執事のヨハン(2)
まだまだ続きます。
ですが、クズスキルと言われている<統べる者>を持っている我らの主人でも、力を付与した武器を渡しておけば、スキルとは異なり付与した力に応じた力を得ることができているようです。
今回、アクトが武具を渡したことによって、主となる人物の力を上げる方法が見つかったのでした。
このまま主との幸せな時間を過ごすことができると思い見ていたのですが、人族はアクトの強大な力を感知しており、またもや討伐隊が組まれたのです。
実は、私は分身体に力をかなり制御して使うように指令を出していましたので、一か月程戦った末に相打ちと言う結果になりました。
その時の経験から、人族は規格外の存在が顕現した場合には魔王または魔神として討伐対象にしたようなのです。
一応我らは神なのですがね。
同じような状況になったと把握したアクトは、以前私が話をしておいた通り、しつこい人族との直接の戦いを避け、最初から分身体を目立つように行動させて彼らに対峙させました。
長きに渡って戦わせておき、自分は分身体とは真逆の位置で主と至福の時間を過ごす。
完璧な作戦です。
こうしてアクトも充実した時間を主と過ごすことができて、現在に至るのです。
そう、現在。
最初私は、いえ、私たちは驚きました。
なんと、あの異空間にいる全員がこの世界に顕現させられていたからです。
一瞬この星が破壊されないか心配になりましたが、きちんと<統べる者>の配下にあるようで、力は制御されています。
これほどの力を持つ新たな主との出会いに、心が震えてしまいました。
ですが、今回の主……いえ、ここまで強大な力をお持ちなので我が君は、今までに我らを従えたことがある主と異なり、ご両親がいらっしゃる。
突然訪問したりしては驚かれるでしょう。
暫くは影から見守ることにしたのです。
この主は、<統べる者>を持っているせいで他の者達よりも中々強くなることができません。
我ら全員がこの世界に顕現し異空間に誰もいない状態でも、スキルはある程度自動で与えるようにしているので、ある程度の年齢になると、人族はスキルの力で突然強くなり始めるので、我が君との力の差が大きくなってしまいます。
まあ、与えるスキルが戦闘向けのスキルではない場合もありますが……
ですが、今回は全員がこの世界に顕現できています。
つまり、最強の状態であるわけなので、場合によっては我が君に我らのスキルをお使い頂くことができるかもしれないと考えて実行しましたが、結果は変わらずでした。
少々落ち込みましたが、次の手を打ちましょう。
直接我らが主をお守りするのではなく、今まで我ら誰一人として顕現させることができない力の<統べる者>と同じように、スライムを眷属とさせることにしたのです。
もちろんこのスライムには我らの全力のスキル付与を行っています。
本気を出せば、ドラゴンも瞬殺できるでしょう。
偶然を装い我が君の前に出現させ、有無をも言わさずに懐に飛び込むスライム。
この世界のスライムは最弱の魔獣であり、子供でも倒せると認知されておりますので、懐に飛び込まれても我が君は微動だにせず受け止めております。
これで作戦はほぼ成功したと言ってもいいでしょう。
案の定、我が君はスライムを見捨てることはせずに、そのまま眷属として傍に置くことにしたようです。
このスライム、我が君の肩を定位置にしております。
肩にいる時には、普段の頭程度の大きさではなく拳よりも小さい大きさになっていますが、実は大きさが変わっているのではなく、小さくなった分の本体は我が君の体を覆っているのです。
これで、物理・魔法共に最大の防御を誇ることができます。
ですが、ご入浴中にも絶対の防御力を誇ってしまうため、スライムによる防御は解除して、近くに控えるようにさせているのです。
先ずは一安心して、我が主の生活を近くで見守らせていただきます。
我が君は、自分の力が他の人族と比べて明らかに劣っていることを分かっており、それでも必死にまだ日が昇る前から一人で素振りや走り込みをされているのです。
スライムの力を使えば、人族ではありえない程の強さを誇ることができるのですが、我が主は自分の力を必死で伸ばそうとされております。
その美しくも強いお心を邪魔するわけにはいきません。
スライムには魔法防御はさせていますが、物理防御は緊急事態時のみ、そして我が君の力を無駄に底上げしないように指示を出しています。
我が君の鍛錬の邪魔をさせないようにしたのです。
雨の日も、風の日も、雪の日もです。
これを見た我らは、自らのスキルを与えることができない不甲斐なさに涙しました。
ここで我らが我が君の前に顕現し、スライムによる力の底上げ、そして全力で作った武具をお渡しすれば最強になれるでしょう。
ですが、我が君は必死で努力されているのです。
簡単にその努力を無にするような事をするわけにはまいりません。
我らも必死で我が君の前に顕現する事を耐え続けました。
どんな日でも、どんな時でも強くなろうとするその姿勢に心打たれたのです。
<統べる者>の配下でなくとも、我が君についていこうと思わせるほどのお方です。
そして迎えた神託の儀。
我が君は既にスキルを与えることにしている上限の10歳を過ぎています。
せめて少しでも我が君のお力になれるように……と、我が君と特に仲の良い三人には、特別に上位スキルを与えるように調整しました。
<剣聖>、<魔聖>、<拳聖>です。
当然神託の儀で、上位スキルを持っていると判明します。
この三人であれば、我が君の力になってくれると信じて上位スキルを渡したのです。
最上位スキルを与えることも考えましたが、以前私とアクトが最上位スキルにまで進化させた人族にしつこく追い回された記憶があるので、あまりにも安易に与えることは控えることにしました。
ですが、ハルムがリルーナと言う<魔聖>を与えた者に、更に<精霊術>を後日与えていました。
精霊との親和がある程度必要になるのですが、素質があったらしいのです。
周りの友人が上位スキルを得た事を知った我が君。本心はわかりませんが、友人の得たスキルに喜んでおりました。
その後我が君はその友人と共に王都に向かい、魔獣や魔族・魔王の討伐隊である選抜メンバーとして訓練を受けることになったのです。
何故魔王や魔神の復活と騒がれているか……今回は力を表に出さないように十分に気を付けていたはずでした。
しかし、実際は我らの顕現が情報として漏れていたのです。
その理由は直ぐに判明しました。
なんと、アクトが以前の主に作った武具が王都に聖武具として保管されており、アクトの顕現した際に反応して激しく発光したのです。
アクトのバカモンが!!
失礼いたしました。
起こってしまったことは仕方がありません。
このまま力を表に出さず、姿も現さなければ問題はないでしょう。
そして、我が君の王都での訓練の三年間。
当初は良かったのですが、このパーティーメンバーに<槍聖>を持つカンザと言う者が加わってから一変しました。
誰もが我が主を見下し、扱いも底辺。しかし、そんな状況に陥っても我が君は努力を欠かしませんでした。
我が君の安全は、我らが裏から守る必要があります。
その為、ハルムの配下である精霊王の一人にギルドの受付として潜り込ませ、我が君と直接接して御身を守ることにしました。
そして、訓練と称したダンジョン攻略においても、我らが先行してダンジョンを踏破し、ボスも我らが召喚した魔族に置き換えておきました。
こうすれば、我が君の安全は確保されたも同然です。
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