国家同士の問題
ここはグリフィス王国の王城。そこにはグリフィス国王と、共にこの国を興した元辺境伯であるウィンタスとカルドナレスの姿もある。
久しぶりに顔を合わせているのだが、懐かしむような事もなく、事務的な話が始まる。
「それで、急にどうしました、グリフィス国王」
「そうですぞ。我らは領地運営に心底疲れ果てましたので、併合して頂いて隠居していたのですが……」
「やっ、大変申し訳ございません。実は経験豊かなお二方に力を貸していただきたくお越しいただきました」
この元辺境伯二人は、志はグリフィスと同じだが、既に年齢も高く、併合・独立時には自ら引退したいと強く申し出て隠居していた。
しかし、国家運営についての助言が欲しいとグリフィス国王に懇願されて、止む無くこの場にいる。
「実は、以前神託としてグリフィス王国所属の最上位スキル持ち三人から大陸中に伝えた件、スキルが与えられなくなると言う件ですが、やはり我らが意図的に調整しているのではと言ってくる国家があるのです」
「それはそうでしょうな。再びグリフィス王国から神託が出て、全員にスキルが与えられるとなったのですから。ですが、今この国家、グリフィス王国は大陸最強となっているのではないのですか?」
「その通り、何を言われても問題ないではありませんか?」
言いがかりをつけてくる国がどの国家はわからないが、大陸最強国家のグリフィス王国であれば、そのような言葉は無視して問題ないと言っているのだ。
「実は、その国家は内乱が起きて既に皇帝が変わったのです。それからは奴らの方針なのか、執拗にスキルの事を突いてくるのですよ。当初は無視しておりましたが、辟易してしまっているのです」
「では、力に物を言わせて黙らせるという事ですか?」
「私はその方法は賛成できませんな」
少しだけ物騒な方向に行きかけたが、ウィンタスが明確な拒否をした。
もちろん他の二人もそのようなつもりは一切ない。
「もちろんそのような事は致しません。我ら王国に対して実害を与えるような行為がない限り、武力で制圧などしては、国家の信頼が根底から揺らぎますからな。大陸中が脅威に思っている力があれば、その行使には慎重に慎重を期す必要があります」
「流石はグリフィス国王。わかっていらっしゃる」
「その通りですな」
現実、この世界でのスキル発現率は大幅に減少し、更に戦闘系統のスキルを得られる可能性は限りなく低くなっている。
グリフィス国王自身は、つい最近スキルについての詳細をキグスタから聞いているので、全てを知っている。
少しだけ驚きはしたが、あれ程の力があるのであれば…と納得していた。
そして、今後の人々の生活を考えると、やはりスキルは必要であると判断し、通常のスキルは与える事にしたと言う話も聞いているのだ。
しかし、この場にいる二人は何も知らない。
当然漏らせるような情報ではないので、教える事のないまま話は進む。
「ですが、悪魔の王はいないとの神託で、実際に悪魔の王が現れたと言う情報もない。聖武具も減少しており、正に全て神託の通りではありませんか。そして、人々の生活の為に再びスキルを与えるとの事。何の問題があるか理解できません」
「ウィンタス殿の仰る通りですな。それに、戦闘系統のスキル発現率が大幅に減少しているのはグリフィス王国でも同じ事。更に同じ時期に同じように全員にスキル与えられているのですから、文句を言われる筋合いなどないはずですが」
グリフィス国王の前で悩んでしまう二人。
簡単に解決策が出るのであれば、グリフィス国王はこの二人に相談したりはしない。
神託についての真実も知っているグリフィス国王は、歯がゆい気持ちで二人の意見を聞いている。
カルドナレスが口を開く。
「グリフィス国王、先ほど、その国家は内乱があったと仰っていた件、最近内乱が起こったのはジャミング帝国でしょうか?私が知っていた皇帝は、他国に文句を言うような人柄ではなかったと記憶しております。内乱を起こして帝位を奪うような輩故、対処も慎重にしなくてはなりません」
引退したとはいえ、ある程度の情報を仕入れ続けていたカルドナレス。
万が一の時にはグリフィスに対して情報を提供するべく動いていたのだ。
「流石はカルドナレス殿。引退しても情報収集は行っておりましたか。いや、お恥ずかしいですな」
完全に隠居して、のんびり生活しているウィンタスが恥ずかしそうにしている。
「いやいや、これは私が好きでやっていた事です。むしろ、余計な事を勝手にしている私の方が行いは悪いわけで、完全にけじめをつけられたウィンタス殿が恥じる事など一切ありません」
だんだんと話が明後日の方向に向かってきたので、グリフィスが口を挟む。
このままでは、孫自慢まで話が飛躍する可能性があると判断したからだ。
「今のグリフィス王国では、悪意ある者は入国時にはじかれます。しかし、我が国の情報を知り得る手段は多数存在します。悪意無く入国している人々から情報を吸い上げれば良いのです。恐らくそうして情報を得たのでしょう。ジャミング帝国だけではなく、その周辺国家も、我ら、特にソレッド地区の繁栄を聞き及び、更に文句をつけてくるのです」
「ソレッド地区と言えば、キグスタ殿か。ならばそうなるだろうな」
「ですが、そのような事を言われても対処のしようがないのでは?」
だが、やはり最終的には堂々巡りになってしまうのだ。
「確か以前はジャミング帝国とは交易をしておりませんでしたな?」
「私もそのように記憶しております、ウィンタス殿」
「ええ、お二方の仰る通りです。今も実施しておりません。何せ距離がありますので」
グリフィス王国とジャミング帝国は、大陸のほぼ真逆の位置にあるので、通常の方法で交易をしても、リスクが大きすぎて交易のうまみが全くないのだ。
「そこで、龍の力を使って交易をされては如何でしょうかな?多少、そう、ほんの少しだけ融通するのです。龍による運搬費用を免除するだけでも良いでしょう。大陸の真逆に位置するので、グリフィス王国の力を正確に認識していない可能性もありますからな。龍をその目で見れば、多少は大人しくなるのでは?」
「成程、流石はウィンタス殿。ですが、ジャミング帝国との交易。内乱が起こって皇帝が変わったほどですから、どのような特産物があるかは調査する必要があるでしょう」
隠居していた二人の意見は、ジャミング帝国と交易し、多少の融通をする事で恩を売り、龍を使ってグリフィス王国の力を見せつければ、余計な事は言ってこないだろうと言うものであった。
グリフィス国王も、その案を検討する事としてこの会は急遽お開きになった。
二人が、孫自慢を始めてしまったからだ。
提案してくれた内容としてはかなり有益な話だったので、グリフィスはその方向で動く事に決めていた。
今後の動きは龍を使う事の許可、そしてジャミング帝国の交易品の調査をキグスタに頼むのだ。




