王都の異変
本日2話目です
ワリムサエの町での活動もすっかり安定して、楽しい冒険者生活を送っているキグスタパーティー一行。
ありえないレベルの魔獣と量を持ち込んでいる為、町全体にその効果が波及して、かなり景気の良い事になっている。
高級な素材は王都へ販売する方が値が付くため、納品後時間が経ってからの収入となるが、その辺りは既に気にする必要が全くない程の実入りを得ているキグスタ一行。
もちろん、かなりの量をギルドに融通し、それを原資として冒険者達にも配当を出しているので、他の冒険者達に喜ばれこそすれ妬まれると言うようなこともなかった。
そんな中、ある日キグスタ一行がいつもと同じように魔獣をギルドに納品しようとしたが、受付である精霊王のミルハに呼び止められた。
「キグスタ君、少しギルドマスターとお話する時間はありますか?」
前情報なしにギルドマスターと話をする事は無かったため、まさに今入った情報があるのだと理解したキグスタ一行は、そのままミルハに連れられてギルドマスターと面会する。
「やあ、今日も沢山の魔獣を狩ってきてくれたのかい?おかげでこの町の景気も良いし、周辺の安全も確保できている。助かるよ」
先ずは軽い挨拶とばかりに気さくに話しかけるギルドマスターだが、キグスタ一行は本題はそんな事じゃないと分かっているので先を促す。
「実はな、今入ってきた情報なんだが・・・暫く姿を見せていなかったカンザ一行がダンジョンから帰還したんだ。その時に持っていた深層ボスの素材はかなり上位の魔獣だったらしい」
キグスタ達は、ソレイユから話を聞いているのでその辺りは既に知っているのだが、余計な事は言わずにギルドマスターの話を聞く。
「それでな、あいつら改めてレイダス様とクララ様の捕縛を主張しだしたんだ。長きに渡ってダンジョンに閉じ込められた原因は、手になじんだ聖武具を失ったせい。その責任をキグスタ君の両親に取らせろ・・・とな」
「すまんなキグ坊、私たちがあの時に甘い対応をしたから」
「本当ですね。もう少ししっかり誰が上なのかを調教するべきでしたね」
クレースとファミュが反省しているが、実際はキグスタが、ナルバ村の自分の家の前で命のやり取りをされる事を嫌った為、甘い対応になっていたのだ。
突然得られた強大な力を制御できる自信がなかったとも言う。
「それで・・・言いにくいんだが、お二人にも捕縛命令が出たんですよ」
国王としては、自分の身を守る事ができると思っているカンザ一行の帰還により、いつ王都に戻って来るかわからないクレースとファミュに配慮する事を止めたのだ。
クレースとファミュが万が一王都に戻っても国王の護衛をする訳はないのだが、愚王だけに、あれ程目の前で拒絶されたにもかかわらず、この二人が貴族の扱いをされる事を望んでいると信じて疑っていなかった。
「それで、ギルドマスターの意見はどうなのかしら?」
ナタシアの底冷えするような声が、ギルドマスターの執務室に浸透する。
彼女も最上位スキルである<聖女>を持っているので、身体能力を含めて常人では辿り着けない領域にいる。
「このワリムサエのギルドはあいつらの命令なんぞ聞くつもりはありませんが、クレース様とファミュ様はあまりにも有名です。他の町から来た冒険者がちょっかいを出してくるかもしれません。クララ様とレイダス様はあまりご自宅から出る事がないので、今のままで問題ないと思いますが・・・」
つまり、ワリムサエにいる限り、外からやってきた人達だけに気を付ければ問題ないと言っている。
「妥当な判断ですね、ギルドマスター」
ナタシアの発言により、ホッと胸をなでおろすギルドマスター。
目の前にいる三人の女性からは、決して怒らせてはいけないと確信できるほどの力を感じるのだ。
だが、ギルドマスター自身としても、大恩あるクララとその一行に弓を引く気などさらさら無い。
「では、念のため新規にワリムサエに来た面々の情報は都度お届けします。町の外で活動する際には、十分お気を付けください」
そんな情報は、ギルドマスターから聞くよりも早く手に入れることができるのだが、好意を無にする訳にはいかないので、ありがたく受け取っておくことにしたキグスタ一行。
「とりあえず、暫くは今のままの生活で問題ないでしょ?」
ギルドを出たキグスタの一言により、一行の方針は決定した。
いつもの通り魔獣を狩り、いつもの通り楽しく生活するのだ。
しかし、超常の者達はそうは行かない。
再び至高の主であるキグスタと、その身内とも言える面々に、理不尽な扱いを強要しようとしているのだ。
女子会ならぬ、”キグスタ様を想う会”と言う名の超常の者達の会議がすかさず開催された。
残念ながら、ギルドに勤務している精霊王のミルハだけは会議の場にいないが、精霊の力を使って意思疎通はできている。
ネーミングセンスが無いのは触れずにいて欲しい。
参考までに、この名称を考えたのは精霊神のハルムだ。
もちろん他の超常の者達から絶賛されていた・・・
話を戻す。
当然超常の者達の怒りは相当だが、キグスタには今の所放っておけと言われてしまっているのだ。
「そもそも、全ての元凶はあのカンザとか言う愚者ではござらんか?某がすぐさまあの口を永遠に閉ざすのが良いのでは?」
「それは私の役目だな。あいつに<槍聖>を与えてしまったのはこの私ソラリスだからな」
「お待ちください。お二人の気持ちは良く分かります。でも、我が主にどのように説明するのですか?」
「ソレイユの言う通りだ。ご主人の意向に反する事を行うわけにはいきませんな」
キグスタの近衛隊長と言う位置付けになっている神の4柱は、今すぐカンザ達を罰したいが、中々思うようにいかないと言う板挟みになっていた。
「確かにハルムの言う通り、我が君の意に反する事をする訳にはいきませんな。とすると、今我が君の許可を取らずにできる事と言えば、アクトの作った玩具の破壊でしょうか」
ヨハンが、今でき得る細かい嫌がらせを提案してきた。
「それだけでは・・・そうだ!私が王都の気候を変動させよう。精霊の力を使えば造作もない。どうですか皆さん?灼熱か極寒か、どちらがいいですかね?」
一番落ち着いているように見えていた精霊神のハルムも、実際は怒り心頭だったのだ。
流石は神・・・と言うべき力で、王都の気候を変動させると軽く言い放った。
そして決まった王都への嫌がらせ。
カンザ一行の聖武具は当然破壊。そして王都のみ極寒と灼熱が交互に襲って来る気候にする事が決定された。
これは、どちらの気候にするべきか意見が纏まらなかったので、ヨハンの一言で交互にすることに決定したのだ。
一応念のため、本当に念のために、ヨハンがキグスタにこの作戦の実行許可を得に行く。
王都を全て異常状態にしてしまうと報告したところ、キグスタは一般の人々への被害を心配していた。
その為、異常気象の範囲は王城だけにとどめることになったのだ。
王城内部にいる面々は、使用人ですら貴族関連であり、その他はカンザ達を含む一部の選抜メンバー、そして王族しかいないので、問題ないとアドバイスしたのはナタシアだ。
こうして、ソレッド王国の王城だけに異常気象が発生すると言う、前代未聞の現象が起きた。
ここまで来ると、一般市民たちは神の怒りを買ったのではないか・・・と囁き合うようになり、その噂は貴族から王族へも伝わっていく。
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