魔神と魔王、そして神
まだまだまだまだまだ 続きます。
でも、まさか魔族の括りに神が入っているとは。
普通はわからないよな。実際にこの状況を誰かに話しても信じてもらえる自信はない。
「それじゃあ、皆は顕現されていないときはどうしているの?」
「異空間とでも申しましょうか、そこで暇つぶしをしております。当初は暇つぶしの一環として、適当な人族にそれぞれ担当したスキルを与えてきました。人族はそのスキルをうまく使うのです。楽しくなった我らは、人族がある一定の年齢になったら必ず基本は一つのスキルを与えることにしたのです」
「え、じゃあ暇つぶしで俺達にスキルをくれていたって事?」
「そう言う事になります。ですが、残念ながら我が君には我ら程度のスキルでは付与する事はできませんでした。そもそも<統べる者>自体もこの世の理と申しましょうか、我らの与り知らぬ領域のスキルなのです」
とすると、俺のスキルはここにいる神々でも制御できないし、完全に理解できない物なのかもしれない。
よく考えたら当たり前か。神々を配下におけるスキルなんだから。
「そっか。スキルを与えた人達を直接確認しに行ったりとかはしなかった?」
「我らの力は正直申し上げまして強大です。<統べる者>の統制下にない状態で無理に顕現してしまうと、存在だけでこの世界を破壊しかねません」
俺にはわからない苦労だ。強すぎて困っていると言った所なのかもしれない。少し羨ましい。
「でも、幾らこのスキルが強くても俺自身が強くなったりはしないんだよな」
「大変申し訳ございません。我らの力不足によりスキルを付与できないばかりに……」
「いやいや、そういう意味じゃないから。変な事を言ってゴメン」
いや、やっぱりちょっと疲れるな。
「先ほどの悪魔が申しておりました通り、そのスライムは我が君の安全を守るために我らが手配した者です。そして、この辺りのダンジョンも安全のために我らの手中に収めております。ですが、今後遠出をされる場合には念のためお気を付けください。我らの支配下にない魔族もおります故」
この人……神達は、俺の為に色々手を焼いてくれていたみたいだ。
「そのスライムには我らがスキルを全力で付与しております。防御や攻撃も思いのままですが、我が君が特に自立を望まれておりましたので、本当の危険を避ける程度にしかスキルの使用は許可しておりませんでした。これからは、我が君に制御をお任せいたします」
確かに、ダンジョンの中で命の危険に晒されたことはない。そう言う事だったのか。
てっきり俺達の実力がようやく上がってきたのかと思ったが……現実とはこんなもんだな。
「それで、我が君。これからいかがいたしますか?あの傍若無人なゴミ共に立場を分からせますか?」
少々怒りの気配を出しているヨハン。つられて俺の状況を分かっていた幹部の面々から殺気が洩れる。
あまりの力に、俺も少し別のものが洩れそうだ。
「ちょっと、待って!!落ち着いて。放っておいてあげてよ。今後については、とりあえずゆっくり考える時間……あるのかな?」
「これは大変失礼いたしました。もちろん時間はございます。もし宜しければこの場所を少々改造いたしましょうか?」
「でも、ここってダンジョン最下層だよね?」
「今現在はそうですが、我らにかかればダンジョンの改造など容易い事でございます。この層を更に地下に潜らせて独立し、新たな最下層を作成しておけば問題ございません」
何でもありらしい。
「じゃあ、お願いしようかな」
「承知いたしました!」
何か俺に命令されるのが嬉しいらしい。
スキルを通してうれしい気持ちが伝わってくる。
「もし今後俺が冒険者を続けるとしたら、魔獣達は討伐せずに薬草採取とかをメインにした方がいいのかな?」
「なぜでございますか?」
「いや、だってさ、魔獣と言ったらある意味<統べる者>の配下になってるんだよね?配下を自分で殺すって……」
「確かに配下にはなっておりますが、低俗の魔獣には自我はございません。ある程度のレベルになりますとようやく自我が芽生えますので、その程度の魔獣はお気になさらずともよろしいかと思いますが。そもそも低レベルの魔獣は湯水の如く湧いてきます故」
「でも、自我のあるなしってどうやって判別できるの?」
「自我が完全にあるものであれば、我が君に攻撃することは一切ございませんので判断が付くかと思います。まあ、一部自分の力を過信している身の程を弁えない跳ね返りも少々おりますが、その辺りは私共がお守りいたします。ですが、先程申し上げました通り、我らの配下にない魔族もおります故十分ご注意を」
これならば、いつも通り安全にさえ気をつけておけば、気にせずに冒険者はできそうだ。
「じゃあ、少しゆっくりさせてもらって今後の方針を決めようかな」
「承知いたしました。既に階層は移動済みですのでどうぞごゆっくりお休みください」
そう言って、眼前には豪華なベッド、食事、そしてドアのついている個室が現れた。
「こちらは浴槽となっております。お好きな時にご使用ください。何かありましたらお呼び頂ければ馳せ参じます」
「ありがとう」
「それとギルドの受付ですが、あ奴らがあらぬ報告をするかもしれません。こちらで対処いたしますか?」
そう言って、受付をしていた精霊王を見るヨハン。
「いや、放っておいてもらってもいいかな?」
「承知致しました!」
そう言うと、全員が目の前から消えた。
残ったのは、本当に無駄に豪華な玉座、ベッド、個室、食事だ。
とりあえず色々ありすぎて疲れたので、一旦眠らせてもらおう。
今だってこの状況が夢じゃないかと疑っているくらいだ。
仲間の裏切り、死の恐怖、超常の存在、そして魔王、魔神の正体、更には<統べる者>の力……普通こんな事が一日で起きるなんてありえない。
精神的にも肉体的にもかなり疲れていたので、目の前にある見たこともないようなふかふかの布団に飛び込むと、あっという間に意識は飛んで行った。