ワリムサエのギルド
本日二話目です。
精霊王であるミルハは、以前からそこの職員だったと認識された状態でギルドに潜り込む事に成功した。
いや、失敗する要素は無いのだが・・・
そこで得た情報を俺達にくれたのだが、当然王都にあるギルドからいくつかの指示が出ていたようだ。
ナタシア探索の件、そして俺の両親捕縛命令が出された件だ。
他には、ナルバ村の村民移動クエストもソレッド王国の全ギルドに出ていたようだが、かなりの安値で誰も受けることは無いだろうと言う事だ。
俺達が移動してそれほど時間は経過していないが、ナルバ村も変わったみたいだな。
そしてこの町のギルドマスターは、前ギルドマスターの行動により命を救われた一人らしく、俺の両親捕縛の件についてはその場で握り潰しており、職員の誰もその情報は知ることは無く、当然冒険者達も知らないようだ。
何故職員の知らない情報を知っているかって?
それはギルドにいるのが超常の者だからだ。
一方のナタシア探索の件。
この件は俺の両親捕縛の情報と共に来た情報なので、きな臭さを感じて暫く様子を見る事にしたらしく、未だ正式なクエストとしては発行されていない。
この情報を纏めると、母さんと一緒にギルドマスターと面会してナタシアの話をしても問題ないと思う。
更に、この町で母さん達の行動を制限する必要もなく、良い環境であると言える。
あまりにも簡単に得ることができた情報を父さんと母さんに説明する。
「と言う事で、母さんとナタシアと俺でギルドに行って事情を話そうと思うんだけど」
この町は辺境なので、王都から来る冒険者は数が少ない。
そして、普通の冒険者ではナタシアの顔を知っている者はいないと思う。
そうすると、ギルドマスターと話をつけておけば普通に生活ができることになるんだ。
「わかったわ。それじゃあ早速行きましょうか。ナタシアちゃんも良いかしら?」
「はい、お母さま」
そんな会話をしていると、横に座っていたクレースとファミュも同行したいと言ってくる。
「キグ坊、私もギルドの情報を知っておきたいので同行するぞ」
「キグスタ君、私もです」
最近この二人は、やけに俺と一緒にいたがるのだが・・・気のせいだろうか?
でも、今後ここのギルドを利用するのだから、ギルドマスターに顔を覚えておいてもらって損はないだろう。
こうして、俺と母さん、そして女子会三人娘と共にギルドに向かう事にした。
父さんは家でお留守番だ。
この家からギルドまではそれ程距離は離れていない。
流石に領主から貰った家だけあって、立地条件も悪くない。
少々歩いてギルドにつくと、受付として働いているミルハに目配せする。
俺達が来ることは当然知っているので、すぐにギルドマスターの部屋に案内してくれるようだ。
ギルドマスターって、こんなに簡単に会える人だと勘違いしそうになるが、そこも超常の者、更には母さんの存在があるからだろうと納得しておく。
「ギルドマスター、クララ様とご家族様達をお連れしました」
「お通ししてくれ」
扉が開かれると、ギルドマスターは書類仕事をしていた最中らしく、乱雑になっている机の前から立ち上がってこちらに向かって来る所だった。
「おお、お久しぶりでございます、クララ様。そしてそちらが・・・ご子息様でしょうか?」
「本当に久しぶりですね。紹介します。息子のキグスタ、その婚約者のナタシアちゃん、クレースちゃん、ファミュちゃんよ」
俺の名前を聞いた瞬間に、若干考えるような顔になったギルドマスターだが、その後の紹介で目を見開く。
「ナタシア王女・・・それに<剣神>と<槍神>・・・」
一方の女子会三人娘・・・
「はい!婚約者のナタシアです。ただのナタシアですので、よろしくお願いいたします」
「こここ、婚約者のファミュだ。よ、宜しくな」
「ご紹介にあずかりました婚約者のクレースです」
いつの間に婚約者になったのかは知らないが、否定できる雰囲気ではないのでこのままにしておこう。
逆にあの女子会三人娘が俺なんかの婚約者と言われて、いやな気持になっていないかが心配だ。
「と、とりあえずお座りください」
動揺しつつも俺達に席を勧めてくれるギルドマスター。
「まずはクララ様、幾つかこちらから確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「そうね、疑問に思った事に答える方が良いかもしれないものね」
真面目な顔の母さんとギルドマスター。
女子会三人娘は、顔を赤くしながらニヤニヤし、時々小さな声で「婚約者、ウフフ」なんて呟いている。
もちろんヨハンが調整して俺に聞こえるようにしてくれていると思うのだが、過剰なサービスだ。
「それでは、まずはキグスタ様は・・・申し訳ありません、王都からの報告通りであれば、選抜メンバーのパーティーの鍛錬中に聖武具と共に行方不明、そして、ナタシア様も行方不明になっているとなっています」
「キグスタ、貴方が説明した方が良いかもしれないわね」
母さんから振られたので、俺が答えることにした。
「初めましてギルドマスター。先ずは幾つか情報を訂正させていただきます。私が行方不明・・・どのような報告かは想像がつきますが、実際に起こった事を説明します。実は・・・」
と、全ての事実を明らかにする。
「やはりそうですか。クララ様の御子息が報告通りの行動を取るとは思っておりませんでしたが・・・。しかもキグスタ様の預かり知らぬ所で起こった聖武具の損傷。それをキグスタ様に責任を押し付け、あまつさえそれを盾にクララ様達を奴隷に落とそうとするなど・・・許せることではありませんな」
聖武具の破壊については、俺のせいでもあるかもしれないが・・・あの時は超常の者達の存在に驚き、そして自分の身の安全が確保できた事に安堵していたので仕方がないだろう。
この場には現れていないが、存在を隠蔽した状態で俺の護衛をしているヨハンから喜びの感情が漏れている。
ギルドマスターが俺を信じている事に気を良くしているようだ。
「それで、ナタシア様とクレース様、ファミュ様はどうしてこちらに?」
「私はあの愚王とは完全に縁を切りました。愚王はキグスタ様の御両親に害を与えようとしたので、そうならないように行動した結果です。もちろん二度とあんな王族に戻るつもりはありません。私はキグスタ様の婚約者ですから」
「私はキグ坊が気に入ったからだな。ここ、婚約者だしな」
「私もファミュと同じですね。婚約者ですから」
堂々としている三人。まさに我に正義あり!と言った佇まいだ。
しかし、やけに婚約者を強調してくる。
この場ではあまり関係ないとは思うんだけどな。
「そう言う事ですよギルドマスター。私達は今の所この町にいるつもりです。キグスタ達は冒険者レベル0からスタートするようなので、よろしくお願いしますね?」
「え?キグスタ様の事は良く存じ上げておりませんが、クレース様とファミュ様は、少なくとも冒険者レベル60からでも良いのではないでしょうか?」
ギルドマスターの提言は尤もだと思う。
俺でもそう思うのだが、あの二人は決して認めない。
「何を言っているんだギルドマスター。キグ坊と一緒の条件で冒険するのが良いんじゃないか」
「本当ですよ。それこそが冒険者登録をした唯一の理由なのですから。自分達だけそんな訳の分からないレベルにされても困ります」
ホラな。普通の冒険者なら、冒険者レベルを上げるために必死になると思うのだが・・・
クレースなど、訳の分からないレベルと言い放っている。
この場に他の冒険者がいなくて良かった。
だが、これで暫くは何の問題もなくワリムサエで冒険者活動ができる事が確認できた。
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