強大な配下
まだまだまだまだ続きます。
「ご苦労だった。下がっていいぞ」
初老の執事がここのフロアボスである下級悪魔に対して指示を出すと、悪魔は深く一礼してこの場を去っていった。
君、フロアボスだよね?いなくなって良いの? なんて言える状況ではない。
「我が君、皆あなた様にお目通りできることを楽しみにしておりました。もし宜しければ私から少々紹介等させて頂けますでしょうか?」 「あ、ぜひお願いします」
すると、執事は立ち上がると再度深く一礼し、パチンと指を鳴らす。
俺の横にかなり豪勢な椅子……これは玉座というんだろうな。売れば国ごと買えそうな気がする椅子が現れた。
「我が君、大した椅子ではございませんが、我が君にお立ち頂くわけにはまいりません。是非ご着席いただければ」
そう言い、再度深く頭を下げてくる。
もうどうにでもなれ!!
「そうさせてもらうよ」
座ってみると、硬そうなイメージであった椅子はふかふかで、更に疲れもとれる優れものだった。
「即準備できる椅子がこれしかなく、申し訳ございません。後程我が君にふさわしい椅子を準備させていただきます。では、さっそく紹介の方を始めさせていただきましょう。ここに並んでいるのは、我が君に忠誠を誓っております我が君の手足でございます。その中でも、選りすぐりの幹部のみこの場に召喚いたしました」
「と言う事は、さっきここにいてくれた悪魔は幹部じゃないの?」
「その通りでございます。あ奴はまだまだ力不足であります故」
あれでですか。そうですか。
「まずは私、我が君に最も近くにいる権利を持たせて頂いております執事のヨハンでございます。雑務から暗殺、虐殺、瞬滅、情報収集、我が君の安全まで全てお任せくださいませ。身命を賭してご期待に応えて御覧に入れます。なんでしたらご挨拶として、先ほど偉大なる我が君に暴言を吐いたあの雑魚の首を並べて御覧に入れましょうか?」
「いやいや、いいから。放っておいてあげて」
「御意!!」
俺は頬をつねりつつ話を聞いている。なんだか、雑務の後の羅列が凄く怖い事、サラッと言ってるんだよね。この人。
そう、夢じゃないかと思っているんだけど、実際に少々頬が痛いので、現実なんだろう。素直に受け入れられないけどね。
「続きましては、手前におります近衛部隊の隊長四人。我が君から向かって左から獣神ソレイユ、武神ソラリス、精霊神ハルム、死神アクトでございます」
「近衛部隊なんだ。てっきり四天王かと思っていたよ」
「四天王が宜しければ即改名いたしますが?」
「いやいや、なんだか四天王だと悪い人のイメージが少しだけあるからこのままで」
「承知いたしました。もちろんこの近衛も、偉大なる我が君の忠実なる配下であり、手足でございます」
いや、まさか精霊神までいるとは思わなかった。それに他のメンバーもはっきり言って伝説の中の生き物だと思っていたから信じられない。しかし、さっき初めて見たとき魔族かと思っちゃったよ。
「更に後方に控えます12人は、近衛部隊の分隊長でございます。あまりに詰め込むと我が君の負担につながる恐れがありますので、名前等は時が来たらお教えいたします。ただ、一人だけは我が君と既に面通しを終わらせております」
そう言って執事のヨハンが見る先には、ギルドで唯一笑顔を向けてくれていた受付嬢が顔を上げてくれた。ギルドで悪魔の話を聞いても唯一落ち着いていた人だ。
「え??ぱっと見は人に見えたけど???」
「幹部になるには、人化の術は完全にマスターすることが最低条件でございます故。我が君と万が一同行させていただける栄誉を授かった際に、外見からご迷惑をかけないようにする必要がありますので」
「あ、ありがとう、ございます?」
「恐縮です。あの者は精霊神の配下である精霊王ですな」
「もしかして、俺の為に?」
「その通りでございます。影より我が君をサポートするべく配置させていただきました」
「そういえば、リルーナのやつ、パーティーを組んだ当初は<精霊術>のスキルが使えると紹介してくれた時があるんだけど、最近は一切使っている所を見た事がないんだ。何かしたのかな?」
ここに精霊を司る神がいるんだ。当然<精霊術>に関してならば何かしら知っているはずだ。
「恐れながら申し上げます」
思った通り、精霊神のハルムが返事をしてくれるようだ。
「我が配下の精霊が、ご主人の仲間として動いているリルーナと契約をしたと報告が上がっておりましたが、ご主人に対する態度を把握してからは契約を強制的に破棄しております故、<精霊術>のスキルは一切使えなくなっているはずです……ですが、与えたスキル自体を消失することはできませんので、その辺りはご容赦ください。ただし、上位のスキルになる事は防げますのでご安心を」
そうか。大体状況は把握できて来たかな。
つまり、俺のスキル<統べる者>は、神話レベルの超常の存在を顕現させて配下とすることができる……と。
あれ?でも人族が躍起になって討伐しようとしている魔族の王って……
「えっと、少し聞きたいんだけど、魔族の王ってどういった方なのかな?」
「魔族の王とは、人族の中で言われている魔神やら魔王やらの事でしょうか?」
執事のヨハンに俺は頷く。
「そうしましたら、それはきっと私の事でしょう。一応私、これでも肩書は主神でありますが、人族には魔神と呼ばれております故」
「でも、ごめんね、言い伝えなんだけど昔の人族に滅ぼされたって聞いたんだ。で、最近になって復活した気配があるから、新たな討伐部隊が組まれたと聞いたんだけど……」
「それはかなり昔の話になりますが……。人族のパーティーが私に攻撃を仕掛けたのです。あの程度であれば私一人で対応することができましたので、その時代の我が君を私の配下に任せて対応しておりました。しかし、幼い我が君は私の名前を呼んで泣いてしまったので、私はその報を受けて分身体をその場に残して我が君の元に馳せ参じたのでございます。よって、その倒された者というのは私の分身体の事だと推察いたします」
伝承によれば、一月近く戦い続けてようやく相打ちに持ち込んだとあるが、ヨハンの話が本当であれば、いや本当なのだろう。
そうすると人族に勝ち目なんてあるはずがないな。
「ゴメン、それって五千年前の話だよね。千年前にも魔王を討伐したと言う言い伝えがあって……それは?」
「某が説明申し上げます。当時の主君は某を顕現させる能力を持っておったでござる。その当時、同じように人族が攻めてきましたが、ヨハン様から彼らはしつこいと聞き及んでおり、某は面倒くさいので分身を残して逃げたのでござるよ」
なんと、千年前に顕現した魔王は死神アクトの事だったらしい。
だけど、独特な話し方をする神だな。
だがこれではっきりした。
俺達人族が魔族の王、魔王やら魔神やらが顕現して大騒ぎになるのは、それだけの力を持った彼らをこの世に顕現させるだけの力を持った<統べる者>がいた時。
そして、彼等は積極的に人族を襲うようなことはない。むしろ<統べる者>に完全に従っているという事。
逆に言うと、<統べる者>……つまり今は俺の事だが、俺の意思一つで平気で国など亡ぼすことになるかもしれない。
とんでもない力を得てしまった。
俺本人の力じゃないから勘違いしないようにしないとな。