お転婆王女、キグスタと共にナルバ村に行く
お読みいただきありがとうございます
ようやく落ち着いたナタシア。
彼女の愛馬と共にナルバ村に転移する。
「本当にあっという間に着くんですね」
ヨハン達と<統べる者>については、ほんの少しだけ説明をしておいた。
彼女も疲れているだろうから、早く眠りについて明日詳しく説明しようと思ったのだ。
だが、ここで問題が発生した。
そう、既に気が付いているだろ?俺の部屋には布団が一つしかない。
当然こんな辺境の村には宿泊できる所などあるわけはなく、父さん母さんも夢の中。
もちろん起きていたとしても布団は無い。
おろおろしていると、さっき獣神のソレイユから訳の分からん小言を受けていたヨハンが、アドバイスをくれた。
「我が君、もし宜しければここに城を建設致しましょうか?ご安心ください。一切の音や振動を出さずに瞬間に建設可能です。もちろん寝室は一つにしておきます故これか……モガガ」
ふざけた事を言っている途中に、ソレイユから口を塞がれていた。
良くやったソレイユ。
だが、どうするか……
「我が主、我らであれば我が主のお部屋に異空間を作成することが可能です。そちらでお休み頂ければよろしいのではないでしょうか?」
流石はソレイユだ。全く、なんちゃって執事のヨハンとは違うな。
なんというか、ヨハンは恋愛系統の話になると、一気にポンコツになることが今分かった。
他は今の所完璧なんだがな……
ソレイユに頼み、俺の部屋に異空間……と言っても空間が閉じているわけではなく、簡単に行き来できてしまう状態だが、作成してもらった。
その中に上質の布団も準備されており、ナタシアにはそこで休んでもらうことにした。
ナタシアの愛馬はかなりおとなしく、もちろんソレイユの力もあってか一切嘶くこともなく、おとなしく家の近くで寛いでいる。
本当に今日は最後まで疲れた。
細かい事……例えば父さん母さんがギルドで継続して取引ができるか、ナタシアの今後はどうするか、確認や考えなくてはいけない事が沢山ある気がするが、とりあえず今日は寝るとしよう。
そして翌朝……父さんと母さんにナタシアを紹介する。
長きに渡り冒険者をしてきた父さんと母さん。もちろん王都に訪れたこともあり、幼い頃のナタシアは見た事があるらしい。
母さんはいつもの通り、あら~、まあ~……みたいな感じだったが、父さんは色々思うところがあったのか、かなりの緊張を見せていた。
それはそうだ。何の前触れもなく王族から離脱すると宣言したナタシア。
国王がそれを許すかどうかは別として、すでにナタシア本人は王族ではないと思っている。
この辺りも、カンザ一行が来た時には揉め事の一つになるかもしれない。
当のナタシアは俺と共に行動するため、冒険者登録をした。
もちろんソレッド王国では登録などできるわけがないので、俺と同じく隣国であるアルバ帝国の冒険者ギルドで登録をしている。
当然登録には同行した。俺達の緊張をよそに、ギルドでの作業は何の問題もなく進行し、拍子抜けするほどだった。
そして再び俺の部屋。
「キグスタ様、私、自分の部屋に王都を暫く留守にするとは手紙で書いていたのですが、王族離脱については書いておりません。なので、今一度私の決意を書き記した手紙を届けたいのですが」
「ああ、問題ないよ。だけどカンザ達が来た時にナタシアがここにいるとバレると厄介じゃないか?」
「そうなんです。あの方は私の事を値踏みするような目で見るので、少々苦手なのです」
そう言った問題ではないのだが……どうするか。
とりあえず異空間に隠れてもらえればいいか?
とそんな話をしつつ、出来上がった手紙をあの愚王の部屋に置いてきてもらった。
もちろんヨハンは一瞬で仕事を終えて帰還している。
そしてその後、王都はハチの巣をつついたような大騒ぎになり、大々的な捜索願いが国内のあらゆる箇所に告知された。
もちろん冒険者ギルドにもだ。
「あの愚王にしては……あ、スマン。ナタシアの父さんだったな」
「いいえ、私も同じ事を思っておりましたので問題ありません。キグスタ様のおっしゃる通りです」
とはいえ、一応血のつながっている父なのだから控えめに言っておいた方が良いだろうな。
「えっと、あの国王、ナタシアの事になると仕事が早いな。どれほど溺愛しているんだ」
「でも、それならばキグスタ様の一件の時、私の意見を聞いて頂ければよかったんです」
キュッっと握った拳が可愛らしい。
少し緊張感のある日常。
そんなある日、父さんと母さんがギルドから戻ってきた。
「キグスタ、どうやら父さんと母さんはこの村のギルドとの取引は停止されたみたいだ」
「本当にどうしちゃったのかしらね、この国は」
危惧していたことが起きた。
きっとギルドには、父さんと母さんが虹金貨10枚を払わなければ奴隷になる……つまり、奴隷確定だと判断したんだろう。
「お待ちください。その件につきましては私の方で決着をつけさせていただきたいと思っております。これをどうぞ」
ナタシアが思い出したように小袋を差し出してきた。
父さんと母さんは不思議そうにその中身を見ると……見た事もないような硬貨が10枚入っていた。
「これは私個人の資産です。私の身内が行ってしまった愚行の償いですので、どうかこれでお支払いください」
どうやらこれが虹金貨らしい。
一生遊んでもお釣りがくる価値らしい……と言うのも、あまりにも高額過ぎてイメージができないのだ。
当然父さんと母さんはその袋をナタシアに返す。
「ナタシアちゃん、そんな事はしなくても良いのよ。私達は何も悪い事はしていない。そして当然ナタシアちゃんも何も悪い事はしていない。それなのにそんな大金を支払うなんて駄目よ」
「そうだぞ。ナタシアさ……ナタシアちゃん。俺達にかかった火の粉は自分で掃うさ」
不安そうなナタシアは、中々袋を受け取ろうとしない。
「それじゃあ……これは二人のご祝儀と言う事でどうかしら??」
「お~、それは良い案だな母さん。ぜひそうしてくれ。それなら受け取ってくれるだろ?」
「そ、そんな。えっと、はい。ありがとうございます」
ボンッ……と音が聞こえそうなほど一気に赤くなった顔で袋を受け取るナタシア。
そして俺の方に来て嬉しそうに微笑んだ。
クッソ、可愛すぎる。
だがヨハン、そのにやけ面はやめろ!!
「ではお二方が得た魔獣や魔石に関しては、私が責任を持ってアルバ帝国で捌いてまいります」
「でもヨハン、帝国に存在しない魔獣や魔石もあったらどうするんだ?」
「一商人として捌きますので問題ございません」
う~ん、魔石は良いが、魔獣に関しては素材の劣化状態とかもあるだろうが……ヨハンが大丈夫と言うんだから問題ないんだろう。
「じゃあお願いしようかしら。ヨハンさん、申し訳ありませんがよろしくお願いします」
「承知いたしました」
母さんがあっさりとヨハンの案を受け入れたので、ヨハンは早速今日の戦果を魔法で収納して捌きに向かった。
帝国に行くのは一瞬なのだが、捌くのはそこそこの時間が必要だったようで、数時間後にヨハンは戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらが今回の報酬額になります」
そう言って、金貨三枚と銀貨5枚を差し出した。
「ありがとうございました。随分と高額で買い取って頂けたんですね」
「帝国にとっては珍しい魔獣の素材だったようです」
<統べる者>により、ヨハンの感情が少しだけ流れてきた。
これは、ウソがばれないようにしている感情だ。
とすると、道中適当な魔獣を狩って、報酬が多くなるようにしたに違いない。
だが、ありがたい行動なので何も言わずに心の中でお礼を言っておく。
ブクマ・評価頂けると嬉しいです。
伝説の剣を使い、腐った王国を立て直す。異母兄よ、国王よ、そして防壁に守られている貴族の連中よ、最早お前達は赤の他人だ。自分の身は自分で守れよ!!
https://ncode.syosetu.com/n7913gs/
もよろしくお願いいたします。




