カンザ一行、強制的に王都に戻る
本日3話目です
とある商隊。
ここ最近活躍目覚ましいワリムサエの町に向かう事を決断した一団だ。
通常はソレッド王国の近場のみで活動をしていたのだが、一年ほど前から、やたらと上質な魔獣の素材が大量に入荷されるようになった。
出所を調べたところ、ワリムサエの町からの入荷であることが判明したのだ。
大量ではあるものの、あまりにも高い品質レベルであるために人気があり、値崩れを起こす気配は今の所見えない。
とすると、自分達も何とかその商機に乗ろうとするのは当然の流れと言える。
いつもは長距離と言えば、隣国のアルバ帝国に出向いて異国の製品を仕入れてくるのだが、今回は同じソレッド王国内部の移動になる。
とは言え、距離で言えばアルバ帝国よりも離れているので、入念な準備が必要だ。
ワリムサエの町に向かう際に持ち込むべき売れるであろう商品の選定、そして道中の食料や水、更には護衛の手配。
全てが上手く商売が良くと言う前提で動いているので、商人としては相当なリスクがあるのだが、ワリムサエの町から入荷してくる魔獣の素材を見て、リスクよりもリターンの方がはるかに大きいと判断したのだ。
この商人、実は以前ナルバ村で狩られた魔獣の素材を扱っていた時期があるのだが、ナルバ村では原因不明の冒険者レベルの減少が起こっているらしく、まともな素材は取れなくなっている。
自分の身にも相当な危険がある可能性が高いので、自然と足が遠のいているのだ。
周りの商人仲間に聞いても、以前であればそこそこの人数がナルバ村に出入りしていたはずだが、今は誰一人としてナルバ村へは向かっていない。
そんな中、新たな商機の匂いを感じて、長距離遠征を決意した一団だ。
冒険者ギルドに長距離の護衛を依頼し、かなりの商品を積んだ状態でワリムサエの町を目指す。
道中は盗賊が出やすい場所もあるのだが、初めての遠征であり、何とか商売を行いたいと言う商隊の思いから、かなりの高レベルの冒険者が多数護衛についていた。
そのおかげか、道中のトラブルは一切なく、ワリムサエの町に辿り着くことができた一行。
早速ギルドに赴き、持ち込んだ商品の商売の許可と、魔獣の素材の買い取りを依頼する。
ギルドに許可を受けた商人達は、大きな建物の中に移動して商品を広げ始める。
ここは、市民から商人まで、幅広い人々が物資を求めて・・・・・・そして販売しに来る場所になっている。
王都の商品はそこそこ珍しいので、商隊が持ち込んだ商品は飛ぶように売れた。
これで大赤字だけはなくなった・・・・・・と安堵した商隊のメンバーだが、本番はここからだ。
どの程度、依頼の魔獣を手に入れることができるか、素材の状態はどうか、気になることは沢山あるが、今は待つしか方法がないため、予定よりも早く販売が終わってしまった商人達はワリムサエの町に繰り出す事にした。
聞いていた以上に栄えている町並を見て驚愕する商人一同。
一年程前から一気に栄えてきたと聞いてはいたが、聞くのと見るのとでは大違いだ。
この大通りなどは、まるで王都・・・・・・いや、正直に言ってしまうと王都よりも栄えていると言って良い程だ。
通りの脇には、夜の暗闇対策か、所々に魔道具の明かりが準備されている。
町並みは綺麗で、かなりの店が美しく立ち並んでいる。
これだけ整備するには相当なお金が必要になるのは誰にでもわかる。
そんな整備を一年前程から行っていたワリムサエの町。
持ち込まれた素材の品質と量から、ある程度は想像はしていたのだが・・・・・・想像のはるか上を行っていたのだ。
正直このままこのワリムサエの町に住み着きたい衝動に駆られるが、今回は初めての遠征と言う事もあり、家族は王都に残してしまっている。
それに、ここで仕入れた魔獣の素材を王都で販売しない限り大赤字なので、少なくとも最低一回は戻らなくてはならないのだ。
商隊の多くの商人がワリムサエの町をその目にして、一度は王都に戻るが、なるべく早くにこの町に戻って来る事を決意した。
もちろん活動の拠点をワリムサエの町にするので、家族と共に来る事になる。
数日が過ぎ、益々王都に戻る気持ちが薄れている商人達だったが、ギルドから依頼の素材が入荷されたと連絡が来たので、重い腰を上げてギルドに向かう。
すると、期待以上の上物が整列されていたのだ。
どうやって倒したのかわからない程傷がない素材の山。
こんなに簡単にこれ程の上質な素材が手に入るのならば、この町がここまで一気に栄えるのも頷ける。
ホクホク顔で素材を手に入れ、王都への帰還の準備を始める商人達。
帰りも同じ護衛のメンバーで帰還するので、大人数での移動となる。
名残惜しい気分のままワリムサエの町を出て、少々移動した森の中で突然商隊が停止した。
何でも気配察知に優れた護衛の冒険者が、四つ程の気配をこの先で感知したとの事。
しかも、隠れるように一切動かない状態の四つの気配なので、罠の可能性を考えて一旦商隊を停止させたようだ。
気配察知に優れた者と、戦闘能力が高い者が連なって気配の元に向かう。
暫くすると、彼らは四人の瀕死の状態の面々を肩に担いで帰ってきた。
冒険者の一人が言うには、その中の一人を見た事があるらしい。
驚くことに、選抜メンバーであり、最強のパーティーと言われているカンザと言う名前なのだそうだ。
とすると、他の三人はパーティーメンバーだろうと言う事になった。
カンザと言う名は、聖武具クラッシャーとして有名になっているので商人達にも知れ渡っている。
正直面倒事の匂いしかしないのだが、一応悪魔の王へ対抗し得る最高戦力と言う事になっているので、救助だけはする事にした商人達。
ポーションを与えて傷を癒し、意識がはっきりすると食事を与えた。
だが、カンザ一行は商人達に対して一言も喋る事もなく、ただ座っているだけだったのだ。
そう、カンザ一行はようやく自分達の立場を少しだけ理解する事ができていた。
あの<剣神>と<槍神>は、武器すら使わずに自分達を圧倒して見せた。
それも、明らかに本気などは出していない。
長きに渡るダンジョン最下層での生活と、高ランクの魔獣討伐の実績により付いた自信は脆くも崩れ去ったのだ。
そしてあの二人は、カンザ一行に対して止めを刺すことなくあの場を後にしていた。
つまり、カンザ一行が助かって復讐をされるリスクを意に介さなかったのだ。
耐え難い屈辱と、今のままではどうやっても勝てないと言う敗北感から、カンザ一行は一切口を開くことがなかったのだ。
商隊は、有名なカンザが何故あんな場所で瀕死になっていたのか?と思いはするのだが、余計な事は言わずに黙々と王都を目指す。
そもそもカンザ一行は王都所属であるはずなので、目的地は同じであると言う判断からだ。
ついに一言も会話することなく、一行は王都に到着した。
カンザ一行もお礼を言う訳でもなく、商人達と別れて王城に向かった。
あれだけ世話をさせておいて、お礼の一言もないカンザ一行に腹を立てる商人達。
今回の遠征も、カンザは商人達から嫌われると言う戦果だけを残したのだった。




