カンザ一行
ソレッド王国とグリフィス辺境伯達との戦いが始りそうになっている頃、グリフィス辺境伯領とは王都を挟んでまさに真逆の位置にあるナルバ村にいるカンザ一行は、国王派とグリフィス派が一触即発で、大規模な戦闘が行われるかもしれない状況である事すら知らずに、魔獣を討伐していた。
いや、討伐しているのはカンザ以外の三人で、カンザはキグスタの家で寛いでいる。
このナルバ村、一時期魔獣に襲われてほぼ全ての家が半壊状態になっており、そのまま村民が王都に脱出した。
その為、まともな家はキグスタの家しかなかったのだ。
「まったく、平民共は全てにおいて動きが遅い。いちいち俺が指示をしなくとも、どう動くべきかくらいは考えて欲しいんだがな。だが、平民に俺と同じレベルを求めるのも酷か・・・・・・ふぅ~、仕方がない。もう暫くだけ平民共の相手をしてやるか」
偉そうに独り言を呟いているカンザだったが、実際にあの三人に見放されると何もできないのはカンザの方であるのだが・・・・・・
やがて夕刻になり、フラウ、リルーナ、ホールがキグスタの家に戻ってきた。
リルーナの魔法により収納された魔獣が出されるが、その中には高ランクと言われる魔獣は存在しない。
「おい、いつになったら高ランクの魔獣を狩ってくるんだ。ここに来てから何日経ってると思ってる」
「一週間くらいだろ?いいか、俺達は聖武具を持っていないんだ。いくら上位スキル持ちと言っても、高ランクの魔獣と闇雲に戦闘する事はできない。万が一の可能性もあるし、ポーションも残り少ないんだ」
真っ当な意見を返すホール。
リルーナとフラウも同意見のようで、黙ってはいるが頷いている。
実は、キグスタの家に閉じこもる事に飽きたカンザが、数日前に無理やり三人を引き連れて高ランクの魔獣と戦闘を始めてしまった事がある。
四人で何とか勝利を収めたが、一人で突撃したカンザが重症を負った。
その怪我に対してポーションを使った為、選抜メンバーの時代に国王から配布されたポーションの残りが少なくなったのだ。
もちろん、その時の魔獣の状態は素材が取れるような状態ではなかった。
何とか勝利を収めるために、なりふり構わず攻撃をしたせいだ。
だが、カンザにしてみれば、数日前の戦闘で三人に足を引っ張られたために負った怪我だと思っている。
三人がもう少しまともに動ければ、楽に高ランクの魔獣を討伐することができたはずだ、とも思っているのだ。
当然、そんな思いがあるのでホールの意見を聞き入れる事は無い。
「何を言っているんだ。もう少しお前らの動きがましだったら、あんな怪我を負う事は無かったんだ。あの怪我のせいで俺は狩にも行けずにいると言うのに・・・・・・いいか、明日こそは高ランクの魔獣を狩ってくるんだぞ。リルーナ、すぐ飯にしろ」
あまりの言い分に呆れる三人だが、こうなったカンザは何を言っても聞き入れる事は無いとこの短い時間に理解しているので、何も言い返す事は無い。
リルーナは、カンザの命令通りに夕食を準備し始める。
今日の夕飯も、魔獣の肉、そして道中で見つけた薬草、そしてリルーナの出した水だ。
「は~、相変わらず代わり映えしない飯だ。たまには違うメニューを食べてみたいもんだ」
食事の準備すら手伝う事のないカンザは、愚痴をこぼす。
一瞬リルーナの手が止まるが、誰にも気が付かれる事は無かった。
そんな毎日を過ごしていると、偶然にも他の魔獣と戦ったと思われる弱った高ランクの魔獣が三人の前に現われた。
逃げる訳にもいかず、相手が弱っている事から戦闘となり、何とか軽傷で勝利を収めた三人。
そのままキグスタの家に帰還し、カンザの前に獲物を出す。
「お、これは・・・・・・やればできるじゃないか。この素材があれば、あの国王にも認められるに違いない。やったな、俺達は選抜メンバー復帰だ!」
その言葉を聞いても、最早誰も喜ばない三人。
ひたすらカンザの奴隷のような生活を続けていたので、カンザに対する仲間意識が消失したのだ。
「今日はもう遅い。明日、王都に向けて出発するぞ。リルーナ、飯だ」
いつもと変わらないメニューだが、魔獣が高ランクなだけあって肉の味は美味しくなっている。
「やっぱり高ランクの魔獣の肉はうまいな。お前らも食え!」
まるで自分が捕ってきたかのような態度のカンザ。
益々心が離れ、亀裂が修復できない程まで広がっている。皮一枚でつながっている状況だ。
そのまま夕食は終わり、翌日の朝に向けて早めの就寝となった。
選抜メンバー復帰間違いなし、と思っているカンザは、機嫌が良くなり眠れなくなっていた。
無駄に三人に話しかけるが、三人は疲れ切って夢の中。
「チッ、これだから平民は・・・・・・だが、もう少しだ。この素材があれば、あの国王も俺を見直すに違いない。そうすれば選抜メンバー復帰だ。その暁には・・・・・・俺に面倒をかけ続けている平民共とはおさらばだな」
こう言いつつ、カンザも就寝する。
だが、このセリフ・・・・・・三人とも聞いていたのだ。
寝ていたのだが、あまりにしつこく話しかけてくるカンザのせいで、全員目が覚めていた。
だが、相手をするのも面倒なので、寝たふりをしていたのだ。
このセリフのせいで、皮一枚繋がっていた亀裂は、完全に両者の袂を分けてしまった。
当然カンザには悪気はない。
別に本当の事を言っているので、三人に聞かれようが構わないと思っている。
それほど三人に対しての興味が無くなっていたのだ。
カンザの目に見えるのは、選抜メンバーに復帰して輝かしい戦績を上げて英雄となる自分。
そして、ナタシアは無理でも、王族に近い者か、高位の貴族との縁を作って、この国の重鎮となる事だ。
翌朝、少々眠い目をこすりつつカンザ一行は出発する。
カンザとしても、無理に魔獣と戦闘して負傷する可能性があるのならば、避けられる戦闘は避ける事にした。
既に高ランクの魔獣の素材が手に入っているので、食料調達以外で魔獣と戦闘する必要性が無くなったのだ。
「これでようやく俺も選抜か。とすると、どこかの国に保管してある聖武具を与えられるのだろうか・・・・・・ま、その時になれば分かるか」
自分が聖武具クラッシャーと言う名前で有名になっている事を理解できていないのか、選抜メンバーに復帰した時に、ソレッド王国には余剰の聖武具が無いので、他の国に保管してある聖武具を宛がわれると疑っていない。
期待に胸をパッツンパッツンに膨らませて、カンザは王都を目指す。
半歩後ろを歩くのは、残りの三人。
一様に顔は暗く、覇気がない。
「ねえホール、この後・・・・・・どうするつもり?」
「とりあえず王都には行くしかないだろう。だが、その後は・・・・・・カンザとは別行動だな」
「私もそれが良いと思います」
ここにきて、ようやくカンザと縁を切る覚悟を持つことができた三人。
散々カンザの威光を利用して威張り散らしていた過去は、無かった事になっている。
当然カンザも三人を切り捨てる気満々なので、お互い様だ。
そんなド底辺の考えをお互いが持ちつつ、順調に王都を目指す・・・・・・




