辺境伯VS国王(1)
俺は、ヨハンから情報を得た。
残念ながら間も無く王都からの兵が、グリフィス辺境伯の治めるこの領地に到着すると言う物だ。
その後少し時間をおいてから、同じ情報をガーグルさんからも得た。
「あ~あ、やっぱり来ちゃったか。来ないのが一番良い結末だったんだけどな。仕方がない、ヨハンの考えてくれた作戦を実行しよう」
「大丈夫ですよキグスタ様。ヨハン様の案は完璧です!!」
「今回は、私たちの出番はなさそうだな。頑張れよキグ坊」
「ウフフ、後ろから応援していますね、キグスタ君」
パーティーメンバーの声が、俺にやる気を出させてくれる。
「で、ヨハン、今回の山を吹っ飛ばす件だが、誰の力を使うんだ?」
「今回は、我が君の動きと同調しやすく、王都の兵から視認できないと言う条件を考えますと、精霊神ハルムが宜しいかと存じます。良いなハルム」
「はっ。全身全霊でご主人の期待に応えて御覧に入れます。全てお任せください」
いつもの通り、どこからともなく現れた超常の者。
今回は久しぶりに力を奮えると言う事で、ハルムのやる気も中々だ。
ハルムの力であれば、俺の近くに視認できない精霊を纏わせ、俺の体の動きに合わせて精霊が力を奮ってしまえばそれでお終いだ。
残りの超常の者達・・・・・・全員ではないが、一部の者達はせっせと王都の兵の進行方向を制限するように、辺りの道を破壊しているらしい。
ここにいても音や振動が伝わってこないのだが・・・・・・まあ、超常の者達だからな。
「よし、それじゃあ行くか、皆!」
俺の掛け声で、ヨハンが俺達のパーティーをあの平原まで飛ばしてくれた。
「今回の目標は・・・・・・そうだな、あの一番大きい山で良いか?ハルム」
「承知いたしました」
あんな大きな山を軽く吹き飛ばせる力を持つんだから、とんでもない力だ。
ヨハンによれば、向こうの兵士達がこの平原に到着するにはもう少し時間がかかるらしい。
その声を聞いたクレースが、ヨハンに何かをお願いしている。
??と思っていると、ヨハンは何やら軽食を出してくれている。
魔法で収納している物だ。
「じゃあ、少し時間があるみたいだから皆でいただきましょ?さっ、キグスタ君もこっち来て!!」
クレースが有無をも言わせない勢いで軽食を勧めてくる。
まあ、確かに時間もあるみたいだし、丁度小腹が減っていたから良いか。
一口で食べられるように、大きさが工夫されたパン。
口に放り込むと、程よい硬さの肉?か何かがパンの中に入っていたようで、噛めば噛むほど濃厚な味が染み出してきた。
「おっ、これは美味いな。しかも一口で食べられるから、気軽に食べられるのも良い」
「でしょ~、キグスタ君の為に頑張ったんだから」
どうやら、前回のファミュの食事が美味しかったので、対抗心を燃やしたクレースが頑張って作ってくれていたらしい。
そして、その食事がダメにならない様、時間経過のない保管ができる魔法をつかえるヨハンに保管してもらっていた・・・・・・と。
ありがたい話だ。
だが、料理の話になると、ナタシアは若干大人しくなる。
王城で王女として過ごしていたので、料理の経験などある訳もなく、少々苦手にしているからだ。
でも、裁縫が得意で、とても気が利く女性なので問題ないと思うのだが、本人は納得できないらしく、人知れず・・・・・・いや、既に全員にばれているが、日々修行をしているらしい。
そんな微笑ましい事を思いつつ、かなりの量を食べてしまった。
あまりの美味しさと、食べやすさにやられた感じだ。
「我が君、そろそろ向こうから到着します。既に先兵が数人、あちらの木の陰からこちらを監視しております」
ヨハンの言う木の陰・・・・・・そもそも木が遠すぎてどの木だか俺にはわからない。
スライムに頼んで遠方の情報を視認させてもらうと、ようやくヨハンの言っている事が理解できた。
確かに数人、こちらを視認しているような行動を取っている。
特殊なスキル持ちなのだろうか?
ヨハンに聞けばわかるだろうが、興味がないので放っておこう。
だが、向こうの先兵は報告に困るだろうな。
迎え撃つ兵が大量に平原に配置されている予想をしていた所に、実際は四人のパーティーと一人の執事が軽食を楽しんでいるのだから。
そうそう、今はヨハンは姿を隠していない。
まさに、俺の執事としての立ち位置にいる。
一方のハルムは姿を隠してはいるが、すぐそばにいるのは<統べる者>でわかってる。
もう少しで作戦実行だな。
「我が君、本隊がこちらに向かっております。この平原には脅威はないと判断したようです。皆様の正体も先兵はわからなかったようです」
それはそうだろうな。こんな場所でまるでピクニックみたいな事をしている四人組と執事一人。
どこかの御令嬢か御子息が、友達を連れて遊んでいるようにしか見えないだろう。
もちろんそう見えるのは、ヨハンが付け加えていたように、俺達の正体がわからない者に限定されるけど。
危険がないと先兵から情報を得た本隊は、隠密行動をする必要がないと判断したのか、かなりうるさい行軍をしている。
「キグスタ様、いよいよですね。頑張ってください」
「しっかりなキグ坊」
「ウフフ、緊張しなくても大丈夫ですよ」
おっと、少し緊張していたようだ。でも、こんな美人の未来の妻三人に応援してもらえるなんて、とんでもない幸せ者だな。
やがて、ある程度本隊が平原に入り込むと、流石に俺達を知っている人間がいたのだろう。
俄に騒がしくなっている。
だが、向こうは大軍、こちらは四人と執事の五人。脅威になり得ないと判断したのか、煌びやかな鎧を着ている数人が軍隊から離れて俺達のほうに少しだけ近づいてきた。
「そこにいるのは、元王女ナタシア、そして<剣神>ファミュ、<槍神>クレース、更にはキグスタだな。お前らは反逆罪で罰するように王命を受けている。お前らを始末した後は、お前らを庇っていたグリフィス、そしてその仲間のウィンタスとカルドナレスも同じ道を辿らせる」




