お転婆王女、想いを伝える
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かなり夜も更けたので、俺は寝ることにした。
今日は冒険者登録をして、ようやく新しい生活のスタートラインに立つことができた喜びで、中々眠くならなかったが、そろそろ寝ようと思う。
ゆっくりと横になった時、
「我が君、このような時に申し訳ございません。少しだけよろしいでしょうか?」
ヨハンが現れて何か言いたそうにしている。
「大丈夫だ。まだ寝てないからな」
「恐れ入ります。実はご報告がございます。あのナタシア王女ですが、我が君に会うため……と、御両親をお助けするために王城を抜け出してこのナルバ村に単身で向かっております」
「ふぇ?今、この時に一人でこっちに来てるってこと?」
「その通りでございます」
え?それはかなり危険じゃないのか??確か王都を出ると鬱蒼とした林、そしてしばらく進むと日の光が当たらない程の森になったはずだ。
「まずいじゃないか!!すぐに迎えに?いや助けに?すぐに向かわないと!!」
「我が君、どうか落ち着いてください。ナタシア王女の安全は確保しております。ですが、迎えに行かれるのでしたら私も同行させていただきますが……いかがいたしますか?」
どうやら先手を打って彼女の安全を確保してくれていたようだ。
だが、ナタシア王女はどうしてここまで俺達の為に色々してくれるんだ?
はっきり言ってこの行動がバレたらいくら王族でも反逆罪、そして俺達にも誘拐とか訳の分からない罪状が付くことは間違いない。
一先ず彼女が安全であると分かったので、少しは落ち着いた。
「ヨハン、それじゃあお願いするよ。だが、驚かせないようにしないといけないな。前回のように手紙は使えないし……突然目の前に現れるわけにはいかないし、どうするか……」
「では、今ナタシア王女の安全を確保している獣神のソレイユに任せるのはいかがでしょうか?」
獣神のソレイユと言えば奇麗な言葉を使う女性の神で、その名の通りテイムや召喚系統のスキルを人族に与えていたようだ。
「えっと、どうやって俺達が近くに行くことを伝えるんだ?」
「ナタシア王女が乗っている馬に伝達を頼みましょう。ソレイユ!」
当然、ヨハンが言い終わるかどうかのタイミングで現れるソレイユ。
「お待たせいたしました我が主。事情は把握しております。私にお任せください」
「なるべく驚かせないように頼むよ。だが、俺達が転移できるとなると……普通はそんな事をできる人はいないから、<統べる者>について少し説明しなくてはならないか……」
「我が君、僭越ながら申し上げます。ナタシア王女は我が君に絶対の信頼を寄せております。老婆心ながら、我が君の秘密を漏らすようなお人ではない……と愚考いたします」
超常の存在の頂点であるヨハンがここまで断言するのだから、問題ないのだろう。
それはそうかもしれない。反逆罪……つまり死刑になるリスクを負ってまで俺達を助けに来てくれているんだ。
道中の安全も完全無視している程……これだけの行動を見せられて信頼しない訳にはいかない。
恩には恩と信頼で応える必要があるな。
「わかった。じゃあソレイユ、お願いするよ」
「承知いたしました。少々お待ちください」
ソレイユは、馬の速度を徐々に落として万が一がない様にし、馬の口から情報を伝達するらしい。
少しは驚くかもしれないが、これ位は仕方がないだろう。
「お待たせいたしました。流石はナタシア王女です。少々驚かれておりましたが、取り乱すこともせずに堂々としておりましたよ」
もう終わったらしい。
ヨハンと共にナタシア王女がいる位置まで転移する。
一瞬で景色が変わると、目の前には馬から降りているナタシア王女がいる。
「ナタシア王女!こんな危険な事を!!」
思わず走り寄って説教じみた事を言ってしまった。
これこそ不敬罪だが、そんな事をかまっている場合ではない。
「申し訳ありませんキグスタ様。ですが、私は我慢できなかったのです。あのパーティーの行い、そしてお父様の決断、全てが間違っています。それに私は決意しました。一度キグスタ様を失ったと思ったあの時、後悔しないように生きることを改めて決心したのです」
どんどん気迫が増してくるナタシア王女。
気迫に押されて驚き、ヨハンに助けを求めるべく視線を送ると、何やら温かい目で見守られている。
なんというか、孫を見るお爺ちゃん的な……
「キグスタ様!」
「ファイ!はい!」
焦る俺。俺の視界の片隅で、ヨハンが”やれやれ”みたいな仕草をしている。
くっそ、しょうがないだろうが……
「私ナタシアは、キグスタ様をお慕いしております。あの晩、キグスタ様にこの気持ちをお伝え出来ないまま二度とお逢いすることができないと悲しみに暮れておりました。ですが、神は私に再びチャンスを与えてくださったのです。もう私は後悔したくないのです」
ナタシア王女、貴方の言う神はあっちで”やれやれ”みたいな仕草をしている人ですよ。
でも、あの人は常に俺の傍にいたので、別段あなたにチャンスをあげた訳ではないですよ。
とは言えない。
「でも、身分も違いますし……」
思わず一般的な受け答えをしてしまった。
「身分なんて関係ありません。それに身分が合わないと言うのでしたら、私は王族を離脱します!ええそうです。今この時を持って私はただのナタシアになりました。それで……キグスタ様は……私の事を……その、えっと、」
凄まじい決意だが、後半は尻すぼみになってきて耳まで真っ赤のナタシア王女。
だが、俺も男だ。ここはバシッと決めてやる。
フラウにあのような仕打ちを受けてから、女性と言うよりも人が信用できなくなったが、ここまでしてくれる人を好まないなんて奴はいないだろう。
こうなる前も、度々ナタシア王女は俺にこっそり差し入れをくれたり、励ましてくれたりしていたんだ。
「ナタシア王女!お・・「ナタシアです」」
いきなり出鼻をくじかれた。
だが、まだまだだ。
そうだ、王族でなくなったと宣言していたな。宣言だけでそうなるのかはわからないが、ナタシア王女……いやナタシアの気持ちに応えるのが男だ。
「な、ナタシア?俺もいつも励ましてくれていた君が傍にいてくれると本当に嬉しい」
クッソ、視界の片隅のヨハンが今度は”ふ~、ダメですな”みたいな仕草をしていやがる。
仕方がないだろう。雲の上の人にいきなりこんなことを言われたんだ。
ただの村民に高いレベルを要求するな!!
「キグスタ様。ありがとうございます。これからずっと一緒にいさせて頂いてもよろしいですか?」
「うぁあ、ああ、もちろんで、もちろんだ。よろしくなナタシア」
少し涙目で抱き着いてくるナタシア。
俺は優しく彼女の髪を撫でてやる。
ヨハンは視界から消えており、気を利かせてくれたらしい。
だが、余計だ!こんな鬱蒼とした森の中、しかも暗闇では何の力も持たない俺が一人とナタシア一人だと不安になるだろ!!
そんな気持ちが伝わったのか、ヨハンだけではなくこの辺りの魔獣を制御しているソレイユも現れた。
ヨハンはソレイユから少々小言を言われているようだ。
「ヨハン様!もう少し気の利いたアドバイスをしなくては我が主は奥手なのですから!!」
「む、そうですな。これは反省せねばなりません」
小言の内容がかなりおかしいが、今はナタシアを宥めるのが最優先だ。
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伝説の剣を使い、腐った王国を立て直す。異母兄よ、国王よ、そして防壁に守られている貴族の連中よ、最早お前達は赤の他人だ。自分の身は自分で守れよ!!
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