カンザ一行、ナルバ村で活動する
本日3話目です
カンザ一行は食料を節約しつつ進み、ナルバ村に到着した。
だが、既にこの工程で問題が起きていたのだ。
この村に到着するまでの道中だが、パーティー一行の連携はなく・・・・・・いや、カンザとそのほかの三人の間にできた亀裂がより大きくなっていたのだ。
それは、ナルバ村までの道中の出来事。
「おい、腹が減った。飯を寄こせ」
最近のカンザは余裕がなくなったのか、メッキが剥がれたのか、言葉使いも荒くなっている。
実は、元はこんな感じだったのだが、家族から体よく追い出され、選抜メンバーとして活動している時に、選ばれた人間に相応しい話し方にしよう・・・・・・とカンザが修正したのだが、この状態では素が出てしまっている。
「いや、カンザ、ここからまだナルバ村までは距離がある。道中魔獣が確保できるかわからない内は節約するべきだ」
至極真っ当な事を言っているホール。
だが、カンザにまともな意見を言っても意味がない。
「あん?俺に口答えするなこの平民。お前らは黙って俺について来ればいいんだよ。リルーナ、早く飯を出せ!!」
少々怯えるリルーナは魔術で保管していた食料を出す。
「これっぽっちしか残ってないのね。早く魔獣を見つけて狩らないと・・・・・・」
フラウの呟きはカンザには聞こえない。
だが、幸か不幸かナルバ村に近づくにつれてそこそこの数の魔獣と遭遇する事になったカンザ一行。
水はリルーナの魔法で何とかなるのは、以前の長きに渡るダンジョンサバイバルで経験済みなので、ほっと息をなでおろす。
「グズグズすんな、さっさとあいつ等狩って来い。ついでに素材の入手も忘れんなよ?」
相変わらず無駄に指示だけは出すカンザ。
少々不満に思いつつも、指示に従う三人。この辺りにいる魔獣程度であれば、いくら聖武具が無いとしても上位スキル持ちの彼等にとって大した敵にはならなかった。
「今日はこの辺で休むか」
三人が魔獣を狩っている間にカンザは何をしているかと言うと、野営に適した場所を探していた。
一応普通のパーティーであればこの役割分担も有りなのだが、上から命令され続けて不満が溜まっている三人としては、カンザが楽をしているだけにしか見えない。
実際カンザは楽をしているのだから、そう思われても仕方がないのだが。
今の所は口には出していないだけで、徐々にカンザに対する不満があふれ出し、そのおかげで曇っていた目が洗われてきている。
カンザも余裕がなくなったのか、ひたすら自分が英雄になるための道のり・・・・・・そう、まずは選抜メンバーに返り咲くことに意識を持っていかれているので、この場にいるパーティーの三人のキグスタに対する意識・・・・・・つまり、カンザの数少ない特技の話術による洗脳・・・・・・話術による意識の誘導を続けるのを忘れていた。
既にキグスタが生存している事を理解しているカンザ一行。
もし、あのダンジョン最下層の下級悪魔によってキグスタが滅されていたのであれば問題なかっただろうが、今はそうではない。
少なくとも三人のメンバーの中には、キグスタの存在が少しずつ大きくなってきていたのだ。
「あ~食った食った。まあまあいい味だったぞ。それじゃあ俺は明日に備えて休むから、見張りは適当にやっておけよ」
食事の準備の手伝いもせず、当然片付けるようなこともしない。
その上、見張りは完全に三人に丸投げするカンザ。
数日こんな状況が続くと、さすがにこれは承服できなかったのか、
「おいカンザ、お前もたまには見張り位したらどうだ?」
「そうよ。ここまで来るのに一回もしてないじゃない」
「流石に私達も疲れました」
だが、そんな言葉に従うカンザではない。
「はぁ~、これだから平民は・・・・・・良いか、何度も言うがお前達は俺の指示に従っていれば良いんだ。俺が最善の行動を指示しているのがわからないのか?この野営時の見張りも、お前らの足りない力量を上げるために敢てやらせているんだ」
だが、納得ができないフラウ、リルーナ、ホール。
その思いは表情にアリアリと見て取れる。
「まったく。それじゃあもう一つ付け加えてやる。お前らの為を思って見張りをさせている。だが、その間俺も何もせずに寛いでいる訳じゃないんだ。万が一を考えて周辺の気配を探っている。そんな事もわからなかったのか?」
そう言われてしまうと、まさしく自分達の為に敢えてしてくれている行動であると思わざるを得ない三人。
「そうか、わかった。すまなかった」
「気が付かなくてごめんなさい」
「私も頑張ります」
三人の謝罪を受けて、カンザは満足そうにテントに入っていく。
良く考えれば、食事の片付けをしないのは三人に対して何の力量も上げることにはならないのだが、気が付くことができない三人。
そしてもう一つ。
カンザは周りの気配など探ってはいない。
と言うよりも、そんな技術は持っていない。
もちろん得意の話術による意識の誘導だ。
そんな不公平な行軍をしていれば、カンザとその他の面々の動きは明らかに違ってくる。
常に魔獣と戦い、夜もあまり眠ることができない三人と、ただナルバ村に歩いているだけで十分な休息を取れるカンザ。
違わない方がおかしい。
間も無くナルバ村と言う所で、カンザ一行は少々ランクの高い魔獣と遭遇した。
「お、あいつはそこそこの魔獣だな。素材は高めで売れる。なるべく傷をつけないように狩って来いよ」
いつものように指示とも言えない指示を出すカンザ。
そして同じく、いつものように疲れた体に鞭打って魔獣に向かう三人。
少々ランクの高い魔獣である事と、三人の動きが万全でなかったことから苦戦を強いられている。
とは言え、徐々に魔獣の動きも緩慢になっている。
やがて、まともな動きができなくなった魔獣に対して、突然カンザが突撃する。
既に瀕死の魔獣、そして目的地も目前。
ただ歩いて、食べて、寝るだけのカンザは飽きていたのだ。
今の状態の魔獣であれば、万が一の反撃もないと判断したカンザは、魔獣の心臓部分に槍を突き入れた。
暇つぶしにはなったと思いつつ、三人のメンバーを叱責する。
すでにカンザにとってこの三人は、使いつぶしの平民、道具になり下がっているのだ。
「お前ら、こんなレベルの魔獣程度に三人がかりでてこずりやがって、そんなんだから選抜から落とされるんだ」
実際は、カンザの行動が原因のほぼ全てなのだが・・・・・・
疲労困憊の三人は、反論する力すらなかった。
「俺がわざわざ戦ってやったんだ。素材は剥いでおけよ、平民共!」
おいしい所だけを持って行ったカンザは、そう吐き捨てるとさっさと自分だけナルバ村に向かってしまった。
既に、三人を完全に下に見ている事を隠す素振りすら無くなっていたのだ。
「なんだあいつ!」
「ちょっと酷いよね」
「私は疲れました」
こうして、ナルバ村に無事に到着したカンザ一行だが、パーティーとして無事と言われると寧ろ崩壊の危機に向かって全力ダッシュをしている状態になっていた。
こんな状態では、選抜メンバー返り咲きなど夢のまた夢・・・・・・




