最後の戦い(2)
ここは、ウイドとソレイユのいる異空間。
既にアクトとハルムは決着をつけていた頃、ウイドとソレイユは未だ戦闘を開始していなかった。
実は、早くから依り代を得ていたウイドとカンザに関しては、他の二体、つまりオリサとロゼよりも実力が上だった。
依り代の性能は比べ物にならない程オリサとロゼが上なのだが、その体を乗っ取った後の活動時間が全く異なるため、オリサとロゼはあまり力を上昇させる事ができていなかったのだ。
ウイドは、時間をかけて体を依り代に慣らし、力を上昇させてきた。条件はカンザも同じだ。
既に、異空間を魔力で全て覆えるのではないかと思う程の魔力をその体に漂わせている。
だが、その姿を見てもソレイユに焦りはない。
「フフ、お前の仲間だったあの二人、なんと言ったか?オリサとロゼか?あの二人は最早我らの手中にある。そもそも、あ奴らの一撃をまともに食らうような間抜けが、再び相まみえたとしても手も足も出ないだろうよ」
ウイドの声を聞いてもソレイユの表情に変化はなく、感情の揺らぎすらない。
聞こえないのか、理解できていないのかは不明だが、効果がなかったと判断したウイドは、再び挑発する。
「あの二人、コンタレイと共に行動している時に我らの存在を感知し、お前等よりも我らにつく方が有利と考えて、向こうから話を持ち掛けてきたんだ。とんだ裏切り者だな。我らとしては、あのような脆弱な戦力でも受け入れる大きい懐があるから良いようなものの、もう少し修行させるべきではなかったのか?」
全く事実無根ではあるが、この場では確認する術は一切ないので言いたい事を言って、何とか感情を逆なでしようと試みている。
だが、ここまで言っても目の前に見えるソレイユの感情に揺らぎを感じる事はできなかった。
少しでも負の感情から力を得て始末しておきたいと考えているウイドは、少々悩む。
これだけ煽っても感情に一切の変化がないと、本当に聞こえていないのではないかと言う疑いがあるからだ。
その場合、これ以上何を言っても無駄なのだ。
その心配は、全くお門違いである事を直ぐに理解した。
「あなたは少々煩いですね、ありもしない事をペラペラと。私達は、あなた方が負の感情を力にする事程度、既に知っているのですよ。必死で煽る様は非常に滑稽です。御託は良いので、さっさと掛かってきてはいかがですか?」
そう、全ての言葉を理解した上で一切の感情の揺らぎを見せなかったのだ。
本当は、怒りの感情に任せてウイドを徐々に細切れにしてやりたい気持ちもなくはないが、ヨハンからの情報を無下にする訳にもいかず、心を無にしていたのだ。
しかし、その状態でも小うるさいウイドの声は頭に入ってくる。
当然意味も理解できてしまうのが辛い所だ。
いい加減この状態に嫌気がさしたソレイユは、相手の力を判断すべく攻撃してくるように挑発する。
煽り倒していた状態で何の反応もせず、逆に煽られてしまったウイドは、少々耐性がないのかすぐに頭に血が上り、溢れる魔力に物を言わせて全力でソレイユに攻撃してきた。
「仲間に裏切られても何の反応も示さない、いや、仲間を信頼していなかったのか?そうとしか思えないな。そんな薄っぺらい仲間意識しかないお前には、孤独に散っていく姿がお似合だ」
もちろん、事実を捻じ曲げて煽る事だけは忘れることは無かったウイド。
異空間故に二人以外に何も存在していないので、何かを破壊する事は無いが、ウイドの拳に収束した魔力が高密度のエネルギーとなり、そのままソレイユに向かって放出される。
魔力が共鳴するような不思議な音を出しながら、ソレイユに着弾する。
着弾した瞬間に、ソレイユを中心とした大爆発が起こる。
ここが現実世界であれば、周囲は焦土と化している事は間違いがない。
だが、その攻撃が終わっても尚、ウイドは同様の攻撃を続けている。
何故ならば、爆心地に存在しているソレイユの気配、感情に全く変化がないからだ。
どの程度の時間が経っただろうかわからないが、相当時間が経過した事だけは間違いない。
それほどの時間、この攻撃を続ける事が出来ていたウイドも相当だが、その攻撃をまともに受け続けても何の変化もないソレイユはその遥か上を行く。
ソレイユとしては、キグスタの指示は余計な事を話す前に排除するとの事ではあったのだが、感情をコントロールする事に力をまわしている為、安全を見て少々作戦を変更させてもらっているのだ。
最終的には、完全に、完膚なきまで叩き潰せば良いとも言われているので問題はない。
周囲に巻き込むものが一切ないので、粉塵などは一切なく、攻撃終了後には即ソレイユの変わらぬ姿が見えるウイド。
「バカな。お前は……化け物か」
「失礼ですね。言うに事欠いて化け物とは。本当の化け物は、あなたの様に醜い者達の事を言うのですよ。勉強不足ですね。それで、これで終わりですか?」
本当に無傷。着ている服でさえ何も変化がないソレイユ。
ソレイユとしては決して煽って言っている事ではないのだが、バカにされたと思っているウイドは、物理攻撃に切り替えた。
即抜刀して、ソレイユに襲い掛かる。
上段、下段、突き、ありとあらゆる攻撃をするのだが、全てソレイユの手足で防御されてしまう。
刃を生の手足で防御している所もおかしいが、全くダメージを受けていない所も有り得ない。
魔力と共に体力迄使い果たしてしまったウイドは、呼吸も荒く、何の攻撃も受けていないのにフラフラだ。
いや、精神的な攻撃は受けている事になるのかもしれないが。
「本当にこれが全力の様ですね。所詮あなた達の力は、隙をついたりと、正々堂々とは程遠い姿勢でない限り誰にも勝てないのですよ。では、そろそろ私からも行かせて頂きましょうか?我が主の命によれば、本来はあなたの口から声が出る前に始末しなくてはいけなかったのです」
ウイドの目には、ソレイユが揺れたように見えると、依り代になる前のウイドの姿、そう、両肩から先の無い状態に戻っていた。
「な・・・・・・」
何が起こったかわからないが、なけなしの魔力を使って再生を試みるも、その間に足も切断されて身動きが取れなくなる。
そんな姿のウイドを、何の表情もないソレイユが見下ろしている。
「まて、どうだ?俺と手を組まないか?もし俺と手を組め・・・・・・」
ウイドが最後まで言い切る事は無い。
当然ソレイユがウイド本人を細切れにしたからだ。
念には念を入れて、ハルムやアクトと同じように、精神体も共に細切れにしている。
最後に、ウイドが攻撃していた威力と比べるのも恥ずかしくなる位の、凄まじい威力の魔法で、全てを無に帰した。
「まったく不快な戦いでした」
ソレイユは、自分以外に何も無くなった異空間で、オリサとロゼに思いを馳せ目を瞑り、やがて帰還した。
ここでも、超常の者の圧勝で終わる。
同時刻、カンザとソラリスのいる異空間。
「おらぁ~!どうした、どうした、そんな物か?カンザ。いや、本当はカンザじゃなかったな。だが、その依り代のカンザは上位スキル持ちだったんだろ?もっと本気を出せよ」
ここでは、ソラリスが一方的にカンザを責め立てていた。
キグスタの指令通り、カンザは一言も話せる状態ではない。
何か口を開こうとすると、ソラリスの激しい攻撃により話す隙すら与えられていないのだ。
こちらも異空間であり、ソラリスの攻撃により吹き飛ばされたカンザは、壁などに当たる事は無いのだが、その行先にはソラリスが先回りしており、再び攻撃を受けるのだ。
だが、威勢の良いセリフと共に攻撃しているソラリスだが、何故か涙が流れている。
最後の戦いの前にヨハンに指摘されてしまった通り、ソラリスは感情をコントロールするのが他の四神と比べて非常に苦手だ。
その為、威勢の良い事を口に出す事により自らの心を少しでも前向きな方向に持って行こうとしているのだ。
セリフの中身は人によっては前向きに捉えられないが、ソラリス自身にとっては非常に前向きな発言だったのだ。
「いつまでも調子に……がはぁ……」
「お前、誰が口をきいて良いと言った?」
少々怒りの感情が洩れそうになったので、少々攻撃を止めて心を落ち着ける。
しかし、それもほんの少しの時間。
再びカンザに攻撃を仕掛けるソラリス。武神であるが故どの攻撃も洗練されており、その威力もかなりの物だ。
徐々に体の回復が追い付かなくなっているカンザは、ついに意識すら手放した。
だが、ソラリスはそんなカンザをそのまま始末するような事をしない。
「おい、何この程度の攻撃で気を失っている」
わざわざ軽くはたいて意識を回復させるのだ。
そして気絶して意識を回復する・・・・・・この繰り返し。
だが、そのサイクルは徐々に短くなっている。
意識を強制的に回復させても、一撃で意識を失うようになってしまっていたのだ。
そのまま攻撃を続けると、ついにカンザは何をしようが反応しなくなってしまっていた。
「ハン、口だけか」
これで最後と言わんばかりにカンザを高く蹴り上げると、渾身の一撃を放った。
その攻撃の後には、何もない”無”だった。
「オリサとロゼよ、安らかに」
こう言い残し、ソラリスも異空間から帰還する。
連載中の副ギルドマスター補佐心得、
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