カンザ一行、謁見の間へ
ようやく、ようやく俺は選抜に舞い戻り、この平民共とも袂を分かつことができる。
良く考えてみれば、俺の輝く未来に暗雲が立ち込め始めたのは、こいつらとパーティーを組んでからと言っても過言ではないのだ。
常に正しく先を読む事ができる、この大英雄の素質をもつ<槍聖>のカンザ様の指示に黙って従っていればいい物の、最近は時折反抗してくるようになってきた。
あいつらは、この高貴な俺と同じ立ち位置にいると勘違いしているようだ。
実際、ダンジョン最下層でも俺に魔獣を狩ってこい等と、不敬極まりない事を言ってのけたのだからな。
選抜メンバーから落とされ、聖武具も失い・・・・・・全ての元凶である平民共と行動を共にする事がなくなるまで、あと少しだ。
次の選抜メンバーパーティーは高貴な血筋を持つ者、そしてこの俺様に従順である者、最後にここが重要だが、見た目麗しい女性である事を条件にしておこう。
最初からこうすればよかったのだが、あの時はフラウに目が行ってしまったのだったな。
「なんであんなに兵士が集まっているんだ?」
ホールが騒ぐので、せっかく次の構想を頭の中で練っていたのだが中断されてしまった。
この辺りがやはり平民なのだな。
俺の行動を阻害するなど、あってはならないのだ。
だが、確かに兵が門の入口に群がっている。
様子を見る限り・・・・・・どこかに出兵した帰りの様だが、誰も重症を負っている者はいない。
そすると、大規模な訓練か。
しかし、訓練であろうと何であろうと、これから選抜に復帰する俺の障害になる事は許されない。
俺は、貴族専用の入口に向かい、王都に入る。
そこには、兵達の入国の手続きによって増員されたであろう、見た事もない門番がいた。
だが、そんな奴でも当然高貴な俺の事は知っているのだろう。何の問題もなく入国する事ができた。
「おい、このまま王城に向かうぞ。リルーナ、素材は問題ないな」
「大丈夫よ」
よしよし、もうすぐだ。
こうして王城に到着し謁見の間に向かうが、何やら高位貴族が国王に報告をしていると言う事で、入室に待ったがかかった。
どうせ大規模訓練の結果を、さも大変だったかのように報告しているだけだろう?
そんな報告と、俺が選抜メンバーに返り咲き、悪魔の王からこの世界を守る事、どちらの優先順位が高いかなどは考えるまでもないだろう。
入口を阻む木っ端役人を押しのけて、俺は謁見の間に入室する。
そこには、確かに見た事がある貴族三人が国王と・・・・・・あれはドレッド王太子か?がいる。
随分と驚いた顔をしているが、当然だな。
なんと言っても世界の救世主たる大英雄・・・・・・になる予定のこの俺様が帰還したのだからな。
「おいリルーナ、さっそく素材を出せ」
返事もなく素材を俺の目の前に出現させるリルーナ。
俺は今機嫌がいいので、この不敬は許してやろう。
そもそも、平民如きが国王や高位貴族の前でまともに話せるとは思っていない。
「国王陛下、このカンザ、高位の魔獣を狩ってまいりました。これで私は実績を示せたはず。約束通り、選抜メンバーへの復帰をお願いします」
全員が俺の方を見ている。
そこに、国王が最後の試練とか言う事を言ってきたのだ。
その内容は、なんとあのキグスタの討伐だ。
確実に死んだと思っていたあのキグスタ。ついこの間、あの辺鄙な村で俺の手を砕いたあのカス。この際止めを刺しておくのもいいかもしれない。
あの戦闘は、俺の調子が悪かったせいであんな結果になっただけだ。
本来の力を持ってすれば、上位スキル持ちのこの俺が、あのカスに負ける理由はない。
だが、その時には、<剣神>と<槍神>が近くにいるだろうから注意が必要だな。
あいつらの力はキグスタと違って本物だ。悔しいが、最上位スキルは伊達ではない。
「陛下、その際にはキグスタの対応に集中したいため、<剣神>と<槍神>は軍に任せたいのですが宜しいでしょうか?」
俺は、国王の前にいる高位貴族の三人に向かって話す。
お前らは個々の戦力は大した事は無いが、無駄に数を揃えることができるんだ。
二人と無数の軍であれば、確実に勝利する事ができるだろう。
その間に、俺はあのクソ雑魚キグスタを捻り潰せば選抜確定だ。
「いいだろう。お前達も良いな?」
国王の指示により、三人の貴族達も頷いて了承の意を示していた。
よしよし、あの二人さえいなければ、俺達の勝利は間違いない。
フフフ、国王達はあの二人の本当の強さを知らないのかもしれないが、実際に対応するあの貴族三人はとんでもない奴らを敵に回したな。
自らの兵士がどれほど犠牲になるのか・・・・・・俺の知った事ではないが。
だが、俺にとってみれば、かなりの犠牲は出るだろうが、目障りな<剣神>と<槍神>の二人も消えてくれるので、嬉しい事この上ない。
唯一残念なのは、もう少しだけこの平民共と行動を共にしなくてはならない事か・・・・・・
だが、こいつらはキグスタと同じ辺鄙な村出身・・・・・・なんと言ったかな、ナルバ村だったか?あまりにも俺に相応しくない辺鄙な場所だったから、合っているかはわからないが、同郷だ。
そんな奴ら同士が争う様を見るのも一興だな。
以前のダンジョン最下層での茶番は中々面白かった。
次はどんな茶番を見せてくれるのか・・・・・・楽しみだ。
そう考えると、もう少しだけこんな平民共と行動を共にする事も許せてくる気がする。
俺も中々寛大になった物だ。
「おい、お前らも出撃の準備をしておけ」
パーティーリーダーとして、最後の作戦の指示を出す。
フフフ、選抜メンバー復帰の暁には補助金で豪遊してやろう。
今までのように、野宿等は有得ない。
まあ、こいつら平民にはお似合だがな。
ハハハハ
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だが、カンザは知らない。
カンザが最も恐れている<剣神>と<槍神>よりも、最も危険な人物は別にいる事を。
そして、その危険な人物は、雑魚と疑っていないキグスタその人である事を。以前の戦闘で手を粉々にされたのは、決してまぐれではなく、手加減すらされていた事を。
もちろん出撃する貴族達も、最大の脅威であるキグスタを自信満々で引き受けたカンザを見て安心し、<槍神>と<剣神>の対応を引き受けたのだ。
貴族達からしてみれば、キグスタを相手にするならば、<槍神>と<剣神>を相手にする方が百万倍もましなのだから・・・・・・
真の事実を知らないカンザは、最も楽な相手をするだけで選抜復帰になるのだから、今この時も気負うことなく過ごしている事だろう。




