フラウ
この話を含み、あと18話で区切りがつきます
既に予約投稿をさせて頂きました
いつもの日常、そして、時折グリフィス国王からの依頼を受けつつ生活をしている俺、キグスタ。
国王からの依頼は、国に関する整備事業や、安全対策、そして、諜報活動も含まれるのだが、諜報活動については、今は控えている。
諜報系統に使っている力を、フラウの探索のみに注ぎたいからだ。
直近の依頼では、とある王国の家臣が、グリフィス王国に対して良からぬ感情を持ち、それを咎めた国王にも反旗を翻しそうになっている……と言う、他国からの救済要請も有ったりする。
そんな所には俺が直接出向かずとも、グリフィス王国の騎士と、龍達の何れかの個体と共に向かわせるだけで、話は終了する。
今までもそうだったが、どうして反旗を翻すような連中はこちらの戦力を把握していないのだろうか。
いや、把握しているつもりなのだろうか。
まあ、こんな依頼も少なくなってきたので、この大陸中で、グリフィス王国に牙を剥く国家は無いだろう。
決して、横柄になったりしないように気を付けよう。
その他の情報としては、あの銀狼との繋がりがある国家、ジャミング帝国では内乱が起きたらしい。
盗賊達と手を組むような貴族がいるのだから、その程度は起こっても何ら不思議ではない。
正直俺達には直接被害がないし、フラウ探索に力を注いでいるので、グリフィス王国に被害が起きそうにない限り、今の所は放置している。
そして、ソレイユによる探索だが、いよいよこのナルバ町の外周を残すのみとなった。
いや、実際にはソレッド王国の国内も探索をかけていないが、他の者達により調査済みだ。
とすると、フラウは移動していたのかもしれないが、かなり俺達の近くに潜んでいたと言える。
「我が主、いよいよ探索はこの森の奥深くを残すのみとなりました」
俺に直接報告をしてくるソレイユ。
「ダンジョンの中も探索したんだよな?」
「もちろんでございます。虫型魔獣で隈なく探索いたしました」
とすると、もうフラウの居場所はここしかないな。
目の前に広がる、広大な森。
ワウチ帝国へ向かう方向のみ道を整備しており、ナルバ町に近い部分は、ホールとリルーナの狩場になっている。
この二人にはフラウからの接触を防止するために監視をつけているが、今の所フラウからの接触はない。
つまり、この森の深い部分に隠れている可能性が極めて高い。
この場にいるのは、俺、ヨハン、ソレイユで、他の面々は、いつもの通り警戒態勢をとってもらっている。
ついでに言うと、ホールとリルーナも、今日はナルバ町から出ないように、ギルドを通して指示を出している。
やがてソレイユから報告が上がる。
「我が主、あのフラウという者ですが、この場にもおりません」
「え?そうなのか?てっきりここで戦闘でもするつもりだったんだが、そうか。ここにもいないのか。魔力探知の方にも引っかかっていないんだよな?」
「はい、残念ながら……」
こうなると、俺としては考えられる事は一つだ。
そう、既に魔獣のお腹に収まったか、ダンジョンの中、恐らく下層だろうが、そこで死亡しているか。
ダンジョンの下層ともなれば、そこそこ強力な魔獣がいる。
いくら上位スキルがあったとしても、多勢に無勢。その後はあっという間に彼らの食糧になってしまうだろう。
こうなると、当然いくら超常の者達の力が凄まじかろうが、発見する事はできない。
超常の者達の探索にかからないように逃走している最中に、何れかの状況に陥ったのだろうと考えるのが普通だな。
「ヨハンの力でも、何も感じないか?」
「はい、ソレイユの調査結果と同じく、フラウの魔力を感知する事ができません」
そうか、ついにこうなったか。だが、特に何か思うような事はないな。
「わかった。じゃあフラウは今はこの世界にいない……と言う事で良いな?」
「「そうなります」」
二人がそう言うのであれば、そうなのだろう。
「わかった。ヨハン、事の成り行きを、ミルハを通してガーグルさんとグリフィス国王に報告してくれ。それと、厳戒態勢を解除するように伝えるのも忘れずに頼む」
これで脅威はなくなった。
これから俺は、ナルバ町の統治やグリフィス王国の発展に力を注げる事になる。
それはそれで忙しくなるのだが、嬉しい忙しさなので文句はない。
「じゃあ問題は解決したから、今日はもう戻ってゆっくりするか。フラウと戦闘になるかと思って、今日は一日空けていたからな。おかげで自由時間ができた」
とはいえ、一応ホールとリルーナにも結果だけは報告しておいてやろうと思い、二人の元に向かった。
「よう、ホール、リルーナ。今日はちょっと話があってな」
二人は緊張した面持ちで俺の正面にある椅子に座る。
もちろんヨハンは俺の後ろに控えており、豪華絢爛な椅子を出そうとしたので止めたところだ。
「そう緊張しないでくれ。お前達の待遇が変わるような事じゃない。フラウの件だ」
言葉の前半を聞いて安堵の表情を浮かべた二人は、フラウの名前を聞いて眉を寄せた。
「あいつは、俺達の監視をかいくぐって逃走していたが、この世界全てを隈なく調査した結果、あいつの魔力は一切感知できなかった。つまり、そういう事だ。これからは、あんな奴に踊らされる心配もないだろうから、余計な緊張をしないで生活してくれ」
俺の話を聞いて、少々考えた後にホールが口を開く。
「キグスタ、一つだけ教えてくれ。あいつ、フラウは何者なんだ?」
自分とリルーナを狂わせた元凶。超常の者達すら欺く事ができていた上に、煙に巻く事ができるほどの力の持ち主。
ホールが聞きたくなるのも当然だ。
だが、それを聞きたいのは俺も同じ。申し訳ないが、何の情報も持っていない。
「悪いなホール、リルーナも知りたいだろうが、その情報は俺も持っていないんだ」
「そうか。変な事を聞いて悪かった」
一応全ての連絡はこれで終了だろうな。
こうして俺はナルバ町を後にして、ソレッド地区にある居城に戻り、妻達にもフラウについての結果を報告した。
彼女達は、ソレイユやヨハンの探知にかからないと言う報告を聞いていたようで、既に知っていた為、驚かれる事も無く報告は終わった。




