フラウの戦略
全く、あのキグスタは……本当に私をびっくりさせて、ただ単に買い物に来ただけ。
バカにしているのかしら?
あの襲来から数日後、グリフィス王国からジャミング帝国に交易の打診があった事から、本当に買い物に来ただけだと分かった私は、次の手を打つ事にしたの。
そう、あのカンザよ。
今もあの負の感情が溢れる素晴らしい鉱山で働いているに違いないカンザ。
そうそう、もう一人、誰だったかしら……そう、ウイド将軍もいたわね。
あの二人をどう使うか考えていたの。
そう言えば元皇帝もいたわね……どうでもいいかしら。戦闘能力はなさそうだし、強い感情を持てるほどの力は残っていないでしょうから。
あの二人は、私があの場所、鉱山に連れて行かれた時にも、とても良い養分を発していたから、短い時間でも良いから何とか手元に置いておきたいと思っているの。
それに、今はキグスタを恐れているけれど、あのプライドの塊のカンザであれば、近くにキグスタがいないと分かれば復讐心が人一倍強く出るはず。
その心も私の養分になってくれるのよ。
養分を吸収するだけした後は、フフフ、特製の力を与えてあげるの。
でも、それはまだ後の話。その力を与えるためにもやらなくてはいけない事があるのだから。
実際の所、私が直接出向くわけにはいかないわ。
そんな事をしたら、せっかく既にいないものと思われている私の存在がキグスタ達にバレてしまうかもしれないから。
そこで、交易を利用するの。
もちろん初めのうちは真面目に交易するけれど、当然向こうで知り得た情報を教えて貰うし、交易品を増やす方向で話を進めるの。
スキルについての文句は言わないようにして信頼を得て行けば、ジャミング帝国の労働力が不足していると伝える事により、犯罪奴隷を購入できると思うの。そう、そこであの二人を購入するのよ。
少し時間がかかるし、今までのジャミング帝国の行動から、疑われる事もあるだろうけど、キグスタ達が相手ならば問題ないはず。
国王や最上位スキル持ちがどう出て来るか……その辺りも今後考えていかなくてはいけないけど、何とかなるでしょ。
私は、日に日に力が強くなっているのが分かるの。
そのおかげで、色々な記憶も蘇ってきたのよ。
私の存在理由。まだ記憶が蘇っていなかった頃に、この世界を破滅させるような意図だけ理解していたけれど、少し違うの。
この世界に君臨する力を持つ者の破壊。今ならその本当の意味がわかるわ。
その理由や、どうやって私と言う存在が在るのかは未だにわからないけれど……
あのキグスタに付き従う者達の排除が本当の目的なのだけれど、私一人では到底そんな事はできない。力が増え続けている今でも、そんな事はできないと分かるの。
でも心配はしていないわ。
……フフフ……私と言う存在を作り出したモノは、本当に良く考えているわ。
私は負の感情を力にする事ができる。つまり、敵に怒りの感情が現れれば、それを養分にして更に強化される。素敵な力でしょう?
今までのような雑魚の感情ではなく、キグスタやキグスタに従っている者達の感情であれば、どれ程の力を得る事ができるのか……考えただけでゾクゾクするわ。
でも今のままでは、私はこのジャミング帝国から、いえ、この部屋からあまり離れるわけにはいかないの。
万が一の時の対応ができなくなるので、もっと力を得なければいけないわね。
間もなく交易を始める事になるのだけれど、皇帝のコンタレイが誠意を示す意味でグリフィス王国に出向いて、顔を合わせる事になっているの。
その時に注意するべき事は、今の所こちらに悪意がないと言う事実を理解してもらう事。
この帝国と手を組んでいた盗賊団はグリフィス王国でその消息を絶っているから、その事実から考えると、恐らく悪意の有無程度は判別できるようにしているのでしょう。
その対策として、カンザからも受け継いだ洗脳とでも言うのかしら?
話術を駆使して、私にとっては形だけの皇帝に、日々説明をしていたの。
今回の訪問は、今までスキルについての懸案はあったが、双方利益の有る交易と判断して、受ける事にした。
もちろんスキルについては、今現在はスキルを得られていない者が存在しない事で、これ以上は問題としない事を、よ。
当然、宰相のフリザムイには、出所が分からないようにスキルに関する不満を煽るような噂を、周辺国家に流すように指示を出しているわ。
もちろん皇帝には秘密。
せっかく、グリフィス王国への悪意が一時的とはいえ無くなっているのだから、余計な情報を与えて悪意が復活するのを防ぐためよ。
当然その噂も耳に入る事が無いように厳重に管理しているわよ。
この会談でグリフィス王国側の悪意のチェックが問題ないと認識されれば、その噂を流しているのがジャミング帝国だとは思わないはずよ。
だから今回の会談は、交易に関する事よりも、悪意について向こうに理解してもらうのがとても大切なのよ。
慎重に準備を進めて、いよいよ会談の日がやってきたわ。
もちろん私は万が一に備えて、部屋から異空間に転移。
悪意がそのままの宰相は、体調不良と言う事にして部屋で待機してもらったの。
こちらからグリフィス王国に向かうのは、何も知らない侍女、そして皇帝のコンタレイだけ。
頼んだわよ、コンタレイ!
暫くすると、宰相が手紙を私の部屋に置いたの。
それは、いつもの緊急事態対応と同じ。キグスタ一行がこの国を出たという事。
今回の迎え、キグスタは来なかったらしいけれども、龍を引き連れた女が一人来ていたらしいので、恐らくその女は私のターゲットのうちの一人でしょう。
これ以上は、今回の作戦で何かできる事はないので、私は一先ず部屋に戻って今後の事を考える事にしたの。
それは、私の新たな力。そう、仲間達の封印を解く方法よ。
記憶の復元と共に、私と同等の存在がこの世界にいる事に気が付いたの。
もちろんその力や存在を悟られないように、完全に力と存在を封印されているの。
封印解除には、記憶を取り戻した私の血が必要。
その場所は……グリフィス王国内であればどうしようもなかったけれど、幸いにもジャミング帝国に近い位置だったのが助かったわ。
もちろんどこの国家にも属していない場所。
私の記憶によれば、景色がきれいな滝の底。
そこに四体の精神体が封印されているの。
復活できれば、私と同じように誰かの体を完全に乗っ取る事によって、共に活動する事ができるわ。
でも、精神体のままでは何もすることができないのは仕方がないわね。
まずは封印を解く事に力を注ぎましょう。
今回の会談の日程は二日を予定しているので、その間は護衛やら何やらで、キグスタもグリフィス王国を出ないはず。
不測の事態があればどうしようもないけれど、その程度のリスクは仕方がないわ。
向かうのはもちろん私一人。一人であれば即座に隠れる事も出来るし、一切目立たずに行動する事も出来るものね。
「じゃあ、少し出かけてくるわ。恐らく今日の夜には戻れると思うの。後はよろしくね」
宰相にそう伝えると、本当に久しぶりに私は帝都から外に出たの。
使っている力は、魔力探知対策として魔道具を使用しているけれど、万全を期して足の強化だけ。
転移は、ここからだと距離があるので、魔力の揺らぎを感知される可能性があるかもしれないので、仕方がないわ。




