ソレッド王国の評判とカンザの動き
今日、二話目の投稿です
この世界には複数の大陸があり、その大陸に複数の国家が存在している。
ソレッド王国や、隣国であるアルバ帝国は同じ大陸に位置している。
そして、全ての大陸、国家には聖武具と呼ばれるアクトが作った玩具が国宝として存在しているのだ。
アクトは、当時の主君である<統べる者>を持つ者に相当量の武具を作っていたのだ。
各国で厳重に管理されている聖武具は、何れ来るであろう悪魔の王との闘いの切り札と位置付けられている。
ある時、各国に保管されている聖武具が一斉に輝き、悪魔の王が顕現した事を知る。もちろん、自国の聖武具だけが輝いたのではない事は確認済みだ。
全ての国家で保管している聖武具が輝いたのだ。
長きに渡り悪魔の王との闘いを想定していた国家は、緊急事態と判断し、上位スキル以上を持つ者達に課していた鍛錬のレベルを引き上げ、更には実践のためのダンジョン攻略ペースも上げていた。
選抜されたメンバー達も、自分達の未来を勝ち取るために必死で修行を行っていたのだ。
そこに、ソレッド王国が聖武具を紛失したと報告が上がる。
ソレッド王国最強と位置付けられている選抜メンバーパーティーの聖武具を、全て紛失したと言うのだ。
荷物持ちとして同行していたメンバーが、聖武具を全て持った状態で最下層のボスの部屋に単独突入してしまったと言う事らしい。
信憑性にかなりの疑問があるが、聖武具の紛失と言う事だけは事実である事は確認できていた。
一大事と考えた各国は、自国の選抜メンバーの状況を逐一確認する事にしたが、ソレッド王国以外での聖武具の紛失は確認される事は無かった。
落ち着きを取り戻して、一年近く修行を繰り返していたところ、再びソレッド王国の聖武具が破壊されたと報告が上がる。
今度の聖武具は、他の聖武具よりも数段性能が良い物だったと言う事だ。
詳しい情報を得ると、またしても同じパーティーに持たせていた聖武具であり、一年近くダンジョンに潜って帰還した後に破壊されたようだ。
これは、一年近くのダンジョンでの激しい戦闘によるものかもしれないと考えていたのだが、ソレッド王国の王城のみ異常気象に襲われている事も判明した。
そうすると、今回の聖武具の破壊をどう考えるか・・・各国の首脳は悩んだが、結論が出ることは無かった。
しかし、どんな理由であれ貴重な聖武具を複数回破壊されている事は疑いようもないので、ソレッド王国に対して全ての国家が厳重注意を行うことになった。
ある程度各国が平等になるように配布されている聖武具。これをある国家だけ、紛失や破壊などと言う大失態で失っているのだ。
仮に悪魔の王との戦闘による物であれば、注意を受ける謂れはないのだが、今回の場合は国家としての管理方法に非があると判断された。
「何故私がこのような恥辱を受けなくてはならんのだ」
執務室にある豪華な机を殴りつけるソレッド王国の愚王。
ありとあらゆる国家の元首から、かなりのおしかりを受けたのだ。
緊急事態には、各国に配布されている魔道具を使用した会議が開催される。
この会議において、聖武具紛失、破損に対して責められたソレッド王国の国王は反論する術が無い為、ひたすら謝罪をする場となっていたのた。
「異常気象がなくなったと思ったら・・・クソッ。それもこれも、事の始まりはあのキグスタとか言う選抜メンバーのせいだ。そうだ、その両親!おい、誰かおらんか!!」
執務室に慌てて入って来る執事。
「キグスタの両親捕縛の件はどうなっている」
「以前カンザ様一行が向かったナルバ村を既に出ているようです。今の所行方は分かっておりません」
「上手くいかん時は、全てが上手くいかんな」
その程度の事も遂行することができない配下に嫌気がさしつつ、執事を下がらせる国王。
だが、希望もある。カンザ一行だ。
彼等は長きに渡りダンジョン最下層で生活をし、最終的には高位の魔獣を討伐して無事に帰還して見せた。
かなりの戦闘力を得たとみて間違いないと思っている。
そのパーティー一行が、<剣神>と<槍神>を捕縛しに、目撃情報の有ったワリムサエの町に向かって行ったのだ。
国王も、カンザ一行の力があれば<剣神>と<槍神>等容易に捕縛できると思っている。
そして、<剣神>と<槍神>の二人は、王都にさえ戻ってくれば、貴族の扱いを受けられるように懇願し、遜ると信じて疑っていない。
そうすれば、カンザ一行曰く、とてつもない聖武具を持っていたらしい<剣神>と<槍神>の聖武具を、ソレッド王国管轄の聖武具として数えることができる。
各国に責められた聖武具損失についても補填できる事になるのだ。
どの程度の聖武具かはわからないが、ソレッド王国で最も上級の聖武具を与えていたカンザ一行が”レベルの違う聖武具”であったと言うのだから、そう言う事なのだろう。
逆に他国に対して、まともな聖武具すら手に入れられないのか??と逆襲することも可能になって来る。
散々責められた仕返しができる未来を想像して、ほくそ笑む国王。
この辺りが愚王であるのだが・・・永遠に改善されることは無いだろう。
一方のカンザ一行は、事情を理解してくれた国王より上等な馬を手配され、順調にワリムサエの町に向かっている。
道中の町や村に宿泊する際は、念のために<剣神>と<槍神>の情報を仕入れることも忘れない。
そこで得られた情報を基にすると、やはり<剣神>と<槍神>はワリムサエの町にいるとみて間違いないようだ。
しかも、その二人はパーティーを組んでおり、一人は黒目黒髪の男、もう一人は金髪蒼目の美しい女性と言うのだ。
実はこの世界、金髪、金目、銀髪、銀目、青髪、等は珍しくもないが、目や髪の色が黒である事は相当珍しい。
片方だけでも珍しいのに、髪と目の両方が黒であれば、殆ど見る事ができない。
この情報を得た瞬間に、フラウはキグスタの生存の可能性に気が付いた。
「ちょっとカンザ、それってまさか・・・キグスタじゃないの?あの<剣神><槍神>もキグスタの事を気に入っていたから、パーティーを組んでいるとなると・・・」
「はぁ、黒目黒髪だけでそこまで飛躍するなよ。あいつはあの悪魔と一人で対峙したんだぞ。俺達の全力で傷一つつかなかった悪魔にな。それにあいつはまともな武器すら持っていなかったんだ。生きている訳がないだろう?」
「そうですよフラウ。落ち着いてください。確かに黒目黒髪となると相当珍しいですが、決していない訳ではありませんよ」
「リルーナの言う通りだぜ。あんなクズが生き残れる訳がないんだ」
他の面々にそう言われると、そんな気がしてきたフラウ。
「じゃあ、キグスタじゃないとして、どんな人なのかな?それに蒼目、金髪って・・・失踪したナタシア王女もそうじゃなかったっけ?」
・・・・・
カンザは思い出してしまった。
自分の妻に相応しいと勝手に想像していた、美しくも芯の通った王女の事を。
確かにフラウの言う通り、あの王女は蒼目、金髪だ。
ワリムサエの町で<剣神><槍神>と共にいる女も蒼目、金髪で相当美しいと言う事だ。
それに、良く考えれば<剣神>と<槍神>とも王城で比較的お互い会話をしていたはずだ。
そうすると、王都から逃げたあの箱入り娘である王女が頼るのは<剣神>と<槍神>!
何故か確信めいた物を得たカンザ。とすると、残りの一人である黒目黒髪が気になるが、該当するような人は思い浮かばない。
もちろんキグスタは死亡していると思っているので、対象からは外れている。
「確かに、その女性はナタシア王女かもしれないな」
そう呟き、いつもより早く移動するように決意していた。




