ナタシア王女の決断
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キグスタがあっという間に冒険者登録をアルバ帝国で行っていた頃、ソレッド王国の王城にあるナタシアの私室では、彼女の弟であるドレッドが、<剣聖>を持っているフラウについて質問攻めをしていた。
ドレッドはフラウに憧れており、王城に来たのに会えなかったことを不満に思っているのだ。
そんなドレッドの相手を終えると、ナタシアは行動をおこすことにした。
そう、キグスタとその両親を救うために。
彼女が王女と言う立場にも拘わらず、なぜこれほどキグスタに肩入れをするのか……
それは、キグスタ一行が王都に招集された三年前に遡る。
上位スキルを持っていると判明した国民は、強制的に王都に招集され、厳しい訓練を受けたのちに選抜メンバーとして魔獣討伐の旅に出る。
だが、ここ暫くの選抜メンバーは訳が違う。
国宝としている聖武具が全て光り輝いたからだ。
つまり、魔獣の討伐ではなく、魔族の王……魔神か魔王かはわからないが、桁の違う強さを持つ者を討伐しなくてはならなくなった。
もちろん聖武具はソレッド王国以外にも保管されており、全ての国の聖武具が輝いたことは情報共有されている。
そんな緊迫し始めた状況の中、いつもの上位スキル持ちが、とある辺境の村から王都に到着した。
その中で一際目立ったのがキグスタだった。
そう、キグスタは<統べる者>と言う不思議なスキルを所持し、肩には小さいスライムを乗せている。
そのスライムも愛らしく、一目でナタシアの記憶に残ったのだ。
だが、暫く調査をすると、<統べる者>はスライムをテイムできる……いや、それしかできないスキルであると判明した。
事実は異なるが、これが共通認識になっているのだ。
そのような事実が判明し、期待の目を向けられていたキグスタは一気に侮蔑の目に晒されるようになった。
だが、キグスタは選抜メンバーに課せられた鍛錬をこなすと共に、日課であろう自らに課した鍛錬を欠かすことがなかったのだ。
その中には、魔法を発動させようとする鍛錬もあった。
残念ながら発動させることはできていなかったが、ただ直向に自分と向かい合って必死で繰り返していたのだ。
今までの選抜メンバーは課された鍛錬を行うだけで、その後は遊びまわるか休息を取る行動しかとらなかった。
しかし、キグスタだけは違ったのだ。
きっかけは不思議なスキルと肩に乗せていた愛らしいスライムだが、キグスタの人柄を知ったナタシアは、キグスタから目が離せなくなっていたのだ。
そう、所謂恋心だ。
本人もそれは理解しているようで、キグスタの傍にフラウが寄り添っている所を見て自制していた。
だが、そのパーティーに<槍聖>を持つカンザと言う者が加わってから、徐々にキグスタへの扱いが悪くなってきた。
もちろん今までも<統べる者>についてバカにされて良い扱いは受けていなかったのだが、<剣聖>であるフラウとパーティーメンバーであるホールとリルーナが封殺していた。
しかし、フラウもカンザと共にキグスタを見下すようになり、同じようにパーティーメンバーであるはずのリルーナとホールも同調したのだ。
どこにも味方がいなくなったキグスタは、それでも鍛錬を欠かすことは無かった。
フラウとの関係を気にしていたナタシアだったが、フラウのキグスタに対する態度を確認すると、自分の心の蓋を開けることを決意した。
だが、そう簡単に打ち明けられないのが乙女心……
もちろん立場の違いもある。
片や王女。片や選抜メンバーとは言え、落ちこぼれの烙印が押されている村民。
今日こそは、今日こそは……と思って日が経つうちに、なんとキグスタ一行のパーティーがキグスタだけを除いてギルドに帰還したと報告が来たのだ。
慌てて詳しく確認すると、キグスタが乱心したと言う。
しかも聖武具や秘蔵の魔道具まで持ち逃げしたような、そんな言い方だ。
実際に謁見の間で報告をしてきたカンザと、他の面々も同じような事を言っていた。
ナタシアは信じることができなかった。
あれだけの扱いを受けても心折れることなく厳しい鍛錬ができるような人が、そんな事をする訳がない……と。
それに、報告をしている時のカンザは、ナタシアを獲物を見るような目で見てきており、ナタシアを不快にさせていた。
だが、最終的にナタシアの父である国王が下した決断は、無くなった聖武具の補償として虹金貨10枚を支払う事ができなければ、キグスタの両親を奴隷に落とすと言う事だったのだ。
到底認めることはできずに、自分の付き人になることを進言したナタシアであったが、国王に拒絶されてしまう。
自分の力のなさを呪いながら自室に戻ると、あれ程恋焦がれていた人がいなくなってしまった現実が押し寄せて、涙が出そうになっていた。
何とか堪えて、今の気持ちを書き留めておこうと机に向かうナタシア。
そこに見た事もない手紙がおいてあり、開封すると……衝撃の事実が書き綴られていた。
そして、キグスタが目の前に現れたのだ。
地獄から天国とはこのことか……と思いながらもキグスタとその両親の扱いについて説明をするナタシア。
だが、キグスタは驚くでもなく、全く問題ないと話してくれた。
それでも不安を拭えないナタシアは、ある決意をしていた。
そう、キグスタの両親を助ける決心だ。
夜も更け、ナタシアは自室のドアの外にいる護衛にお手製の飲み物を渡す。
騎士達は護衛中だからと固辞するが、ナタシアが再度勧めると飲み物を飲み干した。
当然その飲み物には睡眠薬が入っており、すっかり寝入った護衛二人を自室ではなく隣の部屋に運んだナタシアは、ドレスから動きやすい服装に着替えたうえで、机の上に準備しておいた小袋を腰に下げて王城から脱出した。
見張りの騎士を自室に入れなかったのは、今後騎士達が罰を受けないように配慮したのだ。
万が一にも王女の自室で近衛騎士が寝ていた……そして護衛対象である王女は失踪。
こんな状況だと、騎士に事情を説明する隙すら与えずに重い罰が下るのは間違いない。
だが、別の部屋であれば何かしらの襲撃による物……等が考えられるので、問答無用で罰が下ることは無いと考えたのだ。
それは正しい。
ナタシアは、国王へ向けての手紙も書いていた。
本当の事は書いていないが、暫く自らの意思で王都を出る……と。
そして王城を抜け出したナタシアは、王族のみが知る秘密の抜け道を使って王都から出ると、ナルバ村を目指した。
今は夜も更け、ナルバ村までは相当な距離がある。
いくら上等な馬に乗っているとは言え、いつ魔獣に襲われるかわからないのだ……
超常の者達は、ある意味お転婆なナタシアの行動は把握している。
そして、ナタシアがキグスタに対してとても良い思いを抱いていることも理解しているのだ。
当然そんなナタシアに対する超常の者達の評価は高い。何せキグスタを高く評価しているからだ。
些細な事はキグスタの耳に入れる必要はないが、あの王女の事となると話は別だ。
キグスタの命令を待たずに、獣神であるソレイユがナタシアが移動している付近の魔獣を制御して、進行の妨げにならないようにしている。
もちろんナタシアを襲うなどと言う魔獣はいない。
ナタシアが超常の者達に気に入られていなかったら……つまり、キグスタに対する想いが悪い感情であったら……あっという間に魔獣の餌になっていたことは間違いない。
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伝説の剣を使い、腐った王国を立て直す。異母兄よ、国王よ、そして防壁に守られている貴族の連中よ、最早お前達は赤の他人だ。自分の身は自分で守れよ!!
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