カンザの戦略
本日2話目です
下らないと思われるかもしれない戦いが終了した。
俺としては、カンザにとりあえず一矢報いたので、少しは心が軽くなった気がする。
だが、こいつには殺されそうになった経験があるので、本当はもう少し痛めつけても良いんじゃないかと言う思いがある。
あ、なんだかムカムカしてきた。とりあえず蹴りでも入れておくか。
残りの三人の方に吹き飛んでいくようにカンザに蹴りを入れると、飛んできたカンザにぶつかった三人も纏めて吹き飛ばす。
視界からゴミが見えなくなった。
「ふ~、少しだけ落ち着いたかな。これであいつらの高い鼻は完全に圧し折れたかな」
まあ、どこかの人目のつかないダンジョンなんかで要らぬちょっかいをかけてきたら、こっ酷く返り討ちにしてやるけどな。
俺的にはもう用はないので、皆と共に家に帰る。
ヨハンがすかさず手を拭く布を出してくれ、その後はお茶とお菓子で軽いお祝だ。
「キグスタ様、少しはすっきりしたのではないでしょうか?」
「そうだな。私が言えた義理ではないが、あれではまだまだ罰としてはどうかなと思うぞ、キグ坊」
「キグスタ君が思うままにしてくれればいいと思いますよ」
三者三様だ。
俺は、カンザとはこれで終わりとは思っていない。
向こうも、散々俺達に粉をかけてきているんだから、この程度であきらめる事は無いだろう。
特に今回は、ナタシアが俺と一緒にいると言う事が判明したのだ。
あいつのナタシアに対する今までの執着を考えると、このまま終わるはずない。
その時があいつの最後だ。
既にあいつの化けの皮は剥がれ始めている。
俺は、周りから冷めた目で見られる中で活動をするのは非常にきつい事を知っている。
その状態を少しでも味わわせてやりたいんだ。
一方のカンザ。かなりの時が経ち意識を取り戻していた。
まさかの完全完敗で呆然としている面々。カンザだけは痛みに耐えて右手を抑えている。
「おい、早くポーション持ってこい!!」
カンザに言われて我に返ったリルーナは、カンザにポーションを渡す。
選抜メンバーであった時代に国王から渡された高品質のポーションであったため、惨い骨折も完治することができた。
残りの三人も既にポーションを使って回復している。
もちろんこのまま再戦することもできるのだが、このままでは同じ流れになると理解しているカンザは、ナタシアと<剣神><槍神>と共にキグスタを発見したと言う報告を持って王都に帰還する事を決めた。
数日かけて王城に戻り、国王と謁見するカンザ一行。
「それで、何の魔獣も狩らずに手ぶらで帰ってきたのはなぜだ?」
初めから不機嫌な国王がカンザ一行を睨む。
「今回は、今問題になっているナルバ村の環境を変えると共に、魔獣を討伐する予定でした。しかし、ナルバ村で有り得ない事がおきましたので、報告の為に帰還した次第です」
カンザとしては、ナルバ村の環境を積極的に変えるつもりなどさらさら無いが、結果的にそうなれば良いと言う気持ちで向かっていたに過ぎない。
つまり、村人から英雄扱いをされる事だけを想定していたのだ。
だが、この場でそう言っておくことで、少しでも国王の心象を良くしておこうと言う判断だ。
この辺りが貴族時代に手に入れた処世術だ。
「それで・・・・・・その内容とはなんだ」
「実は、我らのパーティーメンバーであった荷物持ちのキグスタが生きておりました。そして、そこにはおそらく無理やり連れられている・・・・・・何か弱みを握られていると思われる<剣神>と<槍神>、更にはナタシア王女までいらっしゃったのです」
こう言っておけば、キグスタは問答無用で国王から敵視される。
つまり、余計な情報を得る機会のないまま、キグスタはソレッド王国によって滅ぼされる事になるのだ。
内心でほくそ笑むカンザ。
英雄となる自分にゴミクズ風情が怪我を負わせた事実を許すことができなかったのだ。
だが、今までの経験から、まともに正面から行っては今のままでは歯が立ちそうにない。
そこで、国家と言う戦力をキグスタに向かわせることにしたのだ。
カンザの思惑通り、失踪した娘の所在が明らかになり、その原因がキグスタであると理解した国王は激怒する。
「荷物持ちの分際でどうやって我が娘を手中にしたのか知らんが、五体満足でいられると思うなよ。それに<剣神>と<槍神>だ。こいつらもゴミに惑わされよって。こうなったら、王都の戦力をぶつけてやる」
こうして、まんまとカンザの手のひらで踊らされることになったソレッド王国の国王は、ほぼ全ての騎士と王都の高ランク冒険者、更には複数の選抜メンバーをナルバ村に向かわせたのだった。
かなりの人数になったキグスタ討伐隊だが、各々の力が高いので、移動速度もかなりの物になっている。
一行がナルバ村に到着する時には、ナルバ村の村民では太刀打ちできない魔獣達は殆ど討伐されてしまったのだ。
村民は歓喜したが、討伐隊はこれからが本番である為、村民の歓迎を受ける者はいない。
即キグスタの家を取り囲むと、突撃を始めた・・・・・・のだが、既にかなりの日数が経っているので、キグスタ一行はアルバ帝国に向かった後だった。
無駄足になった一行は、カンザ達がいる王城に戻り、国王に状況を説明した。
ついでに、何故かナルバ村の面々がこれ幸いと全て王都に移住してしまった。
「カンザ、ナルバ村にはナタシアはおろかキグスタすらいなかったそうだぞ」
「それは・・・・・・なぜだかわかりませんが、きっと陛下が兵を差し向けると思って逃亡したのではないでしょうか?」
「どこに行くと言うのだ??あいつの家はナルバ村にしかないだろう。まて、そういえばあ奴の両親もナルバ村からいなくなったと聞く。そこに行っているのか?」
「国王陛下のおっしゃる通りだと思います。我らパーティーは、ワリムサエの町でも<剣神>と<槍神>に遭遇しております。その二人とパーティーを組んでいると噂になっていたのが、黒目黒髪・・・・・・キグスタと、蒼目金髪・・・・・・ナタシア王女と思われます。つまり、あいつらの行先はワリムサエの町ではないかと・・・・・・」
しばし思案する国王。
「フム、噂が事実であれば・・・・・・いや、すでにお前達がキグスタ一行を見ているのだったな。すると、ナタシアはあのゴミと<剣神><槍神>と共に行動しているのは間違いない・・・・・・確かにワリムサエの町にいる可能性が高いか・・・・・・」
再びカンザの思惑通りの方向に行っている愚王。
「だが、ナルバ村と違い、ワリムサエの町は少々距離がある。ギルドを通して情報を得てから動いても問題はないだろう」
ワリムサエの町のギルドは、クララを始めキグスタ一行に完全に味方している事を知らない国王。
だが、カンザはワリムサエの町での扱いを思い出す。
「国王陛下、あの町は・・・・・・情報を隠蔽している可能性があります。我らが向かった際も、ナタシア王女はあの町に存在しないと明言しておりました。それも、ギルドマスターが、です」
「うむ、そうすると・・・・・・少々距離はあるが、多少無理をしてでもワリムサエの町に騎士達を向かわせる必要があると言う事か」
その間、悪魔の王が襲来してしまうと蹂躙される未来しか見えないので、幾つかの選抜メンバーを王都に呼び寄せ守護隊とし、騎士と冒険者、そして選抜メンバーの複数パーティーでワリムサエの町に向かう事が決定した。
ほぼナルバ村に行った面々と変わらないのだが、何分距離があるために、かなりの戦力が王都不在となる期間があり、対策として王都守護のために呼び寄せた選抜メンバーの数も増やしている。
こうして、準備に数日を要したが、ワリムサエの町に向けて出立した一行。
順調な行程で無事ワリムサエの町に到着したのだが・・・・・・そこで待ち受けていたのは、固く門を閉ざしたワリムサエの町だ。
今は夜ではない。早朝でもない。
いや、夜でも早朝でも完全に門を閉ざしている事が有り得ないのだが・・・・・・
「何やら異常事態のようだな。ここからならば辺境伯の所はそう遠くないだろう。グリフィス辺境伯の元へ向かうぞ」
急遽目的地が変更になった討伐隊だった・・・・・・




