数か月後のカンザ一行
今日もよろしくお願いします。
ワリムサエの町で冒険者としてデビューしたキグスタ一行。
もちろんパーティーとして登録しているので、パーティーメンバーはキグスタ、ナタシア、クレース、ファミュの四人だ。
当然魔獣相手に危険な状態になりようもないので、激しい動きを制限しているキグスタの母であるクララと、そのサポートに必死になっている父親のレイダスの分も稼ぎまくっている。
特に女性陣の働きが群を抜いているが、その原動力は、何と言っても”婚約者”であると言う事だ。
ギルドマスターとの対話の時に、キグスタの母であるクララからそのように紹介され、自らも事あるごとに婚約者であると主張してきた三人。
外堀を埋める作戦に出たのだ。
その結果、ワリムサエの町にいる冒険者や、ある程度の町人達には三人がキグスタの婚約者であると認識された。
まさに作戦成功だ。第二回女子会では、その成果に三人が歓喜していたとか・・・
こうなると、嬉しさのあまりに力の制御が疎かになることがあり、冒険者レベルが初心者である面々では決して狩る事のできない魔獣をギルドに持ち込んで、驚かれたりしていた。
そうして認知度が上がると、キグスタの”婚約者”であると言う認知度も上がるので、余計に力が入る三人だ。
そんな楽しい生活を始めたキグスタ一行。
その一方で地獄の生活を継続している面々がいる。
ダンジョンの奥深くで、命がけのサバイバルを展開し続けているカンザ一行。
既にここに閉じ込められてからどの程度時間が経過しているのかすら理解できなくなっている。
実際は数か月と言った所なのだが、数十年ここで生活しているような気持になっている。
「おい、そろそろ腹が減った。もう肉の在庫がないんだ。動けるうちにそろそろ魔獣を狩らないと待っているのは餓死だぞ」
カンザがパーティーメンバーであるフラウ、リルーナ、ホールに向かって話す。
以前であれば、カンザの意を汲んで自ら率先して行動していたパーティーメンバーだが、長きに渡り極限状態にいる生活で神経をすり減らされている。
更にはカンザは指示のみで、一向に動こうとしない状態に痺れを切らす。
「カンザこそ魔獣を狩って来いよ。今まで一度も行ってないだろ?」 「そうね、私達ばかりって言うのもどうかと思うわよ」
「私は水を出し続けてるので、魔力に不安があるんです」
ここにきて、ようやくカンザは自分の立場が相当悪くなっている事を理解した。
このダンジョン探索も、半ば強引にパーティーメンバー全員を引き連れて、調子に乗って深層まで来てみればこの有様だ。
「俺はパーティーのリーダーであり司令塔だぞ。万が一があったらお前達だけで生き延びることができるのか?」
カンザ自身も気が付いていないが、既に目標はこのダンジョンからの脱出ではなく、生き延びる事になってしまっている。
「ひたすら隠れて、時々魔獣討伐をするくらいであれば問題ないな」
ホールがそっけなく答え、リルーナとフラウも同意している。
「バカを言うな。今のこの状況が続くならばその通りかもしれない。だが、いつまでもこのままで過ごせるわけがないだろう。そんな時、瞬間的に的確な判断ができるかを聞いているんだ」
的確な判断ができないからこそ、この状態になってしまっているのだが、カンザにはわからない。
しかし、選抜メンバーとして王都に来て、カンザがパーティーに加わってからの約三年間の修行中、ひたすらカンザの言う事を聞いていた三人には、カンザの意見がまともに聞こえてしまうから恐ろしい。
いや、カンザにある意味洗脳されて、キグスタを貶めることに忙しかったから、まともな経験を積めていなかったと言う方が正しいかもしれない。
「じゃあどうするんだ。正直俺達はもう疲れた」
「そうね、なんでこんな事になっちゃったのかしら」
「最後に一回で良いからゆっくりと眠りたいです」
カンザはこのメンバーを平気で捨てようとしたのだが、国王の命令で仕方がなく面倒を見ているつもりだ。
なので、手足のように動くのは当然だと言う考えなのだが、最近はまるで思うように動くことがない。
カンザは自分なりに原因を考えた。
そうすると、二つの原因が考えられた。
一つ目は、悪魔の王による魔獣の活性化が起きているにもかかわらず、ダンジョンの深層まで闇雲に突入してしまった事。
二つ目は、慣れない聖武具のせいでまともな戦闘ができない事。
二つともかなり的外れではあるが、カンザとしてはしっくり来る物だったのだ。
とすると、一つ目はどう考えても自分達のせいでどうしようもない。
二つ目に関しては、本当は今の聖武具の方がかなり性能が高いのだが・・・これが原因と確信した。
つまり、聖武具を失う切っ掛けになったキグスタが悪いのだ。
そう考えると不思議と力が湧き上がり、キグスタへの復讐・・・いや、死亡したと思っているので、その両親への復讐を改めて決意した。
「おい、お前ら。このままこんな所で終わっても良いのか?こんな状態なったのは、最初に俺達が持っていた聖武具を失う切っ掛けになったキグスタのせいだろ?以前から慣れ親しんだ聖武具を使えていれば、こんな魔獣達に恐れをなすこともなかったはずだ」
「そうかもしれないな。でもそれでどうするんだ?」
既にフラウとリルーナは何も言わずに、カンザの不思議な話に聞き入っている。
「俺達がこれほど苦労しているのに、その原因は既に死亡。そしてそのつけを払うはずの両親はきっと今ものうのうとナルバ村で暮らしている。許せるか?」
「・・・いや、なんで俺達がこんな苦労をして、あいつらはのうのうと暮らせるんだ」
複数人が集まった時、団結させる手っ取り早い方法は共通の敵を作る事だ。
貴族に名を連ねていた時代に、ドロドロした闘争の中でカンザは身をもってその事を学んでいた。
その知識が、今までこのパーティーを歪んだ方向に突き進ませることができた要因なのだ。
更に、この極限の状態で再度力を与える事にも成功した。
「そうですね。あの両親に責任を取ってもらう所を見るまでは、こんな所でグズグズしている訳にはいきませんね」
「よっしゃ、じゃあ体力をつけるためにとりあえず一匹魔獣を狩ってくる」
「水ももう少し大量にためておきます」
やる気が出てきた三人を見て、カンザは一安心した。
だが、これからが本番だ。先ずはここから脱出できなくては、いずれは死が待っている。
ダンジョンは、ここまで来てしまうと脱出する方法は二つ。
一つ目は上層に向かって歩を進める最も長い道のり。もう一つは、最終のボスを倒すこと。
ボスを倒せば、地上までの転移陣が現れ、何の問題もなく地上に即帰還することができる。
これは一般常識になっているのだが、ボス討伐後にあまりそこにとどまり続けると、再度ボスが現れて転移陣も消えてしまう。
一か八かでボスを狙うか、危険度は若干下がると思われる地上への道を進むか・・・
カンザはもうすぐ結論を出すつもりでいた。
どちらにしてもかなり危険である事には違いないので、なかなか結論を出せずにいる。
やがてホールが小さめの魔獣を運よく無傷で仕留めて帰ってきたので、カンザはパーティーメンバーに二択の方法がある事を説明した。
「こうなったらボスに行くしかないだろう」
「でもかなり危険でしょう?」
「あまりに長い工程だと、道中の魔力が心配です。一気に攻めたほうが良い気がしますが・・・」
ボスに行くと言っているのが二人、上層に向かい逆攻略をするのが一人だ。
全員の意見を聞いたカンザが出した結論は・・・
「よし、今日はたらふく食ってコンディションを整えて、明日ボスにアタックだ」
一か八かのボス討伐だ。
既にこの時、キグスタ一行は安定した生活サイクルを送っていたので、ソレイユはカンザ一行の監視をするよりもキグスタに意識を向けたいので、正直さっさと出て行って欲しがっていたのだ。
当然魔獣達は弱小化されていたのだが、極限状態にいたカンザ一行にはわからない。
もちろんホールが仕留めてきた魔獣も、通常状態であればホールの方が瞬殺される強さを持っている。
とすると、明日の朝にはカンザ一行は地上に帰還できることになるのだ。
ある意味カンザは正しい選択をした。




