キグスタとカンザ(2)
本日1話目です
俺の家の前で、俺のパーティーメンバーとカンザ一行が対峙している。
カンザ一行にしてみれば、決して生き残ることができない状況に置き去りにした俺が生きている事に驚き、更には行方不明となっているナタシアがいる事、そして俺の仲間として<剣神>と<槍神>がいる事に更に驚いている。
「キグスタ、お前悪魔に魂を売って俺のナタシアに魅了でも使ったか。そうだ、そうでなければ<剣神>と<槍神>までお前の傍にいるのはおかしい」
「そうだったのね。でもそれならば納得よ。<剣神>と<槍神>のあの強さも悪魔の力を得ているからなのね」
フラウの言っていることは、あながち間違いではない。
正確には神だけどな。
「あなた方は何を言っているのですか?私はキグスタ様の人柄に魅入られたのであって、悪魔に魅入られてはいませんよ。失礼な事を言わないで下さい」
「いえ、ナタシア王女。私はあなたの身を案じただけで、決して他意は有りません」
しどろもどろで言い訳をするカンザだが、少々苦しいぞ。
「ナタシア、どうやらこいつはお前にご執着だ。変な期待を持たせないように、ここではっきりしたらどうだ?」
「そうですね、そうしましょうか。ファミュさんの言う通り変な期待を持たれても困りますし・・・・・・」
カンザ一行、特にカンザは<剣神>と仲良く話すナタシアを見て、悔しそうに顔を歪める。
実はここにいる<剣神>と<槍神>は、二人共ナタシアに負けずとも劣らない美女だったりする。
そんな美女がカンザを平気で攻撃してきた<剣神>なのだ。
悔しそうな顔をしたのは、俺のパーティーで誰もカンザの援護をする人がいない事に気が付いたのだろう。今更か?と思うかもしれないが、あいつはああ言うやつだ。
「キグスタ、お前ゴミの分際で三人も洗脳するとはいい度胸だな。どうやったかは知らんが、悪魔に魂を売った褒美か何かか?」
また始まったと思ったが、面白い事を言うかもしれないので俺達はとりあえずカンザの話を聞くことにする。
「お前程度のゴミが俺達上位スキル持ちの前に平気で現れる事ができたその自信、<剣神>と<槍神>を洗脳していればそうなるだろう。だが、それはお前の力ではない。所詮悪魔に魂を売り渡した代償、仮初の力だ。その程度で偉そうにするなどやはりゴミクズは所詮ゴミクズだな」
ナタシア、クレース、ファミュの表情がピクピクしている。
これ以上あいつに話をさせると彼女達がブチ切れそうなので、この辺で終わりにしておこう。
「カンザ、お前がどう思おうが勝手だが、俺は悪魔になんぞ魂を売ってはいない。それにこの三人は俺の事を想ってついてきてくれているんだ。侮辱するのは止めてもらおうか」
「そうですよ、あなた程度では人柄、強さ、強い心、全てキグスタ様の足元にも及びません。良いですか?ここではっきりとさせておきます。私ナタシアは一個人としてキグスタ様に惹かれております。そして将来を誓い合った・・・・・・そう、私はキグスタ様の、つ、妻になるのです」
「私もだぞ!」
「ウフフ、私もですよ」
彼女たちにとっては最後の部分が重要だったようで、クレースとファミュも被せるように同意してきた。
「そ、な・・・・・・え?妻??」
オロオロするカンザと、目を見開いているホール、リルーナ、フラウ。
「そうです。つ・ま です。キャー言っちゃった」
女子会三人娘は、妻と言う言葉に反応して顔を赤らめてはしゃいでいる。
全く、真剣な場面が台無しだ。
でも、彼女達を見てると心が洗われるので、このままで良いんだろうな。
「おいゴミクズキグスタ!お前一体何をした」
「俺はそんな長い名前じゃないぞ。そんな事もわからなくなったのか?」
「ふざけんなこのゴミ!お前は偉そうにしているが、自分は荷物持ちしかできないスライム持ちのクズなんだよ!<剣神>と<槍神>がいるからって調子に乗るなよ!」
「そ、そうよ、キグスタの癖に」
ようやくフラウが我に返って参戦してきた。
「お前らには口で言っても理解してもらえない事は知っている。父さん母さん、そしてクレースとファミュとの闘いを見ても明らかだ」
「おまえ、そんな時からここにいたのか・・・・・・」
「ああ、いたぞ。フラウの家を粉々にしたお前の無様な姿も見させてもらった。中々の余興にはなったぞ」
「この英雄となる俺様を・・・・・・侮辱しやがったな!ゴミ、決闘だ。お前は強者の力を借りていい気になっているだけのゴミクズだって事を分からせてやる。それとも、怖くて決闘できないか?」
これでも煽っているらしいが、昔の俺ならいざ知らず、今の俺にはなんの脅しにもならない。
確かにスライムを纏っていない俺では瞬殺も良い所だろう。
だが、俺は<統べる者>のスキルとしてスライムの力を全て受け入れる事にした。
これが自分の力だと認めたのだ。
もちろんいい気になるつもりもないし、自らの鍛錬を欠かすつもりもない。
だが、他の連中はスキルに物を言わせて力を奮って来る。
俺もスキルの力を自分の力の一端であると認めてやらないと、逆に俺の為に色々してくれていた超常の者達や、このスライムに失礼だ・・・・・・とようやく気が付いたのだ。
「良いだろうカンザ。面倒だがお前の相手をしてやる。だが良いのか?お前は聖武具クラッシャー。今は聖武具はおろか、真面な武器を持っていないだろう?」
「ふざけんな。この程度のハンデがないとお前をいたぶる前に殺しちまうだろうが!」
だんだんとヒートアップしているカンザ。
他の面々は、散々クレースとファミュにやられているので何も言ってこない。
ここで俺に何か言えば、あの二人・・・・・・実際にはナタシアを含めた三人だが、自分達を容赦なく蹂躙すると理解できているようだ。
さてと、それじゃあ対人戦闘の初めての実践を始めましょうかね。
超常の者達がざわついているのが<統べる者>の力で感じることができる。
俺に万が一があってはならない・・・・・・だが、俺の命令で手は出せない・・・・・・と葛藤しているんだ。
だが、この戦いだけは自分で戦いたいんだ。こんな我儘な主で申し訳ない。
そう思い息を吐き、構えを取る。
「お前、俺をバカにしてるのか?武器はどうした??」
「俺はこの体を武器にしているんでな。それでもお前よりも遥かに強いから心配するな」
「ふざけんな~!!!」
目を血走らせて、そこそこの槍を手に突進してくるカンザ。
スライムを纏った俺であれば、その動きは極端に遅く感じるし、そのままあの攻撃を食らったとしても何のダメージもないだろう。
どうするか・・・・・・
先ず俺は、超常の者達やクレースとファミュが行っていたように武具の破壊をする事にした
突進してくるカンザの攻撃を最小限の動きで躱し、躱しざまに連撃で槍を粉々に打ち砕いたのだ。
突然ある程度の重さがある武具が粉々になったカンザは、重心を崩して突進の勢いのまま前方に転がる。
すかさず起き上がり、自分の槍が粉々になっているのを確認すると、舌打ちをして槍を捨てる。
即、スキルによる体力の向上に任せて俺と同じように素手で向かってきた。
「お前は本当にバカだな。お前のその拳、槍を砕けるほどの強さがあるのか?」
一応サービスで指摘をしてやったが、当然カンザは聞いちゃいない。
仕方がないので、奴の拳に合わせて俺の拳を合わせると、当然やつの拳は破壊された。
「ギャー・・うっ・・・・・・俺の手が・・・・・・」
それはそうだろう。片や武具を破壊できるほどの強度を持つ手、一方はただの手。そんなもの同士がぶつかり合えば、たとえ力を抜いているとはいえ骨が粉々になる程度にはなるだろう。
「これでわかったか。雑魚はお前だカンザ!これに懲りて二度と俺達にかかわるな。お前らもだ!!」
唖然としているホール、リルーナ、フラウの三人にも念を押しておく。




