にない国王と王太子。
こうして、ソレッド王国としては今後一切キグスタに係わらない事が決定し、併せてカンザの捕縛命令が出た。
カンザとしては、選抜に復帰するはずが捕縛対象にまでなり下がったのだ。
王都からのお触れは・・・・・・
反逆者のカンザとその一行を捕縛せよ・・・・・・とある。
と同時に、国王はグリフィス辺境伯の対応に追われることになる。
キグスタ一行がグリフィス辺境伯にいる事はわかっている。
あの場所の冒険者ギルドを拠点として活動もしているのだ。
そこに、喧嘩を吹っかけて大敗した。
先ずは、あの辺境伯に謝罪と賠償をする必要がある。
「おい宰相、グリフィス辺境伯に至急赴き、我らの謝罪を伝えろ。そして、爵位剥奪や領地没収は撤回する事も伝えておけ」
国王は、虹金貨10枚と共に宰相を送り出したのだ。




