カンザ一行、王都に到着する
まだ続きます。
ここでは、厳しい修行の思い出しかないので、フラフラ歩くだけでも色々と当時には見えなかったものが見えてくる。
住民の状態、家の状態、何が売られているか、何を売っているか、意外に見ているだけで楽しむことができた。
楽しい時間は過ぎるのが早いもんで、あっという間にあいつらが到着したと言う報告が上がってきた。
休憩もとらずに即王城に行くようで、気配を消して貰った俺と普通に存在を消せるヨハンと共にあいつらの後ろをついて行く。
「くっそ、王都に戻るだけでなんでこんなに苦労しなくちゃならないんだ」
「本当よね、不思議な雨、風、馬車も壊れるし散々だったわね」
「それもこれもキグスタのせいだ」
「兄がごめんね。でももうこの世にいないから許してね?」
フラウ、カンザ、リルーナ、ホールは言いたい放題だ。
だが、最後のフラウのセリフで何故か和やかな雰囲気になった。
仲間が死んだ話で穏やかな雰囲気になるなんてどんだけクソっぷりを発揮してるんだ。
あいつらは穏やかな状態で謁見の間にたどり着いた。
選抜メンバー最強と謡われているだけあって、即謁見できるようだ。
中に入ると、玉座には国王陛下。その脇には宰相などの国の重鎮。
そして、後ろには屈強な近衛騎士や明らかに魔術を使うであろう魔術師が控えている。
あの玉座、俺が準備してもらった玉座と比べるとゴミみたいだな。
なんてことを思って見ていると、横には王女が佇んでおり、怪訝そうな顔でカンザ一行を見ている。
あの王女だけは俺に対して見下すこともなく普通に、いや、優しく接してくれていたな。
「良く戻った、と言いたいところだが、大事になったようだな。まさかあのキグスタが乱心するなどとはな」
やはりギルドのネットワークで情報は既に得ているようだ。真っ赤な嘘の情報だが。
「その通りでございます。このカンザ一生の不覚でした。まさか聖武具まで持って行ってしまうなどとは思いもしませんでした」
「フム、そこが問題よ。聖武具にも限りがある。今後の魔王か魔神かはわからぬが、討伐するために必要な武器になる。その方だけではなく他の選抜メンバーにも武具を配備しなくてはならいのだ」
ヨハンが聖武具についての情報を教えてくれた。
何かのスキルを使っているのだろうか、所謂<念話>のような形で直接脳に聞こえたので、声は外には一切漏れていない。
『我が君、アクトによれば大した量の玩具を作ったわけではないようです』
まったく、真実を知らないととてつもなく滑稽だ。
神が与えたスキルで、神が遊びで作った玩具で、その神を討伐しようとしているのだからな。
だが、俺はもう余計なことは言わない。特にこいつらにはな。
今まで俺の進言は、激しい暴力と共に否定され続けてきたからな。
そんな玩具を貰えないかもしれないと思っているカンザは焦っている。
「しかし国王陛下、我らは魔神討伐に最も近い選抜メンバーです。我らに力を集めないと目的を完遂することは難しいのではないでしょうか?」
「確かにその方の言う事も尤もだ。宰相よ今一度彼らに聖武具を準備しろ」
一礼すると宰相は玩具を取りに行ったのだろう、この場を後にした。
「して、キグスタはなぜそのような状態になったのかわかるのか?最下層には下級の悪魔がいたと聞いているが」
「はい、そもそもキグスタのスキルはご存じの通りスライムを扱うだけの、<統べる者>です。その為一切戦力にもならない為、我らはキグスタを守りながらのダンジョン攻略を行っておりました。そんな状況を彼自身が負担に思っていたのでしょう。そこにあの悪魔の存在です。キグスタの心が壊れる状況が揃っていたと言う事でしょう」
「フム、その方達は問題ないのか?」
「キグスタとは異なり、上位スキルを持っていますし普段から鍛え続けていますので全く問題ありません」
良く言う。準備は全て俺。荷物も全て俺。こいつらはダンジョン攻略が終わるとすぐに飲み食い。
俺は自分を鍛えるために何とか時間を作って日課の鍛錬を続けているが、こいつらが鍛錬している所は見た事がない。
「そうか、それならば問題ないだろう。流石は最強と言われている選抜メンバーだ。しかし、聖武具の損失は重大問題だ。新たな聖武具を与えるにしても、何の処罰も無しと言うわけにはいかんな。どうするか……」
「それならば、ナルバ村にキグスタの両親が存命です。そうだろフラウ?」
既に赤の他人以下になり下がった女が口を開く。
「はい。王都に帰還する途中でこの状況をキグスタの両親に説明してきました。二人共キグスタの行った行動に驚くと共に、責任を感じていたようです」
こいつらは、アクトから得られた情報によれば父さん母さんは庇うような事を言っていたらしいが、現実はこんなもんだ。
「ならば、その両親に損害を賠償してもらう必要があるだろう。その方らの話を聞く限り、パーティーに貢献どころか悪影響を与えていたようだからな」
怒りで拳が震えるほど握ってしまう。
しかし、スライムの防御によってか痛みはないし血も出ることは無かった。
そこに、今まで一切口を開かなかった王女が俺を庇ってくれたのだ。
既に死亡していると報告されているこの俺の事を……
「お待ちくださいお父様。キグスタ様は私が知る限り毎朝厳しい鍛錬を自らに課しておりました。そんなお方が簡単に心を折られるわけはありません」
「だが、聖武具がなくなっていること、そしてキグスタが死亡してこの場におらんことが全てだ」
「そ、それは……そんなはずはありません。キグスタ様がそう簡単にお亡くなりになる訳がありません」
「王女殿下、少々贔屓が過ぎますな。常に共に行動していた私たちが無能と判断しているのです。毎朝鍛錬をするだけでそれ程の評価を得られるのでしたら、私などは既に大英雄になっておりますぞ」
カンザが大げさに手を広げて王女を否定する。
「もうよい、ナタシア控えよ」
国王に言われては黙るしかない王女。
目に涙を浮かべて黙ってしまったが、その目は厳しくカンザを見つめていた。
だが、当のカンザはそんな目で見られても一切気にしていない。
それはそうだ。平気で仲間を殺害するようなやつに、普段とても穏やかな王女の厳しい目など痛くもかゆくもないだろう。
「では、キグスタの両親には賠償を命じ、その方らには新たな聖武具を与えよう」
「「「「ありがたき幸せ!!」」」」
俺はこの茶番劇の最中に姿を現すことはやめた。
何を言っても信じてもらえないと思ったからだ。
むしろ状況は悪化する可能性が高いだろう。口ではカンザにはかなわない。
それでも、あの心優しいナタシア様には俺の無事を伝えたい。
俺は、不敬になってしまうがナタシア様の部屋に行くことに決めた。
あの方にはどこまで話せばいいだろうか……
少なくともカンザ一行の真実は話すが、<統べる者>の全てを話すわけにはいかない。
そこまで全て信頼できる状況ではないのだ。




