キグスタ、狩場を広げる
本日1話目です
キグスタは、ワリムサエの町のギルドで着々と実績を積んでおり、破竹の勢いで冒険者レベルを上げていた。
もちろん戦闘時にはスライムの力を借りることになっているのだが、その時の動きは、毎日欠かさず行っている鍛錬の成果が出ており、美しく流れるような動きができている。
だが残念な事に、普段の鍛錬では武器を持ってしまうと重さに振り回わされてしまうため、体術を鍛え続けており、武器は一切使えない。
そんなキグスタのパーティーだが、相変わらずワリムサエの町にあるクララの家に居候している。
クリスタが生まれてから、キグスタのパーティーメンバーであるナタシア、クレース、ファミュはクリスタにメロメロで、しょっちゅうクリスタと戯れていた。
もちろんキグスタとその両親であるレイダスとクララも同じだ。
庭も広く、クリスタを抱っこして散歩するのがこの家に住む面々のブームだったりする。
そこで、キグスタ一行は少しでも両親のレイダスとクララが可愛いクリスタの近くにいる事ができるように、ギルドで素材を換金したお金を家に入れ始めた。
当初レイダスとクララは固辞したが、家に厄介になっている事、クリスタの為である事、最後に、将来の妻になる者の務めである事を伝えると、渋々ではあるが受け取ってくれるようになった。
女子会三人娘は最後の部分、”将来の妻”をやけに強調していたのだが、キグスタの両親は既に既成事実として認識しているようで、驚くようなこともなく笑顔であった。
もちろん、その時のやり取りの時にはキグスタは現場にはいない。
「キグ坊、そろそろこの辺りの狩場は他の冒険者に譲った方が良いかもしれないぞ」
「そうですね、あまり私たちが独占しすぎるのも良くありませんし・・・・・・どうでしょうか?キグスタ君」
「私も皆様と同じ意見です。でも、キグスタ様の意見に従います」
散々狩りつくした上でだが、一応他の冒険者達に配慮する姿勢を見せるキグスタのパーティーメンバー。
もちろん、魔獣達はソレイユの力があればいくらでも調節できるので、大した問題ではない。
その事を知っているので、狩りつくした後でもこのようなセリフが出てくるのだ。
「そうだな、俺達が向かう先には冒険者は遠慮して誰も来ないから・・・・・・移動はヨハン達のおかげで苦も無くできるし、今度は遠出するか?」
「「「やった~」」」
まるでピクニックでも行くかのように喜ぶ三人。そしてその姿を見て微笑むキグスタ。
このワリムサエの町の冒険者は、キグスタのパーティーに対してとても良い印象を持っていた。
自分では到底かなわない高ランクも魔獣をいとも簡単に討伐するその強さ、そして素材の一部をギルドに寄付し、冒険者達に還元している事、決して高飛車にならない事・・・・・・挙げればきりがない。
そして、キグスタパーティがワリムサエの町で活動するようになってから、冒険者達が怪我をすることが無くなったのだ。
もちろん超常の者達の仕業だ。
本当の理由を知る冒険者はいないが、この状態とキグスタパーティとが関連していると考えている冒険者は少なくない。
その事もあって、キグスタパーティーはワリムサエの町のギルドで冒険者達に好かれているのだ。
当然ギルドマスターからも絶大の信頼を得ている。
「皆はどの辺りに行きたいんだ?」
「えっと、私はやっぱり冒険者登録をしたアルバ帝国ですかね?」
「そうだな~、キグ坊の好きな所で良いぞ」
「折角ですから、キグスタ君の前の家、ナルバ村の家を確認しておきましょうよ」
最後のクレースの言葉に、全員が賛成する。
キグスタとしても、思い出が詰まった家の状態を確認しておきたかったのだ。
こうして、とりあえず次の目的地はナルバ村になり、そこで村の状況を軽く確認してからアルバ帝国に向かう事に決定した。
ワリムサエの町の家については、キグスタの両親、そして誰よりも愛されているクリスタの護衛に精霊神ハルム、死神アクトが残ることになった。
特にアクトは、約千年前に<統べる者>を持つ主を幼子から世話をした経験があるので、キグスタの両親を休ませたい時にクリスタの面倒を見る役目まで仰せつかっている。
当人としても、至高の主からのお願い、そしてその血が繋がっている妹の世話を出来る事に喜びを隠しきれていなかった。
「某、全身全霊をもってクリスタ様の面倒を見るでござる。御両親も大船に乗ったつもりでいるでござるよ。あ~、楽しみでござるな。フフフ、夢が広がるでござる」
そこに、同じくワリムサエの町に残るハルムが突っ込みを入れる。
「アクト、また調子に乗って玩具を作るなよ。後々、聖武具などと言われると面倒だからな」
「わかっているでござるよ。クリスタ様は女の子である故、武具など作らないでござるよ」
ハルムから疑いの眼で見られているのを気が付きもせず、ウキウキしたまま早くもクリスタの面倒を見始めるアクト。
死神に面倒を見てもらう女の子・・・・・・と言う表現からは想像もできない程、和やかな雰囲気で過ごせているクリスタ。
この様子を見ていたキグスタは、これならば家族の安心・安全は確保できたな、と、見当違いな事を思って出立の準備を始めた。
「それじゃあ、アクト、ハルム、宜しく頼むよ。何かあったら遠慮なく連絡して」
「わかったでござる」
「承知いたしました」
その後、キグスタ一行はヨハンと共にナルバ村の近くに転移した。
突然ナルバ村の中に転移して、ギルドマスター達に会うと面倒くさいと思ったのだ。
「これは酷いな」
キグスタの最初の一言がこれだったのは仕方がない。
最後にナルバ村を出る時には、防護柵もあり、破壊されている建屋等一棟もなかった。
しかし、今は防護柵も破壊され、建屋もまともな物を探す方が難しい状態になっている。
キグスタ一行が転移してきた場所には、魔獣は一切いない。
もちろん事前に獣神ソレイユの調整が入っているからだ。
その為、ゆっくりとナルバ村の現状を把握する事ができるのだが、村の中には人気がなく・・・・・・いや、全員が魔獣襲来に怯えて家の中に籠っていると言う事だ。
キグスタ一行は、誰かに目撃される心配が殆どない事から、そのまま自宅に向かった。
キグスタの家は転移した場所から近いので、再度転移せずに状況をその目で確認しつつ向かう事にしたのだ。
キグスタの家は、傷一つなく健全だったが、隣のフラウの実家は粉々になっている。
「これは・・・・・・ここまで魔獣が来たのか」
「違いますよキグスタ様」
「そうだぞキグ坊。これは前にあのバカが襲来した時に破壊したものだ」
「破壊したのはあなたですよね、ファミュ?」
「あ、ゴメン思い出したよ。そうだったな。ハハハハハ」
フラウの家は、ファミュがカンザを投げ飛ばして粉々に破壊したのだった。
その事を思い出しながら自宅に入るキグスタ一行。
外も中もきれいなままで、今すぐここに住んでも問題が無いような状態になっていた。
「これは・・・・・・魔獣の制御はソレイユがやってくれていたとして、これ程家の中まで奇麗にしてくれるのは・・・・・・ハルムか?」
キグスタの想像の通り、精霊神ハルムが精霊を使って、この家をきれいな状態に維持し続けているのだ。
「今日はここに泊まりましょうよキグスタ様?」
「お、いいな。賛成だ。そうしよう。な?キグ坊??」
「私も良い案だと思いますよ、キグスタ君」
三人に言われては否とは言えないキグスタは、この家に泊まることにした。




