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ドレッド王子の憤慨

 私はドレッドだ。


 怒り心頭のドレッドだ。

 わかるか?この私の怒りが。王族である、王太子であるこの私を、ここまで怒らせる事があったのだ。


 不敬罪の代償としてグリフィス辺境伯領に攻め入った国王軍が、あのキグスタとか言う、スライムしか使役できない荷物持ち一人に恐れをなして、全員が尻尾を巻いて撤収・・・・・・いや、逃亡してきたと言うのだ。


 逃亡だぞ、逃亡。逃げ帰ってきたのだ。何もせずにだ。

 道理で誰も大怪我をしていないはずだ。


 軽傷の者は散見されたが、それは慌てて逃げる時に怪我をしたと言うではないか。


 これが王都から派遣された軍!

 くっ、あまりの怒りからか、頭がフラフラしてきた。


 こんな報告を受けて、王太子であるこの私が怒らない訳がないだろう。


「不敬罪であるグリフィス辺境伯を攻めるために出兵した。にも拘らず、何の戦闘もせずに敵前逃亡をした罪、どう償う?」


 国王の言う通りだ。

 この失態、この場にいる三人の責任は重大だ。


 しかし、国王の問いかけに回答できる者は誰一人としていなかった。

 イライラする。


 次の行動は決まっているだろうが!失態をなかった事にするために、次こそは完膚なきまで反逆者共を始末する。


 これ以外あるわけがないだろう!何故こんな簡単な言葉が出てこないのか不思議でならない。


「お前達は敵前逃亡と言う出兵時には最も行ってはならない行為を行った。だが、私も鬼ではない。今までの忠義を鑑みて、挽回のチャンスをやろう」


 三人は誰も口を開かないまま、国王の続きを待っている。

 ここは、国王の恩情にお礼を言う所だろう。


 こいつらの態度は目に余る。


「その方達がキグスタ如きに恐れをなした事は、聞かなかったことにする。だが、そこまで言い切るのだから、既に恐怖は心に刻み込まれているだろう。だが良く考えろ。キグスタは一人。反逆者である辺境領は三つ。キグスタに遭遇しないように、個別に攻める事はできるだろう」


 流石は国王だ。キグスタと直接対峙しない道を示しつつ、反逆者共への見せしめも行える。

 向こうには<剣神>と<槍神>もいるが、それでも三人だ。


 しかも、この三人の話を信じると、<剣神>と<槍神>よりも遥かに強大な力を持っているキグスタ。

 つまり、キグスタのみに気を付ければ、残りの二人は何とかなるはずだ。


 流石に三人も理解できたようだ。


「陛下の恩情、感謝いたします。我ら再び進軍し、元辺境伯に罪を償わせてまいります」


 ようやく真面な事を言うようになったな。


 だが、この面々ではキグスタと対峙する事はできない。もしキグスタが現れると言う情報を掴んだら、即逃亡する事になるだろう。

 そこは悩みどころだ。


 すると、私の悩みを解決するように謁見の間の扉が大きく開き、不敬ながらも見知った顔がこの謁見の間に現われた。


 そう、剣術指南役として任命しても良いと思っている<剣聖>フラウと、あれはカンザとか言う<槍聖>を持つ者、そしてその一行だ。


 こいつらは、キグスタと同じパーティーメンバーだったはずだ。

 つまり、弱点も熟知しているだろう。この際、聖武具を破壊し続けていたことは不問とし、こいつらをキグスタの元に向かわせるのが最良だ。


 すると、カンザは突然大声で自分の主張を話し始めた。


「国王陛下、このカンザ、高位の魔獣を狩ってまいりました。これで私は実績を示せたはず。約束通り、選抜メンバーへの復帰をお願いします」


 そういえば、こいつらは失態続きで選抜から落とされていたんだったな。

 前代未聞だぞ。だが、こいつらは使いようがある。


「陛下、あいつらをキグスタの元に向かわせ、その討伐を持って選抜復帰を確約すれば宜しいかと・・・・・・」


 小声で進言すると、国王は頷いてくれた。

 流石は父上、理解が早い。


「カンザよ、魔獣討伐ご苦労であった。最後にお前に試練を与えよう。お前も良く知っているキグスタ。奴らは反逆者にも拘わらず、グリフィスの所でのうのうと過ごしている。今回討伐隊を差し向けるのだが、キグスタ一行についてはお前達に任せたい。その戦果を持って、選抜メンバーへの復帰を認めよう」


 一瞬不満な顔をしたカンザだったが、選抜メンバー復帰の確約を得た事が効いたのか、承諾した。


 だが、このカンザは注文を付けてきた。

 <剣神>と<槍神>を軍で対応するように言ってきたのだ。

 キグスタの対応に集中したいらしい。


 それはそうだろう。この貴族達の話を聞く限り、集中して対応しないと危険な相手らしいからな。


 当然国王と、軍を再び率いる貴族の三人は承諾した。


 逆に言うと、一番の問題であったキグスタの対応をしなくて良くなったのだから、全てのピースが上手く嵌ったのだ。


 当然この場にいる三人の貴族も同じことを考えているのだろう。

 キグスタを相手にしなくても良いと分かった瞬間、安堵の表情に変わったのが見て取れた。


 どれだけあの荷物持ちに恐れをなしているのだか・・・・・・


 こうなると向こうは全滅するだろうから、<剣神>を側室に迎える事はできなくなるだろうが、王家としてのメンツを保つ方がはるかに重要なのだから、そこは我慢しよう。

 私は我慢もできる王太子なのだ。


 そう言えば、あのカンザとか言う小物は、やけに選抜復帰に執着しているようだ。

 確かに以前は選抜メンバー最強を誇っており、我がソレッド王国の誇りとも言えたのだったな。


 今回、キグスタとか言う荷物持ちを始末する事に成功できれば、再び最強の座を手に入れる事になるだろう。


 あの貴族達の言葉を信じるならば、山をも吹き飛ばすキグスタを討伐するのだからな。

 まあ、私はそんな戯言信じてはいないが。


 そして、将来ソレッド王国所属の選抜メンバーとして悪魔の王を打ち破れば、他の国々に対して我が国が優位になる事は間違いない。


 中々素晴らしい未来ではないか?


 ようやく敵前逃亡と言う大失態に対しての怒りが消えてきた。


 ソレッド王国繁栄の為に、そして我ら王族の為に、その命を捨てる心づもりで事にあたって貰いたい物だ。

 そう期待して、再び部屋に戻る。


 今度こそは、朗報を聞けるだろうと確信している。

 全てのピースが嵌るあの感覚を、私は信じている。


 フフフ、ソレッド王国の、いや、私の未来は明るいぞ。

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