グリフィス辺境伯の依頼を受けたキグスタ一行
俺は、いつもの通りに魔獣を狩り、ギルドに素材を換金しに来た。
いつの間にかワリムサエの町のギルドの職員になっているミルハが、俺達の専属だ。
もちろん俺のパーティーは、ミルハの本当の正体を知っている。
ので、最初はオドオドしていたのだが、ミルハの人柄か、今では気さくに世間話が出来るほどになっている。
換金が終わると、ギルドマスターの部屋に案内された。
「おっ、待っていましたよ、キグスタ様。そしてメンバーの皆様」
このギルドマスターのガーグルは、俺が大恩人の孫なので、やけに下から物を言ってくる。
俺の方が年下なので、敬語は止めてくれるようにお願いしたのだが、大恩人の孫にそのような態度を取るわけにはいかない!!と頑なに拒否されてしまった。
「実は、ワリムサエの町を領地の一部としているグリフィス様は、この度とある事情で国王と決別する事になりました。近いうちに王都から貴族の兵を伴った軍がこちらに攻めて来るでしょう。我らはグリフィス辺境伯、ウィンタス辺境伯、カルドナレル辺境伯の三名で迎え撃つことになります」
ガーグルは国王と揉めた理由を濁しているが、明らかに俺達が原因だ。
その位は考えなくともわかるし、ヨハンから正確な情報も貰っている。
だが、このガーグルの気遣いを無にする訳にはいかないので、追及するつもりはない。
「ガーグル様、確か私の記憶違いでなければ、ウィンタス卿とカルドナレル卿は、ここグリフィス辺境伯領地に接している領地を有していると思いますが、間違いないでしょうか?」
「流石はナタシア様。その通りでございます」
成程、そうするとあちらこちらに守りをつける必要がなく、ある程度纏まった場所で戦力を展開できる事になる訳だ。
「実は、グリフィス辺境伯から、王都からの兵に対抗すべくキグスタ様とパーティーメンバーに指名依頼が来ております。可能であれば、受諾いただきたいのですが」
俺一人で決める訳にはいかないので、三人を見る。
すると、全員が笑顔で俺を見ているだけだ。
「?・・皆、どうする?皆の意見が聞きたいんだけど」
「フフフ、キグスタ様の意見に従いますよ」
「そうだぞキグ坊。でも、もう気持ちは決まっているんだろ?」
「キグスタ君の好きにして頂いて良いんですよ?皆あなたに従いますから」
そんな事を言われても、なんだか俺が独裁者みたい・・・・・・いや、そんな事は無いか。
俺を信頼してくれているからこそだな。
期待を裏切る事のない様に、気持ちを引き締めておこう。
「わかった。それじゃあガーグルさん、その依頼謹んで受けさせて頂きます。王都から兵が来た場合、全ての町の門は閉めてください。我々であれば、門が閉まっていても外に出る事が出来ますから。とにかく民の安全を第一でお願いします」
「おお、ありがとうございます。これでグリフィス辺境伯に良い回答を持ち帰る事ができます」
元はと言えば俺が原因だと思うのだが、なんて良い人達なんだ。
超常の者達の力があれば、何の苦労もなく王都の兵を蹴散らすことは可能だ。
だが、王都の兵も家族がいる人がいるだろう。できれば無傷で負けを認めさせたい。
ギルドマスターの部屋を出た俺達。
人気の無い事を確認すると、ヨハンを呼ぶ。
いちいち人気を確認しなくても、ヨハンは状況を把握して、必要に応じて姿を隠してくれるのだが、念のためだ。
常にそう言った行動を取っていないと、何かあった時に油断が生じるからな。
「ヨハン、何れ来る兵達を傷つけずに戦意を刈り取る方法は有るか?」
音もなく現れるヨハン。
「我が君、それであれば、相対する場所から選定致しましょう。相手の数は相当数になると思われますので、平原、そしてその場所からは山々が見える所がよろしいでしょう。昨日魔獣を狩りに向かった途中の平原が宜しいかと思います」
ヨハンの言っている場所は良く分かった。確かに昨日は魔獣を狩りに行く途中に平原があって、そこから山が見えた。
その平原でお弁当を食べたのでよく覚えている。
いや~、あの料理はとてつもなく美味かった。
あの料理は、ファミュが作ったらしい。
素材は最高級品をヨハンが準備したが、全ての調理はファミュがしたんだそうだ。
少し粗暴な言葉使いではあるが、見た目はとてつもない美人、そしてここまで料理の腕があるとは思わなかった。
その時に、長く共に行動をしているクレースが悔しがっていたのが印象に残っている。
「いつの間にかこんなに上手になったのですか?私も、うかうかしていられません。でも、本当に美味しい。く~・・・・・・」
と言っていた。
「我が君、宜しいでしょうか?」
おっと、いかんいかん、今は作戦を教えてもらっている最中だった。
「ごめん、良いよ、続けて」
「それで、その平原で我が君達が兵と相対します。我が君達の数は四名ですので、相手は油断して即攻撃はしてこないでしょう。万が一攻撃してきても、我らの力を使いますので、傷一つ付く事はありません。そして、相手が油断している時に、我が君の全力の攻撃を山に向かって放つのです。我らの力をお使い頂ければ、山など吹き飛ばす事は造作もありません。その力を見せつければ、王都の兵はあっという間に戦意を失うでしょう」
人一人の攻撃で、山を吹きとばす・・・・・・
確かに、俺が兵の立場だったら秒で逃げ出すな。
そうそう、ヨハン達超常の者達には、<統べる者>を持つ俺は皆の力を貸してもらえる事こそ俺の力である・・・・・・と俺の考えが変わった事を伝えている。
まあ、日課の鍛錬は欠かしはしないけど。
俺の気持ちを伝えた時の超常の者達の喜びようと言ったら、それは凄まじい物があった。
そこまで喜んでくれると、俺も嬉しい気持ちになったのだ。
「それが良いかもしれませんね。無駄な血を流す必要はありませんから。流石はヨハン様です」
「うん、私も賛成だ。キグ坊はそれでも良いか?」
「私もヨハン様の意見に賛成です。キグスタ君はどう思いますか?」
おっと、集中集中。
「ああ、ヨハンの案で行こう。でも、その場所に王都の兵が必ず来るかな?」
「そこはお任せください。他の道を潰しておけばいいので、問題ございません。もちろん、この件が終わりましたら元に戻しておきますのでご心配なく」
こうして、時々違う事を考えてしまっていた俺だが、一応方針は決定することができた。
この作戦が上手くいけば、向こうの兵も傷つことがなく済むので、何としても成功させておきたい。
おれは、何れ来るその時・・・・・・そう遠くない未来で、この作戦が成功する事を願いギルドを後にした。




