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キグスタの旅

「……と言うのが、俺が立て続けに見ていた夢なんだよ。って、怒らないでくれよフラウ?」

「べっつに、怒ってませんよ?お兄ちゃん!私はいつもと変わりませんけど??」


 やばい、やっぱり完全に怒っている。

 そりゃそうだよな。

 俺を必死でサポートしてくれているのに、夢の中では俺をこっ酷く裏切った真正のクズだもんな。


 もう少し、別の人物を登場させるとかして胡麻化せば良かった。

 でも、物語的な事を考えるのは苦手なんだよ。絶対にどこかでボロが出るし……


 もう、フラウの可愛らしいほっぺが、はちきれんばかりに膨らんでいる。


「ハハハハ、フラウちゃんが怒るのも無理ねーって、いくら何でもそりゃ酷いだろ?」

「本当ですよ、キグスタ君。それに、私達も結構酷い扱いになっていませんでしたか?」


「いや、だから……夢の話で……本当、ゴメン」


 俺達は、この世界を救うべく長きに渡り魔王を討伐するために旅をしていた<勇者>一行だ。


 俺こと、<勇者>キグスタ、<剣神>フラウ、<賢者>ホール、<聖女>リルーナ。

 もちろん、俺達は幼馴染。夢と同じで、ナルバ村出身。実は幼馴染はもう一人いるが、そいつは頭が良く、今はソレッド王国の宰相の補佐をしているほどだ。


 少し違うのは、俺の両親は冒険者ではなく、ただの商人。

 そして、フラウの両親は、俺の両親と長く取引をしていた別の商人。


 ある日、フラウの両親は、行商の帰りに魔獣に襲われて帰らぬ人になったので、俺の妹と言う立場に納まっている。


 こんな夢の話なんて長々としているほど余裕があるのは、既に魔王を完全に滅して、国に帰っている最中だからだ。


 行きはかなりの魔獣達に襲われて、遅々として進まなかったこの旅。帰りは何の障害もなく……いや、時々襲って来る魔獣はいるが、俺達の敵になるような魔獣がいる訳もなく、何の障害にもなっていないので、旅を楽しみながら帰還している。


「それにお兄ちゃん!なによ、その無駄なハーレム。実際は私とリルーナ以外の女の子に話しかける事もできないくせに!!」


 イタタタ。そう、俺キグスタは、勇者でありながら?知らない女の人とうまくしゃべる事ができないのだ。


 もちろん、この討伐を受けた時に謁見した王妃殿下にも、まともにしゃべる事が出来ずに無様を晒した。

 俺の態度が不敬罪に取られないか、本気で焦っていたのだ。


 その窮地を救ってくれたのが、<賢者>ホールだ。俺の代わりにペラペラ話をしてくれた。本当に助かった。

 この時は、ホールが<賢者>ではなく、<言語マスター>に見えた。いや、<神>に見えた。


 王族側からして見れば、俺は数多の勇者が謁見している中の一人でしかないので、それ程気にならなかったのかもしれないが。


「でもキグスタ、お前、<勇者>の力だと思うんだが、魔王討伐少し前から、一気に力を増したよな?その夢を見始めたのと同じ頃だろ?」

「ん?ああ、そうだぞ、ホール。お前ひょっとして、そんな超常の者達がいると思っているのか?」


「何とも言えねーな。誰も見た事は無いが、いないと判断できる材料もないだろ?」

「ホール、止めて下さいよ。キグスタ君の夢が真実味を帯びると、私達の未来は最低ですよ?」


「ハハハ、そうだったな。ようやく帰ってリルーナと一緒になれるんだ。たしか、ナルバ村、町?から暫くは出られない?だったか??そんな生活はしたくねーしな。だけどリルーナ、転移とかできれば一気に王都に帰れるんだぞ?それだけ早く一緒になれるんだ。この部分だけは現実でも良くないか?」

「もう、ホールったら」


 この二人、王都へ帰還して国王達に全てを報告した後、結婚する事が決定している。


 その話を聞いたフラウが、俺に抱き着いて結婚を迫ってきたのは記憶に新しい。

 もちろん、俺もフラウが好きだし、妹と言っても血は繋がっていないので、即OKした。


 普通は俺から言う物だと言うのはわかっているのだが、チキン<勇者>なので、勘弁してくれ。


 だから、俺達もホールとリルーナと同じように、帰還後に結婚する。

 父さんと母さんは驚くだろうな。


「よし、そんじゃ出発するか?あ~あ、転移ができれば、さっさと帰れるのにな~。ま、その内修行してみるか。誰も転移魔術が存在しないと証明できた奴はいね~しな」


 ホールの一声で、腰を下ろしていた俺達は歩き出す。

 荷物はホールの魔法で武器以外は全て収納してもらっているので、かなり楽だ。


 だけど、さっきホールが言っていた通り、あの夢、やけにリアルな夢を見始めた頃から、超常の者達が力を貸してくれているかのように、俺の力は一気に上がったのは間違いない。


 実は、魔王討伐の時は、かなりの手加減をしていた。

 あまりにも強大な力なので、うまく制御しないと、自分の体にもダメージがありそうだったからだ。


 そんなとてつもない力なので、俺は常に控えめに力を使っていたと言う事は、このメンバーにすら伝えていない。

 だが、流石は<賢者>ホール。俺の力の上昇には気が付いていたようだ。


 実際ホールが言っていた通り、この世界には転移などと言う御伽噺のような魔術は存在しない。いや、しなかった。

 これがあれば、魔王討伐の旅なんてしなくて良いからな。


 だが、最近感覚でわかってしまっている。

 俺がその魔術を行使できる事を……


 そして、夢に出てきた超常の者達の存在が、何となく俺に近づいている事を……


『お待たせしております。間もなく到着いたします。我が君』


 夢の中に出てきたヨハンの声が聞こえた気がして振り返る。が、そこには誰もいない。


「お~い、何してんだ、キグスタ。置いていくぞ!」

「いいよ、ホール。あんなお兄ちゃん、置いて行っちゃおうよ」

「フフフ、フラウ、もう許してあげたらどうですか?」


「悪い。フラウも悪かったって、もう機嫌直してくれよ」

「知らない」


 そして、間もなく俺達の旅は終わる。

 そして今後、この力がどうなって行くのかは分からないが、夢の感覚、そして今の感覚では、悪い事にはならないだろう。


 ひょっとしたら、オリサとロゼにもう一度会えるかもしれない……

ここまでお読みいただきありがとうございました。



同じハイファン

https://ncode.syosetu.com/n3000hg/

も連載中ですので、一読いただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初からじっくり見て一気に読みました。 楽しかったです!ありがとうございました!
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