歴史的無傷の大敗
私は、ソレッド王国の王太子であるドレッドだ。
私には過去姉と呼ばれる存在がいた。
名をナタシアと言う。
以前は仲良くしていた記憶があるが、今あの女は王族ではなく反逆者だ。
と言うのも、悪魔の王に唯一対抗できる武器と言われている聖武具を持って逃亡した荷物持ちを庇っているのだ。
その愚行に手を貸しているのは、あのナタシアだけではない。
なんと、このソレッド王国最強の二人、最上位スキルをもつ<槍神>クレースと<剣神>ファミュも荷物持ちの味方をし、この王都から出て行ったと言うのだ。
当然父上はそんな奴らに与える聖武具はない・・・・・・と返却を要請した。当然だ。ソレッド王国を守護する位置にいるので国宝を与えているのだ。
ここを出る輩にそのまま国宝を与え続ける方がおかしいだろう。
だが、あの最高峰の武具と言われる聖武具を返却しなくてはならないと理解出来たら、自らの過ちを認めて謝罪し、この王都に残ると思っていた父上の考えは脆くも崩れ去った。
あの最強の二人は、まるで無用の長物とでも言う態度で国宝の聖武具を床に放り投げると、そのまま出て行ってしまったらしい。
よくよく聞くと、事の発端はあの荷物持ちの両親の捕縛命令・・・・・・当時、荷物持ちは死亡したと考えられており、聖武具の補償をその両親にさせる方針だったのだが、その命令に激怒したと言うのが真相らしい。
挙句に、万が一荷物持ちの両親の捕縛が成功していた場合、国王を滅していた!とまで言い放ったそうだ。
不敬罪の極みで、即刻死刑と行きたい所なのだが、いかんせん最強の二人であるので、及び腰になっている間にさっさと出て行ってしまったとの事だ。
私はこの話を聞いて、<剣神>ファミュに対する熱い思いが一気に冷えていくのを感じた。
高貴な私は<剣術>と言うスキルを持っており、その技を磨いている。
このまま技を磨き続ければ、<剣聖>への昇格も確実だろう。
その為、近い未来の私、つまり、より高位の<剣聖>や<剣神>を持つ者に憧れがある。
直近では、選抜メンバーから脱落はしたが、<剣聖>フラウに憧れていた。
もちろん<剣神>ファミュにも憧れていた。
言葉使いは少々悪いが、あの美貌。将来の私の側室にしてやっても良いと思っていたのだが・・・・・・
私の憧れだった対象は、選抜メンバーから脱落して聖武具クラッシャーと呼ばれるリーダーのパーティーに所属している。
そしてもう一人は、ソレッド王国をこっ酷く裏切り、荷物持ちの所にいる。
どうだ?こんな状況が許されると思うか?
当然答えは否だ。
そんな思いを持ちつつ、<剣神>ファミュを取り返す方法がないかを思案していたのだが、中々そんな方法は思い浮かばない。
あんなクズ荷物持ちに、私の側室が取られると思うと気が狂いそうだ。
<剣聖>フラウは、再び選抜に選ばれる程の実力を示した暁には、私が<剣聖>を得るまでに剣術指南役を命じても良いかと思っている。
あの女も中々の美形だし、私の指南役としては適任だろう。
今の選抜から脱落したままでは話にならないが。
そんな中、グリフィス辺境伯領にいるとされる反逆者のナタシアを取り戻しに向かった宰相が父上に結果を報告する。
あのナタシアはクズ荷物持ちと添い遂げると宣言したらしい。
ここまでコケにされてはソレッド王国のメンツが丸つぶれだ。
しかも、その場には<剣神>ファミュもいたと言う事だ。
なんという屈辱!!私の側室を・・・・・・
だが、父上の決断で全てが丸く収まるだろうと確信した。
ここまでコケにされたのだ。
当然クズ荷物持ちや、ナタシアの存在をごまかしていたグリフィス辺境伯の爵位剥奪、領地没収が決定された。
しかし、流石はクズを庇う連中、まともな判断ができる訳もなく、国王である父上の命令を完全に無視したのだ。
こうなると、こちらとしても罰を与えない限り他の貴族達にも示しがつかなくなる。
当然出兵となるのだが、あろうことかグリフィス辺境伯の両隣の領地を治めているウィンタス辺境伯とカルドナレル辺境伯までもがグリフィス辺境伯の方についた。
とは言え、あちらについた貴族はグリフィス辺境伯を含めて三人。
最早勝負は決まったと言っても良いだろう。
私は、自室で勝利の報告が来るのをゆったりとした気持ちで待つ事にした。
王都が騒がしくなり、兵達が帰還したことを知った私は、謁見の間に向かう。
その途中で町を見下ろすと、入門待ちの兵士が多数いるのがわかる。
これは、出撃した時と人数が変わっていないようだ。
つまり、大勝利なのではないか?
想定していたよりもはるかに多い人数が帰還している。
ひょっとすると、奴らは我らの大軍に恐れをなして既に逃げ出していたのかもしれない。
だとすると、<剣神>と<槍神>も逃亡している事になり、連行できていないかもしれないが・・・・・・
そんな不安な気持ちを持ちつつ、謁見の間に向かった。
私が謁見の間に着く直前、向こうから今回出撃した軍を率いる貴族がやってきているのが見えた。
心なしか足取りが重い様に見えるが、あれだけの大軍の往復を率いたのだから、疲れがたまっているのだろう。
あとで少しは労ってやるとしよう。
・・・・・・「面を上げよ」
父である国王の声に、貴族三人が顔を上げる。
近くで見ても、やはり相当疲れた顔をしている。
「あの兵の数を見る限り、圧倒的な勝利だったようだな。よくやった」
国王から当然の労いがあるのだが、その言葉を聞いて三人は喜ぶ事もなく、お互いを目で牽制している。
少し様子がおかしいぞ。
「恐れながら申し上げます」
三人の内最も爵位が高かった気がする一人が話し始めた。
「我らグリフィス辺境伯の領地に向かって進軍いたしました。その道中、広い平原にて、<槍神>クレース、<剣神>ファミュ、ナタシア、キグスタ、そして執事の五名と遭遇いたしました」
くそっ、おれの側室が未だに荷物持ちの傍にいたのか。
改めて聞くと、やはり癪に障る。
「そして・・・・・・キグスタと言う者・・・・・・あれは決して無能な荷物持ちではありません。恐るべき力を持っております。はっきり申し上げて、<槍神>や<剣神>よりも遥かに強い力があるのです」
三人共青い顔をして震えている。
どういう事だ?
「あの者は、我らの目の前で山を一瞬で吹き飛ばして見せました。あんな事は決して<槍神>や<剣神>の全力でも絶対にできません」
「私もこの目で見ました。いえ、我ら全員が目撃しているのです」
「あのような力を持つ者にかなうはずもなく、撤退してきたのです」
そんな馬鹿な。こいつらは、あの荷物持ち一人に怯えている。そんな事はあってはならない。
「バカを言うな。山を吹き飛ばす?お前らの目は節穴か。その六つの目は飾りなのか!!」
思わず思った事がそのまま口に出てしまったが、それほどふざけた事を言っているのだから仕方がない。
「ドレッド殿下、我らをお疑いか?」
「そうですぞ、それならば兵士にも聞いてみると宜しいでしょう」
「我らも確かに突然そのような事を言われれば、信じられなかったでしょう。ですが、これは紛れもない事実なのです」
くっ、ここまで言い切ると言う事は・・・・・・とても信じ難いが事実なのか??
「それでは、その方達はキグスタ一行と戦闘すらせずに王都に帰還してきたと言う事か?」
国王の言葉に、誰一人として否とは言わなかった。
さらに、屈辱の一言を平然と言ってのけた。
「キグスタは、我らと戦闘をしたときに、あの力を使えば間違いなく死亡するであろう兵士達の残された家族、友人、恋人等の心配をし、退却するように進言してきたのです」
つまり、大軍で五人と対峙していたにも拘らず、恩情をかけられた上にスゴスゴ逃げ帰ってきたと言うのだ。
進軍を提言したこの俺の顔に泥を塗るばかりか、唾まで吐いている事がわからんのか!!
あまりにも不敬、不敬極まりない行為だ。




