仲間の裏切り
まだまだ続きます。
そして、再度攻略を行う日になった。
ギルドに報告をした時点でギルドマスターを含む職員は大騒ぎになった。
と言っても、冒険者にはわからないように事務側だけでだが。しかし、担当の受付のお姉さんだけは落ち着いていた。仕事のできる人は違うな。
下級とはいえ悪魔がダンジョンのボスであり、俺以外の選抜メンバー全員の攻撃を受けてもダメージがなかったのだから焦るだろう。
俺はギルドに、こちらの攻撃が一切通じていなかったことを正直に報告している。
パーティーメンバーが一人でも報告の場にいれば、プライドの高いアイツらに邪魔されてこの報告はできなかっただろうから、その点だけはあいつらに感謝だ。
これで一般の冒険者の安全確保がしやすくなる。
ギルドから言葉を濁した状態ではあるが、注意喚起をしてくれるそうだ。
だが、俺のパーティーの考え方は全く違う。
「おい、荷物持ち!!来るのが遅いぞ。俺達がさっさとあの悪魔を討伐すればこの町の安全は確保されるんだ。そんなこともわからんのか?」
そう、あの状況を見ても討伐できると思っているらしいのだ。
珍しく自分で荷物を準備したのか、俺の分を除く四つの大きな荷物を地面に置いている。
俺も人数分の準備をしているので、余剰な荷物だ。
俺の荷物には各種ポーション、予備の武器、万が一の時用の少々の着替え、大量の食糧と水、そして野営に必要な薪、テント、毛布がある。
「これはわざわざ俺達が自分で準備した荷物だ。今回はお前が準備した荷物は俺達が持つから、お前はいつも通りこの荷物全部を持ってこい」
そう言って、俺の準備した荷物……なぜか俺の分も含めてリルーナが魔法で収納してしまった。
それができるなら、この荷物も収納しろよと言いたいが、もし言ってしまうと俺自身の仕事がなくなってしまうので言えない。
俺が準備した荷物よりも遥かに重い荷物を担いで、あいつらの後ろを早足で移動してついていく。
この部分だけは俺の得意分野なので遅れることは無い。
長い間荷物持ちとして培った力が如何なく発揮されている。
あいつらの舌打ちが聞こえて来るが、聞こえないふりだ。
このダンジョンは長丁場だ。途中に野営を含んで四泊ほどして最下層にたどり着く。
途中の野営では、なぜか俺の準備した荷物から食事等をだして、その時は俺の持っていた荷物はリルーナが邪魔になるから……と収納してしまった。
「あの荷物はいったいなんだ?相当な重量物だが……」
翌朝には最下層にたどり着くという最終野営地点で、俺は思わず聞いてしまった。
若干イライラした態度を隠そうともせずにフラウが答えてきた。
「あの荷物は、あの下級悪魔を討伐するための秘策よ。あんたが無駄にゆっくりしている時に必死で集めたのよ」
何も俺だってゆっくりしていた訳ではないが、黙って頷いておく。
「今回は帰還の魔道具を準備する時間がなかったが、勝算があるということでいいのか?」
「そうよ、そのためのあの荷物よ」
不機嫌そうにそう言うと、フラウはその場から離れて行ってしまった。
そして、翌朝全ての野営道具を片付けるとリルーナが荷物を入れ替える。
秘策と言うべき道具が入っているであろう、とてつもない重量の荷物を背負い、彼らの後について行く。
やがて、ボス部屋の入口前までやってきた。
扉はいつでも来い……と言わんばかりに空いている。
いや、どのボス部屋も誰かが戦闘中でない限り空いているんだけどね……
入口前で立ち止まった俺の先を歩いているパーティー一行。
この時点で中を覗いても、ボスを視認することはできない。
中の状況……例えばどんな場所なのか程度は視認できるが、ボスは対戦相手が中に入って、扉が閉まらないと出てこないのが一般的だ。
<槍聖>のスキルを持つカンザが俺達に作戦を説明する。
「良いかキグスタ、お前に持たせた荷物はリルーナしか発動することができない大魔術の補助材料だ。彼女でさえもその材料がないと大魔術を起動することができない。なので、まずはお前が先行して中に入り、中の壁際になるべく均等に設置しろ。お前の唯一得意な荷物持ちとして活躍できる場所だ」
「そうよ、カンザがここまでしてくれるなんてめったにないんだから。お父さん、お母さんにも恥をかかせないでちょうだい」
明らかにカンザと良い関係にある血の繋がっていない妹であるフラウがダメ押ししてくる。
なぜここで両親が出て来るかはよくわからない。
<拳聖>を持つホールと相思相愛の<魔聖>を持つリルーナも、ゴミでも見るような目でこちらを見て、
「唯一のスキルの使い道だ。せいぜい俺達の役に立って見せろよ」
「そうですよ。今まで本当のお荷物の世話をしてきたのですから、その恩に報いて下さい」
どうせ俺はこのパーティーではいろんな意味で一人ぼっちだ。
俺は荷物を背負ったまま入口を潜って、あの下級悪魔が顕現する前に、言われた通りに荷物を均等に設置して入口に戻ってきた。
「言われた通りに設置したぞカンザ。リルーナ、術の起動をしてくれ」
そう言うが、一向にこの部屋に入ろうとしないパーティー一行。
むしろそれぞれのペアが観劇を楽しむかのようにこちらを下品な笑顔で見つめている。
カンザの腕にしなだれかかるようにしながらフラウはこう言い放った。