執事のヨハン(1)
今日もよろしくお願いします。
まだ続きます。
私は、この世界の主神と言われ、時には魔神と呼ばれる事も有ったヨハンです。
我らは、いつの間にかこの世界に存在しておりました。
気が付いたらとある空間にいたのですが、その場所から人族が暮らしている大陸に数人で移動してみました。しかし、で我らがそこにいるだけで周囲に異常が発生したのです。
地面は裂け、風は強まり……
このままではこの星自体を破壊しかねない状態でした。
我らは原因が自分達にあると瞬時に理解したのです。
あまりにも強い力を持つ我らがこの世界に何の制約もなく顕現すれば、星自体が耐えられない。
そんなわかりきった事は、考えるまでもなく理解できます。
そこで、緊急避難として気が付けばいた場所、異空間に退避したのです。
まさか、我らが移動しただけでこの世界にこれ程の影響を与えてしまうとは思ってもいませんでした。
それからは、異空間から大陸を眺めるだけに止め、人族や亜人族と呼ばれている者達の生活がどのようになっているかを観察していました。
そんな生活を続けていると、さすがに飽きが来ます。
そこで、神々と相談して人族に自分が与えられるスキルを与えてみることにしたのです。
ちょっとした生活のスパイスですな。
すると、人々は我らが与えたスキルを実にうまく使いこなします。
更には、<剣術>を与えたのにもかかわらず、自分の努力で<剣聖>にクラスアップさえして見せたのです。
我らは大いに喜び、興奮し、スキルを彼らに与え続けました。
そんなある時、突然私は誰かに強制的に大陸に召喚されたのです。
その時は相当驚くと共に、かなり焦りを覚えました。
何故ならば、私があの大陸に顕現してしまうと、それだけで大陸が破壊されてしまうかもしれないからです。
ですが、私の不安は現実の物にはなりませんでした。
なんと、力の制御が行われているのです。
それは私自身の力ではなく、私の目の前にいる幼子による物であると本能で理解することができました。
そして、その幼子こそが自分の絶対の主であることもわかったのです。
これが我らの力の上を行く理の力なのでしょう。
辺りを観察すると、この主はどうやら捨てられたようです。
ここで私は神の力が自在に制御できた状態で使えることを確認すると、大陸を破壊しないように調整しつつ幼子を育てられる環境を一気に作成しました。
やがて主は自分で歩き回れるようになりました。
その時には私の神の力を使って配下を作り、主の相手をさせている間はよりよい環境を作る事に専念しておりました。
ところが、私が顕現して最初に使用した力が強大だったのか、この大陸中の魔獣達が私の力に驚いて暴れまわってしまい、人族に大きな被害を与えてしまったのです。
これがきっかけとなり、いつの間にか人族からは私は魔神と呼ばれるようになりました。彼らにしてみれば、私が魔獣を操作して一斉に人族を襲わせたように見えたのかもしれません。
一応私の認識では、私は主神なのですが……
そして我らが与えたスキルを育て上げ、魔獣を討伐して得られた経験値を元に自分のレベルを上げることに成功した選りすぐりの人族が、私の討伐に動き出したのです。
私はなるべく人族を襲いたくありませんでした。
主は人族であり、何れはどこかの国家で人族の仲間を作って生活していただこうかと考えていたからです。
暫くはひっそりと暮らしてやり過ごそうかと思いましたが、この人族はとても、そう、それはもうしつこかったのです。
ある程度力の差を明確にしておかないと、主との生活に支障をきたしてしまうと考えた私は、配下の者に主を任せて人族のパーティーと直接対峙することにしました。
成程、直接戦闘を行うと分かります。
我らが与えたスキルをいい形で育て上げています。
かなりの努力と創意工夫を繰り返したのでしょう。
彼らが私を殺しに来ていない状態であれば、大いなる賞賛を与えていたところです。
しかし、所詮は我らが与えたスキル。いくら成長させようがその力は我らの足元にも及びません。
どうやって力の差を分からせようか考えていたところ、配下から緊急事態の連絡が来ました。
『どうした。まさか主の身に何かあったのか?』
まさか、人族が主の存在を特定して、別動隊が攻撃しているのかと思いかなり焦りましたが、配下の連絡によればそのような心配はありませんでした。
『いえ、そうではございません。実は主がヨハン様をお探しです。涙を流しながらヨハン様のお名前を叫ばれております。我らでは主の涙を止める術が思い浮かびません。緊急事態です!!』
主の身に危険はありませんが、心が危険です。
これは悠長に人族と戦っている場合ではありません。
主とはゆっくりとした時間を過ごしたい。
すると、我が分身体に暫く力をかなり抑えた状態で戦わせておけば、かなりの時間を稼ぐことができるのではないかと閃いてしまったのです。
一気に彼らを退けてもいいのですが、そこまでの力を出してしまうと、彼らもそこそこの強さを持っているので、この辺りの地形が大きく変わってしまいそうです。
とすると、分身に長い間戦わせておき、その間は主と何も気にせずゆったりと過ごさせていただくとしましょう。
そうして私は分身体をその場に残し、主の元に急いで戻りました。
主は私の姿を見つけると、輝く笑顔で抱きしめてくれました。
幸せです。本当に幸せです。
ですが、主も人族。残念ながらこの至高の時間も有限でした。
私は初めての主の最後を見届けると、自然と異空間に戻っていました。
何やら心にぽっかりと穴が開いたような感覚がしますが、これは仕方がない事でしょう。
次なる主に呼ばれるまで、またこの異空間で神々と談笑しつつ人族にスキルを与えることにしたのです。
その後、主に召喚されたのは私ではなく<死神>のアクトでした。
少々羨ましかったですが、こればかりは自分で決められないので仕方がない事です。
今度の主も幼子です。
ここから主の状態を確認すると、私がお仕えした主よりも少々<統べる者>の力が弱いように感じます。
とすると、<統べる者>の強さによってあちらの世界に顕現できる神が決まってくるのでしょう。
私が主にお仕えしている状態を異空間にいる他の神が見ていたように、私もアクトと主の生活を見ていました。
同じように主はアクトに懐き、アクトもとても満ち足りているようです。
その気持ち、良くわかります。
アクトも私が異空間に戻った時にした主との話を聞いているので、配下を呼び出して世話をさせている間に、過ごしやすい環境を必死で作っています。
この主は、私の時の主と異なりとてもヤンチャです。
今は大体十歳くらいでしょうか?
木刀を振り回してアクトと戦っています。
アクトは、主の剣筋に光る物を感じたのか、武具を作ることにしたようです。
凝り性なのか、いくつもの種類の武具を作っており、主に渡しています。
主は、アクトから渡された武具を嬉しそうに使ってそこらにいる魔獣を狩っています。
<統べる者>を持つ主には、我らのスキルを付与することが一切できません。
そして、<統べる者>と言うスキルは、我ら超常の者達を配下とすることができる反面、力がない場合は何のスキルも得ることができないクズスキルと言うことになってしまうのです。
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