キグスタとカンザ(1)
本日3話目です
狩場を変更する事にした俺達。
最終目的地はアルバ帝国だが、クレースの提案により一旦俺が育った村であるナルバ村に立ち寄って一泊している最中だ。
「思いの他過ごしやすいですね、キグスタ様」
「流石はキグ坊だな」
「普通はこんなにゆっくりできないですものね」
ナタシアの言う通り、このナルバ村は過ごしやすかったのは覚えている。
主に父さんと母さんが魔獣を狩ってギルドに納め、その素材をギルドが王都に納め・・・・・・
あれ?良く考えると、フラウの両親と俺の父さん母さん以外で、まともに魔獣を狩っていた冒険者の記憶がない。
いやいや、そんなことは無いだろう。きっと俺が気が付いていなかっただけで、皆きっちりと魔獣を狩っていたに違いない。
今俺達は、ヨハンに出してもらった食事を楽しんだ後、お風呂に入っている。
最早何でもありのヨハン。浴槽まで即座に出して、中身は程よい暖かさのお湯。
しかも、巨大な浴槽で混浴だ。
この浴槽を出した後、姿を消す細かい心配りができる所も執事らしい。
流石は超常の者のトップに君臨しているヨハンだが、俺達は既に慣れてきたので、驚きは少ない。
まあ、普通じゃあり得ない事なのは理解できているので、良しとしておこう。
そうそう、これだけ直球で俺に好意を寄せてくれる三人とは、既に結ばれている。
父さん、母さんによれば、事あるたびに俺の将来の妻と主張してきているらしいし、俺も三人に好意?いや、愛情があるので、是非とも俺の妻になって欲しいと思っている。
こう考えると、最悪の時を過ごしていた頃が懐かしく感じてくるから不思議だ。
自分が幸せになれば、細かい事は気にしなくなってくるのだろうか?
そんな事を考えつつ、ヨハンが出してくれた巨大なベッドで眠る俺達。
ヨハンが出す物は、大概何かの付与がされているようで、ベッドは安眠や体力回復、きっと風呂にも似たような効果が出る付与を与えているのだろう。
初めて会った時に出した玉座のように、普通の物が出てきたためしがないのだ。
こう言った物として割り切ることにしている。
翌日、朝食を食べていると、この村にカンザ一行が近づいているとヨハンが教えてくれた。
俺は少々思案する。
なんでカンザ達はこのナルバ村に来たのか。
まさか俺達がここにいる事を察知して、急遽やってきたと言う事は無いだろう。
ないよな??
だとすると・・・・・・わからん。
「ヨハン、あいつらは何故ここに来たんだ?」
「申し訳ありません我が君。その辺りの情報は掴んでおりません」
ヨハンも落ち着いているように見えるが、実はクリスタにメロメロだ。
まるで孫を見るお爺ちゃん的なアレだ。
その為、かなりの意識をワリムサエの町に割いているのだろう。
この辺りは責める事はできない。
「それじゃあ、ナタシアはこの家から出ないようにしておこうか」
「キグ坊はどうするんだ?」
そう、あいつ等は俺が生きている事を知らない。
そして、ナタシアが俺と共にいる事も知らない。
ここで俺が出て行くとどうなるか・・・・・・即戦闘だろうな。
でも、それでも良いのかもしれない。
昨日風呂に入っている時は、細かい事は気にならなくなったと思っていたが、いざ元凶を近くに感じると、決して心は落ち着いていない事に気が付いた。
よくよく考えたら、なんで何もしていない俺達がこそこそしなくちゃならないんだ?
そんな必要はないだろう。
逆にあんな行いをしたあいつ等こそ、こそこそして生きるべきだ。
「皆、今決めた。あいつ等の前に俺達パーティー全員で出て行き、場合によっては戦闘になる。特にカンザは、ナタシアに執着しているみたいだからな」
「それじゃあ私がもう一度調教してやろうか?キグ坊」
「その時はもちろん私も一緒ですよ。フフフ。躾が足りなかったようですね」
「私はカンザなんて見るのも嫌です。キグスタ様さえいれば良いんです」
皆の後押しもあって、俺達はあいつ等と対峙する事を決めた。
そうだ!こそこそする必要なんてないんだからな!!
ヨハンによれば、ナルバ村の近くまで来ており、そう距離も離れていない為、昼前には到着するらしい。
とりあえず途中の魔獣に関しては、あいつ等に害を与えないように調整を依頼しておいた。
「我が君、カンザ一行は魔獣がいなくなった事から移動速度を上げております。間も無く村の入口まで来ます」
あいつ等の目的がわからないので、差し当たり少し様子を見る。
ヨハンの報告によると、カンザ一行はギルドに立ち寄りそのままこちらに来ているようだ。
ギルドでクエストを受けるわけでもなく、ギルドマスターに帰還の報告をすると共に、現状のナルバ村・・・・・・魔獣に襲われている現状の確認をしたらしい。
どうやら、この村の魔獣を一掃して素材を持ち帰るらしいのだ。
ソレイユの制御が無ければ、あいつ等では到底かなわない魔獣が闊歩しているのだが、自分の実力がわかっていないカンザ達では気が付かないだろうな。
ギルドに顔を出したカンザ一行は、ホールやリルーナの家に向かい、それぞれの両親の無事を確認すると、俺達のいるこの場所に向かってきている。
やがて、本人たちの話し声が聞こえてきた。
「やっぱり私の家、壊れちゃったんだ」
「壊したのは<剣神>だぞ。俺じゃない」
<剣神>ファミュに吹き飛ばされてフラウの家を破壊したカンザだったが、原因は<剣神>にあると主張している。
俺に言わせれば、お前が弱すぎるせいで壊れたんだろ!!と言ってやりたい。
「見る影も無くなったな。だが、あのクズの家はしっかりと存在してるな」
「なんだか気に入りませんね。何故他の家が壊れているのに、ここだけ綺麗なままなんでしょうか?」
ホールとリルーナは、俺の家が綺麗なままなのが気に入らないようだ。
それを聞いたカンザも、彼等に同意している。
「その通りだな。あいつらはこの村からいなくなっているんだ、こんな綺麗なままである必要はないだろう!」
「でも、私たちの宿泊する場所がないから・・・・・・ここに泊まれば?」
破壊衝動にかられたカンザを止めたのはフラウだ。
俺の家であるから止めたのではない。自分達の泊まる場所として使えそうだから止めたのだ。
このナルバ村には、もちろんリルーナとホールの家があるが、既に半壊状態と言っても良いので、彼らが泊まれる場所はない。
「チッ、しょうがない。せいぜい有効活用してやるか」
カンザの決定に、パーティーメンバー全員が俺の家に入ろうと扉に向かう。
「何勝手に人の家に土足で入ろうとしているんだ。クズ共!」
俺は奴らが扉に手をかける前に、自ら扉を開けてあいつらの前に現れた。
「キグスタ!何故お前が生きている?」
「そんな馬鹿な!」
「まさかアンテッド?」
「いえ、その様な気配は感じません。するとあの悪魔に魂を売ったのでしょうか?」
こいつら言いたい放題だ。
超常の者達の怒りの感情が伝わってくるが、手出しはするなと厳命しているので堪えてくれている。
「お前ら、あのダンジョンは中々の余興だったぞ。あの時のお前らの行動を報告したらどうなるか楽しみだな。そういえば、あの石は悪魔の頭上から落として驚かせて隙を作るために持って行ったらしいな」
四人を睨みながら国王へ報告した内容を伝えてやると、明らかに目が泳ぎ始めるカンザ一行。
「何故お前がそんな事を知っている」
その時、俺の背後からパーティーメンバーが出てきた。
「な、<剣神>と<槍神>・・・・・・それにナタシア王女!」
「やっぱり、冒険者達の言っていた人物はナタシア王女だったのね」
反応したのは、やはりカンザ。そしてフラウも反応して見せた。
残りの二人は、<剣神>と<槍神>に二度もこっ酷くやられているのを思い出したのか、こちらを睨むが何も言ってこない。




