辺境伯グリフィス(1)
本日3話目です
私は辺境伯のグリフィスと言う。
その名の通りソレッド王国の辺境を領地としている貴族だ。
その領地の中には、ある町がある。
その名もワリムサエ。
この町のギルドマスターは非常に優秀で、ここ最近は、良い収益をたたき出している。
かなり良い魔獣の素材を大量に仕入れるようになったので、王都へ販売してかなりの売り上げになっているのだ。
いや、非常に良いと言う表現では生ぬるい。前代未聞と言っても過言ではないのだ。
そのギルドマスターであるガーグルと言う男は、実直で正義感に溢れている。
そんな人柄と、有得ない収益と言う結果を出した実績に対して、ワリムサエの町の運営を任せることにした。
暫くは問題なかったのだが、ある日ガーグルは私の屋敷迄やってきた。
「グリフィス様、この度、先代ギルドマスターの娘であるクララ様一行がワリムサエの町に移住してきました。クララ様の御子息はキグスタ様と言い・・・・・・言いにくいのですが、国王陛下に少々目をつけられています。もちろん誤解による物なのですが」
ガーグルにしては非常に歯切れが悪い。
「どうしたガーグル、私とお前の仲だろう。包み隠さずに全て言ってみろ」
何を言われてもこの男を信じると決めている俺の気持ちを理解してくれたのか、ガーグルは驚くべきことを話し始めた。
選抜メンバー最強と言われているパーティーに参加しながらも、謂れなき罪を着せられて死亡扱いとなっているキグスタと言う男。
そして、その男はガーグルの大恩人である先代の孫にあたるそうだ。
ついでに、大恩人の娘夫婦も国王から奴隷に落とすと言う宣言を受けているらしい。
「はぁ、いつからこの国はバカが舵取りをするようになったのだ」
思わず心の声が漏れてしまった。万が一このセリフを誰かに聞かれ、王都にこの事が洩れれば私は不敬罪で死刑だな。
更にガーグルは熱く語る。
その内容は、最近の異常な収益はキグスタ一行のパーティーだけのおかげだと言う事、そして、そのパーティーには<剣神>と<槍神>、更にはナタシア王女までいると言うではないか。
「ナタシア王女だと?王都から探索願いが出ていたが・・・・・・ナタシア王女の希望でキグスタと共にいると言う事で間違いないか?」
万が一、本当に万が一でも拉致や強制があってはこちらに正義はなくなる。
いくら信頼しているガーグルと言えども、正義なき行いには味方する事はできない。
「はい、ナタシア様は・・・・・・王族を離脱したと宣言しており、王女と言われるのを嫌いますので、ナタシア様ですが、キグスタ様の両親を助けるために王都を抜け出したそうです。そして、死亡したと言われていたキグスタ様と再会し・・・・・・妻になると宣言したらしいです」
「ハハハハハ、中々の行動力ではないか。あの国王の血が流れているとは思えないな」
おっと、また心の声がダダ洩れだ。気をつけねばならんな。
「良く分かった。お前はキグスタ一行を保護したい。だが、キグスタ一行がワリムサエの町にいると知られた場合、ソレッド王国の反逆者となる可能性があるので、私のところに来た・・・・・・と言った所か?」
「その通りです。私としましては、何としてもクララ様やそのご家族の安全を確保したく・・・・・・」
ガーグルらしい。真直ぐな目でこちらを見ている。
今の話を纏めると、どう考えても正義は我らにある。
「良く分かった。正直、最近の国王の政は民を想っているとは思えなかったのでな。良いだろう。このグリフィスがキグスタ一行の保護を認めよう」
正直、あのレベルの収益をたたき出す面々を敵に回したくないと言う打算もある。
もし、彼らの存在が国王に明るみになって一切の取引ができなくなったとしても、あの素材であればどの国にでも高値で売れることは間違いない。
つまり、もし取引停止の処分を受けたとしても、損をするのは王都であり、我らには一切のダメージは無いのだ。
後日、再びガーグルがやってきた。
「今度はどうしたのだ?」
「実は、キグスタが所属しておりました選抜メンバー最強と言われていたパーティーがワリムサエの町までやってきました。どうやら噂で<剣神>と<槍神>がこの町にいる事を嗅ぎつけたようです。もちろん即お帰り頂きましたが、ある程度の情報は既に王都に流れていると見て間違いないでしょう」
「わかった。王都での動きがあれば即お前に知らせる事にしよう」
辺境である私は、常に王都の情報を仕入れるべく間者を多数送りこんでいる。
もちろん王城内部も例外ではない。
彼等に、ワリムサエの町に関する動きがあった場合に即連絡をするように魔道具で指令を出しておく。
ガーグルの懸念した通り、カンザと言うパーティーが、キグスタの生存やナタシアの存在を知り、このワリムサエにいる可能性が高いと言う結論に達したらしい。
そして、国王は選抜メンバーを含む騎士や冒険者を引き連れてワリムサエの町に出撃する予定だと言う。
全く、他にやることがあるだろうが、あの愚王め。
「おい、誰かガーグルと連絡を取れ!」
私は急いでこの情報をガーグルに伝え、到着予定近辺の日時は門を閉ざすように命じた。
もちろん、締め出しを食らう冒険者達がいないように十分配慮した上でだ。
思い通り、王都からの一行はワリムサエの町には入る事すらできず、目的地をこの城にしたようだ。
さてさて、どんな理由をつけてワリムサエの町をこじ開けるつもりなのか、お手並み拝見と行こうか。
期待して待つ事一日、ようやく代表らしき騎士がやってきた。
「お初にお目にかかります。グリフィス辺境伯。私は王国近衛騎士に所属するホリスタンです。お見知りおきを。早速ですが、我らは或る人物を探してこちら迄来ましたが、どうやらその探し人はワリムサエの町にいるようなのです。何故か門が固く閉ざされておりましたので、領主であるグリフィス様に開門を依頼しに来た次第です」
普通だな。捻りがない。
「ああ、わざわざこんな辺境までご苦労だった。だが、今あの町は少々厄介な病が充満していてな。暫く安全のために開門することはできんのだ」
「なんと、それはどんな病でしょうか?我らの所持するポーションで癒せるのであれば提供いたしますが」
フン、こいつはそこそこ見所がありそうではあるな。
だが、あの病はポーションでは治らない。
そう、”キグスタ一行を守る病”だからな。
一番の特効薬は、お前らがここから去る事だ。
あいつらの行動は、ワリムサエの町の面々が知る所になっていた。
つまり、今の景気を与えてくれたと言う事実の事だ。
それに、話を聞く限り流石はガーグルが気に入るだけあって、実直、誠実、温厚、素晴らしい人材らしい。
「いや、ポーションなら既に試した。そんな物ではあの病は治らんな」
「ではどうすれば・・・・・・」
お前らがいなくなる事だ!とは、直球過ぎるか?
「静かな環境で過ごせれば、何れは快方に向かう。なので、お前達のような仰々しい連中がこの辺りにいると悪化する可能性があるのだが。その辺りは配慮してもらえないのか?」
「・・・・・・今回は、大変申し訳ありません。王命であるが故、どうしてもワリムサエの町に入らなければなりません」
チッ、一瞬良い人材かもしれないと思った俺がバカだった。
あんな愚王の命令を何の疑いもなく忠実にこなそうとするとはな。
「いや、お前達が町に入ろうものなら、たちどころに病は悪化するだろう。いや、活性化するだろう」
「しかし・・・・・・少々お待ちください」
ホリスタンとか言う騎士は、この一行の最上位の位ではなかったようだな。
外の無駄に豪華な馬車に向かっているのが見える。
あの馬車・・・・・・きっと宰相だろう。




