ヨハンの回想(2)
今日も二話投稿させていただきます。
あの上位悪魔は我が君の事を弱いと判断したようです。
そう、確かに我が君はスキルも持てないおかげで身体能力も高くありません。
ですが、来る日も来る日も、そう、たとえ雪や雨でも毎日欠かさず鍛錬をしていらっしゃったのです。
ある日は体術、ある日は魔術、ある日は剣術。
しかし、剣は武器の重さに振り回されてしまい、体術と魔術に絞って鍛錬をされていました。
残念ながら、どの鍛錬も筋力を若干上げる程度の成果しか得ることができておりませんが、それでも我が君は毎日毎日、歯を食いしばり鍛錬されていたのです。
今日がダメでも、明日は変わるかもしれない。いつかきっと自分も強くなれるんだ・・・と信じて。
それは、今をもって変わっておりません。
人知れず鍛錬をされているのです。
しかし、我らは本能で知ってしまっています。
決して我らがスキルを与えた人のように、爆発的な強さを得ることはできないと。
もちろんスライムや我らの力を使えば、文句なしの最強でしょう。
ですが、我が君が求めているのは自分自身だけの力なのです。
涙ぐましい必死の努力を見て、<武神>のソラリスは、決して定着する事がない<スキル>を泣きながら付与し続けていました。
<死神>のアクトは、自分が何の助けにもなれない事を悔み、<精霊神>のハルムは、そんな我が君の姿を見る事に耐えられなかったのか背を向け、<獣神>のソレイユは、スキルを与えられなくとも、今回のスライムのように我が君の為になる事を必死で探していたのです。
そして今回安全の為にダンジョンを先制攻略することになりましたが、これは我が君の助けになれると言う事にもなるので、喜びに打ち震えておりました。
そこに、あの上位悪魔のあのセリフ……「あの何の力もない人族に配慮するなど・・・」が聞こえてしまったソレイユ。
今までの表情を一変させ、瞬時に怒りの表情になりました。
「お前、今何と言った!この雑魚が!!」
普段決して見せることのない気迫だけで上位悪魔は地面に縫い付けられ、更なる圧力により徐々に四肢の骨が砕け始めています。
その力は周りの魔獣にも影響していますが、怒り心頭のソレイユには最早制御することができません。
あの上位悪魔を中心として、周辺にいる者達は息も絶え絶えの状態です。
これは少々まずいと思いましたが、アクトの気配を感じて行動に移すことはやめました。
主神である私が行くより、同格であるアクトが行った方が丸く収まる可能性が高いでしょう。
「ソレイユ、何をしているでござるか。主君の手足となる手駒を雑に扱うのは感心しないでござる」
アクトの気配を察知して、怒りを収めることに成功したソレイユ。
その瞬間、アクトが地面にへばりついている上位悪魔を瞬時に全回復させました。
勘違いされがちですが、<死神>アクトは、死を司ります。そして表裏一体である生も司っているので、回復などはお手の物なのです。
実はナタシアの<聖女>もアクトが与えた物だったりしますが、ここではあまり関係ありませんな。
「ごめんなさい。私としたことが取り乱してしまいました。そこの配下が我が主の事を侮辱した物ですから」
ソレイユの返事が終わるかどうかの瞬間で、上位悪魔は細切れになりました。
悲鳴すら出せない程の瞬殺です。
もちろんやったのは、いえ、殺ったのはアクトです。
これはとても良い仕事をした・・・と褒めざるを得ません。
「そうでござったか。それならば生きている価値はないでござる。かえって某が邪魔をしてしまい申し訳ないでござる」
「いえいえ、全く問題ありませんよ。それでは、ここにお集りの皆さん、良くお判りでしょうが敢えて言います。我が主キグスタ様は至高の主、全てにおいて優先されるお方です。そのお方に対して弓を引く者、悪く言う者、全て等しく罰します。決して許しませんのでそのつもりで」
被せるようにアクトも念を押しています。
「そうでござるな。某もソレイユに完全に同意するでござる。主君に仇なす者を討伐するのは某の役目。よく覚えておくでござるよ」
この中では最強を誇る上位悪魔を、歯牙にもかけず瞬殺した面々にここ迄言われて、反旗を翻すものなどいないのです。
私ヨハンを含め、全ての超常の者達は、恐れ多くも我が君に心酔しております。
決して世界の理から与えられたと思われるスキル<統べる者>による物だけではありません。
あのお人柄。あきらめない強い心。それを長きに渡り私達に自ら示してくださっているのです。
言い方は悪いですが、我が君の為になるならば、我らは仲間と認識している超常の者達ですら手にかける事を厭わないでしょう。
それほど我らは我が君に心酔しているのです。
落ち着きを取り戻したダンジョン最下層では、ソレイユとアクト、そして魔獣や悪魔達が撤退を始めました。
一部の魔獣は撤退の途中でカンザパーティーと戦闘となり、全滅させたようです。と言うよりも、カンザだけが逃亡し、残りのメンバーの連携が乱れてなす術なく魔獣の波に飲まれたのが真実です。
そのおかげ?か、カンザだけは最下層に辿り着いてしまい、そこに転がっている上位悪魔の一部を持ち帰っていました。
これが、今カンザと言うクズを最強足らしめている真実です。
その結果、カンザは我が君のパーティーに所属することになり、徐々に我が君の扱いが惨くなってきました。
我が君のパーティーに入ってきたのがカンザでなければ、全員に最上位のスキルを与えていたのですが、仲間を見捨てるような現実を見せられて、何やらきな臭い気配を感じ、一旦様子を見ることにしたのが正解でした。
その後、カンザは我が君のパーティーに加わり活動を始めたのですが、何やら巧みな話術とでも言うのでしょうか?フラウ、ホール、リルーナを許しがたい方向に導き始めました。
そう、我が君を見下し始めたのです。
決して許される行動ではありませんが、我が君はただ直向に自分を信じて鍛錬を行っております。
いつもと変わらぬ日常を送られているのです。
あまりにも変わらない我が君の行動を見て、我らの知識不足で何かの鍛錬の一環なのかもしれないと思い、放置してしまったのです。
ここは本当に悔やまれます。
もう少し人族の事を勉強する必要がある事を痛感させられました。
そして今、あのダンジョンの最下層付近の横穴にカンザ一行はおります。
今後の扱いは、その内にソレイユが我が君に相談するでしょう。
私としては、あのまま放置しておくのが丁度良い罰だと思います。
不敬にはなりますが、我が君は優し過ぎるのです。
ああいった連中は、与えた恩に仇で返すような下賤な者達です。
しかし、あのパーティーと今のパーティーを比べると雲泥の差ですな。
今の我が君のパーティーメンバーは、決して裏切らないと確信できますし、我が君に絶対の好意を寄せております。
私も恋愛と言うのでしょうか?この辺りの知識をつけるように他の超常の面々に言われておりますので、我が君をフォローしつつ勉強させて頂こうかと思っております。
それでは、少々長くなりましたが私ヨハンの昔話はこの辺りで・・・




