カンザ
まだまだまだまだ 続きます。
俺は、魔王だか魔神だかの討伐の為に選抜されたパーティーリーダーのカンザだ。
今俺達はひたすら街道を走る馬車に乗っている。
昨日、いや、今朝の事を思い出して思わず言葉が漏れる。
「酷い目にあった」
宿を後にしてソレッド王国の王都を目指す俺達。
途中の山を回避して王都に戻る為、辺境の地であるナルバ村を通過することになる。
ここは、キグスタやフラウ達の出身地だ。
この場所でフラウの育ての親であり、キグスタの実の両親に今回の顛末を説明する予定になっている。
もちろん内容は、あの町のギルドで話したような嘘100%の説明になるのだが、これは仕方がないだろう。
いつの間にか破壊されていた聖武具の代わりを貰い受けに王都に戻るのだが、今回の一連の流れについてはギルドの間で情報共有されており、あの町のギルドから王都のギルド、そしてそこから国王へ報告が行く手はずとなっているので、そこまで急いでいる旅にはならない。
だが、手元に聖武具がないのは不安になるので、そこまでゆったりしているわけではない、と言う何とも中途半端な旅だ。
その旅立ちの日の朝は最悪のスタートとなった。
前日はキグスタ殺害がうまくいった祝杯を挙げていい気持ちで眠りについたのだが、何やら足が痛くて目が覚めると気持ちの悪い虫共が体中をはい回っていたのだ。
あまりの気持ち悪さに荷物もそのままに部屋を逃げ出してしまった。
当然宿泊所にクレームを入れて係の者と部屋に戻ると、あの虫共は痕跡すら残っていなかった。
係の者は、俺達が仲間を失って動揺しているのだろう……と勝手に解釈してくれていたのが救いだが……
この話をすると、仲間全員が同じ状況に陥っていたらしい。
「あの虫の感覚は幻覚なんかでは決してない!」
俺の怒りの咆哮に、仲間たちが同意する。
「そうよ、本当に気持ち悪かったんだから」
「私、虫は本当にダメなんです」
「それに何だか足も痛てーしな」
そう、最後にホールが言った通りいつの間にかついていた足の傷が治らないのだ。
そして、その傷が結構痛い。
昨日は飲み過ぎたためにどこかにぶつけたか、ひょとしてダンジョン攻略中に怪我をしたのかもしれない。
馬車に乗ってしばらくしてからこの状況に気が付いた俺達は、王国から支給されている高品質のポーションを飲んだり塗ったりしてみたが、今現在かなりの時間がたっているのだが治る気配すらない。
ひょっとして何かの呪いを受けたか?と心配になり、<魔聖>のリルーナに解呪の魔法を使ってもらったが変化はなかった。
リルーナ自身にも術が利いた手ごたえがないらしいので、これは呪いの類ではなさそうだ。
だが、国王から支給されている最高品質のポーションで効果がないとなると、いつまで続くかわからないこの痛みを我慢し続けなくてはいけないと言う事だ。
ここからナルバ村までは、フラウの話によれば大体一週間程度かかるらしい。
それまでには治ってもらいたいところだ。
二日、三日とすぎるが、痛みは引くことがない。
傷自体は酷くもなっていないので命に別状はなさそうだが、ここまで痛みが続くとイライラしてくる。
夜も中々寝付けないしな。
そのストレスの捌け口は、道中に現れる魔獣に向けられる。
無駄に力のこもった攻撃をしてしまうのはしょうがないだろう。
周りの環境など俺達には一切関係がないので、食料が取れそうな森や、畑になりそうな空間も一切が灰となっている。
そして、八日目。ようやくフラウ達の出身地であるナルバ村に到着した。
到着したと共に、足の傷の痛みが嘘のように引いていった。
「おい、俺の痛みは消えたぞ。お前らはどうだ?」
「消えた。痛くない」
「私もです」
「私もよ。偶然全員の痛みが同時に消えた?なんで??」
不思議な現象だ。呪いではないのに同時に痛みが消えるなどあるはずがない。
ないのだが、別段深く考え込む必要もないだろう。
悪くなったのならいざ知らず、痛みが治ったのだから問題はない。
「そんじゃあ、めんどくさい事はさっさと済ませるか。行くぞフラウ!」
「うん」
大体の説明はこの俺カンザがすることにしている。
こいつらに任せておくと、どこかでボロが出るかもしれないからな。
貴族出身で頭の回転が速い俺が説明した方が何かといい方向に行くだろう。
だが、さすがは辺境の村だ。
人はあまりいないし、対魔獣用の安全策も飾り程度、そして建っている家も貧相な物ばかりだ。
「あ、あの坂の上の家がそうだよ」
何とも言えない家を指さすフラウ。
俺達はすぐに到着すると、玄関のドアを叩いた。
狭い家なのだから即ドアが開く。
「ハイハイ、どちら様で……フラウ??どうしてここにいるの?キグスタもいるのかしら?」
フラウの姿を見つけてキグスタも一緒にいると思って辺りを見回す女性。
これがあの荷物持ちの母親なのだろう。
「そのことで話があるの。お母さん……お父さんは?」
「中にいるわよ」
あまりいい報告ではない事は直ぐにわかったのだろう。不安な表情で俺達を家の中に案内する。
中は狭いが、良く整理されていて実用性に富んだ作りをしている。
ここだけは感心できる。
俺達に椅子を勧めると、両親も椅子に座って俺達の話を促してくる。
「俺は選抜メンバーのパーティーリーダーをしているカンザと言う。今回俺達に起こった事を説明したい。どうか最後まで落ち着いて聞いてほしい」
そして、あのギルドで説明したままの事を両親にも説明した。
ある意味世界を救うべく活動している俺達の邪魔をして、聖武具や貴重な魔道具すら奪ってしまった形になったキグスタの話だ。
両親は青ざめて震えている。
もちろんフラウの両親でもあるので、いくらあの使えない荷物持ちの両親とは言え、聖武具などの返済は求めない。
「……と言う事だったんです」
「私もあの場にいました。お兄ちゃんは瞬間的に人が変わったみたいにおかしくなって、何もすることができなかったの。ごめんなさい」
暫く沈黙がこの部屋を支配している。
母親の方は息子の錯乱と死亡している旨を聞いて、目に涙を浮かべている。
そんな表情を見ても、罪の意識すらわかないのはあまりにもキグスタが邪魔者だったからだろう。
「話は分かった。キグスタが迷惑をかけたようで申し訳ない」
父親はまあまあの行動を取ってくれた。
フラウの方は、育ての親が悲しそうな表情をしているのを見てどんな顔をしているか確認すると、薄ら笑いを浮かべていた。
流石は俺の女だ。こいつも同じようにキグスタが邪魔で仕方がなかったのだろう。
当然他のメンバーも同じような表情をしている。
俺と同じく罪の意識などある訳はない。
よし、やるべき事はやったし、こんなしけた村ともおさらばだな。
「お父さん、お母さん、私達そんな訳で聖武具を取りに急いで王都まで戻らなくちゃいけないの。ごめんね」
最後にフラウがそう言うと、俺達はしけた村を後にした。
「フラウ、お前も中々演技がうまくなったな」
「えへへ、そうでしょ?一応は育ててもらった恩があるから最後に挨拶だけはしたかったんだ」
「だけど、結構老けた感じだな。俺達は別に両親になんて用事はないから尋ねるなんてことはしなかったけどな」
「でも、あのご両親、これからあの村で生活し辛くなるのではないですか?」
リルーナの言う通りだな。このまま王都で新たな聖武具を受け取ったとしても、王国としては聖武具を一気に四つも失った事実は変わらない。
いくら俺達が庇ったとしても、その原因となったキグスタの両親には何かしらの罰があるだろう。
「しょうがないだろ。こればっかりはどうしようもない。一応フラウの育ての親でもあるのだから、庇いはするがな」
と、再び馬車に揺られながら話をする。




